第5話 現実世界にダンジョン→異世界のゲート→この設定ダサくね?
翌日の午前中。
ソールトンストール法律事務所のピーター・ニコルズがダイアー教授の研究室を訪問してきたのは教授がトラクターで牽引した来た石棺を研究室に運び終えた自分の頃合いであった。
フード付のマントを羽織った少女は
「二千年前の古代遺跡から発掘された遺物!!是非とも開棺に協力させて貰おうではないか!!」
少女の態度に気を良くしてダイアー教授は上機嫌であった。その影響もあるのであろう。ダイアー教授は来客に際して即座に紳士モードで対応する。
「ウィンゲート君。お客様にコーヒーをお出ししてくれ。一応人数分頼む」
「そんなヤツなどどうでもいい!早く棺桶を!」
「ウィンゲート君。彼女にキャラメルを一粒差上げたまえ」
キャラメルを投げ与えるとフードサービス付きマントの少女は少し静かにになった。
「そこの窓から運動場が見えるだろう。一