第7話 鍛治屋?元いた世界にもいたから報告しなくていいな


 アーカム市はミスカトニック河を挟んで南北に別れている。ミスカトニック大学があるのは街の南側。その西側である。

 その逆方向。東側に街一件の鍛治屋はあった。

 店主のジェイコブ・アスカー老人は普段は馬の蹄鉄しか造らない。


「ジジィ。この剣を直せ」


「おいそれ人にものを頼む態度じゃないぞ」


 フード付きマントの少女は鞘ごと折れた大剣を放り投げる。


「なんじゃあこりゃあ。見てみいこれ。折り返し何層あるんじゃあコレ。磨ぎも一体何がここまでさせるんじゃ変態じゃ変態の国じゃ」


「所詮は人間か。貴様らごときに治せるとは最初から思ってはいなかったがな。フッ!」


「いや治せるぞ」


「そうか治せるのか。では金はこのウィンゲートとかいうヤツが二万でも三万でも払うので宜しく頼む」


「支払い僕かいっ!!」


「だがこの剣を治すためにはチタン合金が必要なのじゃ」


「戦車でも造るつもりかよ爺さん」


「そうか。ではそのチタン合金とやらはどの鉱山に行けば手に入るのだ」


「いやそこらの山ツルハシで掘ってもチタン出てこないだろ」


「ペンタゴンに行けば或いは」


「そうか。ペンタゴンの連中を皆殺しにすればチタン合金が手に入るのだな」


「合衆国全部敵に回す用な事させるなよ。てか百年後にそういうヤツ現れそうだなおい」


「じゃがそれまで素手で戦うという訳にもいくまい。この店で武器を買っていくがよい」


「成る程。判った。そうさせて貰おう」


「あ。今の全部セールストークだったのか。僕こういう店で刃物買った事ないから分かんなかったわ」


 安心しろウィンゲート。君の感性は正常だ。


「じゃあこの三ドルのダガーか。あっ。こっちの二十ドルのレイピアなんかいいんじゃないの?女の子らしいデザインだし」


 フード付きマントの少女とジェイコブズ・アスカー老人は二人とも首を横にふった。


「これだから素人は」


「うむ。全く判っておらんな最近の若僧は」


「なんでだよっ!!」


 フード付きマントの少女は三ドルのノコギリを手にもった。


「これは。縄で縛った人間を切り刻むのには使える。だが今必要なのは拷問器具ではなく武器だ。こんなもので戦えば自分が敗れるのは必然的」


「ふっ。流石だなお嬢ちゃん」


「今の誉めるところなのっ!!?」


「ではこのバールの様なものはどうかの?」


「暗がりから忍び寄る胸筋と四肢の筋肉ががっしりとした人物。灯りがないので男女の別はおろか老若すらも不明。そんな人物が背後から標的の後頭部を叩き割るのに向いているな。しかし正面から戦闘にはやはり不向きだ」


「ただの殺人犯じゃないかっ!!てか灯りがなくて正体不明なのになんでがっしりとした筋肉質の男なんだよっ!!」


「物凄い勢いで刃物を持って襲ってくるからがっしりとした男だと思っていたら城の使用人全員殺害したのは車椅子に座った老婆だったとかそういう可能性もあるじゃないないか。やはり貴様は素人だなウィンゲート」


「ではこのランスはどうじゃ?」


「なんでそんなもの売ってんだよ!!」


「正面からの破壊力に特化し過ぎているな。威力は申し分ないが。これだけで戦えというのは無理がある」


「ではこの鉄斧ならば?」


 フード付きマントの少女は手斧を持って二度三度素振りしてみた。


「悪くないな。扱い易く威力もまあまあ。狭い屋内でも振るえる。マントの中にも隠せる」


「斧とランスを合わせて二百五十ドル。如何かな」


「おいなんか価格ボッてない?」


「それで良い。支払いはこの人間がするので」


「うむ、それと普段ワシは馬の蹄鉄造りをしておるからな。新しい靴を買ったら持ってくるがよい。靴底に鉄板を仕込んでやろう」


「わかった。じゃあ支払いはこいつで」


「だから僕を財布にするなよっ!」


 鍛治家を後にしたウィンゲートはフードの少女を連れてダイアー教授から渡されたメモ通りの買い物をした。

 毛布とかばん十ドル。ネグリジェ七ドル。ドレス十一ドル。上着とスカート一式二十二ドルが五セットうち三セットは後日配送。帽子三ドル七十セント。靴下三セット二ドル三十セント。

 安物の外套四十ドル。高いのもあったがフード付きマントの少女はこちらの安い方をいたく気に入ったためこちらに。

 買い物途中で氷を入れたらワゴンでコーラを販売中の屋台を発見する。休憩がてらに購入を


「へい!そこのチャイニーズ!コーラはいかが?ベリベリオイシー三ドル!」


「コーラ?コーラだと?そんなものみたことないな?いったい如何なるモノなのだ?」


「おいおまえボッたくり価格で売りつけるんじゃねー!それ三十セントもしねーだろ!」


「二人分二本で六十セントなお兄さん。当然買うんだろ?」


「う、わ、わかったよ」


 渋々ながらも金を払うウィンゲート。


「マイルズ様この世界には氷の魔術を使う者がおります。氷でビンに入れた飲み物を冷やして道端で売っております」


(そうか。引き続き調査を続けるがよい)


 フード付きマントの少女はコーラの瓶を耳に充ててボソボソと喋っていた。


「おい。コーラの蓋開けとけよ。栓抜き貸してくれ」


「ほれ。ちゃんと返せよ」


 ウィンゲートはコーラの王冠を外してやった。


「これでコーラが飲めるだろ。てか初めてかな。遠慮するな」


 少女はコーラを飲んだ。


「ぶげぇ!すつまきり爽やか!」


「国際電報だとまともなメッセージ12ドルになるけど中国の家族に何か連絡するかい?」


「いらん。それよりこのコーラとかいうのをもう一本寄越せ!」


「え?まぁいいけど」

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