第6話 流石ですマイルズ様凄いですねマイルズ様

「どうやら私はこの世界すべてを支配してしまったようだな」


「はいそのようですね。マイルズ様」


 玉座に座る緑色の鎧を着た骸骨にフード付きの少女は頭を垂れて平伏していた。


「そんな緑色の鎧なんて着やがってお前はきっと弱いんですよドヤァ。なんていう人間をついカッとなってたまたまそばにあったハンガーで殴り殺してしまってから四年と一ヶ月」


 人間はハンガーで殴られると死んでしまうのだ!ニューベリーの絵本にも描かれているっ!!


「愚かな人間共もマイルズ様に支配されてさぞや喜んでいることでしょう」


「てかさ。居城ごといきなり別の世界に飛ばされたら支配できないよね。今までやったこと無意味になるよね?」


「それに気づくとは流石はマイルズ様です。我らとは頭の出来がまるで違います」


 世界を征服した。実際にはイングランド程の広さしかなく、文明レベルはシルクロード開通以前。イージーモードですらない。

 それをクリアした瞬間に魔王マイルズの居城は城ごと転移していた。現住所は周囲を海に囲まれた離れ小島。防御力の点では申し分ないであろうが明らかにそれ以外の問題が発生するのが目に見えていた。

 実際暫くするとこの城ではとんでもないことになるのだが。とりあえず交通の利便性は最悪である。

 もう少し。彼が賢明ならばこの考えに行き着いた可能性もある。

 イージーモード。ノーマルモード。ハードモード。

 取扱い説明書を読まないゲームプレイヤーの為に単に敵を踏み潰すだけのチュートリアルモード。

 ああそうだ。難易度ルナティックというのも相当なマニア向けにはあるらしい。


「マイルズ様!お喜びくださいませ!」


 玉座の間に現れるのは一人の男。もちろん魔法で姿を変化させているだけで正体は人間ではない。


「飛行魔法で偵察したところ然程離れていない所に陸地を発見致しました!」


「それは本当かトヨヒサルスよっ!!?」


「これが証拠でございます!!」


 トヨヒサルスは主君である魔王マイルズにアメリカフヨウ(アメリカ原産の植物。アメリカにしかない)を差し出した。

 魔王マイルズは。

 ゲームの知識は豊富だった!

 しかし!

 植物学の知識はなかった!

 キャベツとレタスの違いもわからない!トマトの原産国?うーん。スペインでトマト祭りがやってるって聞いた事あるからスペインやな!


「植物があるから間違いなく陸地があるな!陸地があるなら人間が住んでいるはずだ!食料には困らないはずだ!!」


「それに気づくとは流石はマイルズ様!」


「マイルズ様万歳!マイルズ様最高!!」


「では早速全軍あげての総攻撃を!」


「待てトヨヒサルス。まだ陸地があると判明しただけでどこに人間共の国があるのか。人間の村があるのか。それすらも判明してもおらぬのだぞ。この城に控えし三十万の兵を闇雲に動かせば人間共に気取られる事は明白であろう」


「なんと!その様な戦略的思考をお持ちであったとは!流石ですマイルズ様!!」


「やはり斥候の者を派遣し、人間達の動向を探るのがよかろう。丁度トヨヒサルス同様人間に化ける術に長けた物がいる」


「では私にその斥候の役を?」


「そこに宝箱がある。箱を開けて旅の支度を整えるがよかろう」


 フード付きの少女の前に宝箱が三つ。置かれていた。

 一つ目の宝箱を開けた。


「これはマッチ!このような貴重な魔法の品を授けて頂けるとは!有難うございます!マイルズ様!!」


「うむ。感謝するがいい」


 二つ目の宝箱。金貨が沢山入っていた。


「なんと!これは金貨!!」


「とりあえず一万二千枚ほど入れておいたぞ。少々足りぬかもしれぬが路銀として使ってくれ」


 三つ目。


「これは魔剣ストームブリンガー!」


「人間共の血肉を喰らいお前の糧とする剣。旅の供とするがよい」


「有難うございます!マイルズさ・・・」


 主君に礼を言おうと振り返ると。

 スーツ姿の白人男性とネズミがいた。


「ミスカトニック橋を買いませんか?料金所を建てれば貴方は大金持ちですよ」


 金貨が消えた。


「ちゅちゅー」


 ネズミが魔剣ストームブリンガーを食い千切る。


「あああああああああああああああ!!!!!!!」


 ダイアー教授の研究室のソファーで眠っていたフード付きマントの少女はシーツを跳ねのけ、身体を起こした。


「ゆ、夢・・・?」


「あー残念だけど夢じゃないかも」


 ウィンゲートは鞘ごと折れた大剣を見せた。

 うなだれる少女。


「一応教授からはそれ持って鍛冶屋行ってこいって指示受けてるけど。行くかい?」


 魔剣ストームブリンガー。

 なぜその魔法の武器が錆びついてしまったのか。アーカムが年間を通じて月降雨量が毎月七十五ミリ以上ある。だがそれ以前の問題が彼女がストームブリンガーを受け取った直後に起きていたのだ。

 フード付きマントの少女は魔剣ストームブリンガーを受け取るとマイルズの居城の厨房に向かった。そこでは人間の子供くらいの大きさの土気色の肌をした頭髪のない者達がいた。


「ごぶごぶ・・・。驚かせやがって。人間の姿をしているから危うくヤッちまうところだったぜ?」


「ここに人間の血肉があるはずだが」


「確かにあるが。つまみ食いは駄目だぜ?マイルズ様から人間共は余すことなく。血肉もすべてスープにするかソーセージにして食べる様命令されているんだ」


「食べるわけではない。実はマイルズ様からこの魔剣ストームブリンガーを賜ったのだがこれは人間の血をつけると強力になるらしいのだ」


 偉大なるマイルズ様は相手を攻撃すると自分の生命力が回復する。その剣の効果を魔王だからこういう感じに言ったらかっこええやろなぁ。そう言っただけである。

なおそれを聞いた相手がどのように解釈するかは別問題である。

 フード付きマントの少女は人の血肉が詰まった壺に魔剣ストームブリンガー(死体の肉なのでなんの意味もない)をちゃぷちゃぷと着けると。


「これでよし」


 血と油のついたまま鞘にしまった。なお、人間が刃物で人を切った場合。例えば日本のサムライの場合。とりあえず応急処置として紙で血を拭いてから鞘にしまう。そして自宅や自分の城に戻ってから丹念に磨ぎ石で磨ぐ。


「邪魔したな」


 フード付きマントの少女は厨房を後にした。

入れ違いに巨漢の青白い肌の大男が入ってきた。


「オクぅ?なんだよ仲間が人間に化けてるだけかよ?ヤッたらやっぱりマイルズ様に怒られちゃうかなぁ?」


「おい!お前知ってるか!俺達の使ってる武器や防具は人間の血に漬けると強くなるらしいぞ!」


「別に血じゃなくてもいいんじゃないかクゥ?前に刀鍛冶の里を攻めた時人間共は水につけてたから水でいいんだオ?」


「な、なんだって!水につけるだけ俺達の武器が強くなるなんて!それに気づくなんて!お前は天才だっ!!」


「それに今俺達がいる城の周りは塩の入った水だらけだオ」


「なんだって!!塩は人間共が大金を出して買うものだろ!人間の冒険者どもが金貨の代わりに貰って喜ぶくらいのものじゃないがっ!そんなものが浸み込んだ水がいくらでもあるっていうのかよっ!!」


「塩は高いから塩水に俺達の武器をつければ全部魔法の武器になるはずだオ」


「お前は天才だっ!!!」


 それからまもなく。


「マイルズ様。残念なご報告が御座います」


「人間共が攻め込んできたわけではない様だが。かなり深刻な様子だなトヨヒサルスよ」


「臣下の者達に与えた武具がすべて錆びついてしまいました。魔法の武具も性能の低下が見られます」


「何があったというのだろう?」


「手下どもに確認いたしましたが。皆武具の管理は完璧だととの返答で御座います」


「ううむ。やはり海の真ん中という特殊環境のせいだろうか。やむを得ない。見張りの者以外は普段の武器携帯を禁止する。平時は保管しておくように」


「御意」


 偉大なるマイルズ様のご指示は城内の総てのモンスター達に速やかに伝達された。


「ごぶごぶ。武器を持っちゃいけないってどうすりゃいいんだ?」


「そんなのかんたんだオ。この宝箱に入れて保管すればいいんだオ」


「お前は天才だっ!!じゃあちゃんと塩につけてから短剣をしまって」


「オレはこの斧をしまうんだオ」


 こうして、配下の者達は皆偉大なるマイルズ様の言いつけをきちんと守り、拝領した武具をきちんと手入れしてから保管していた。


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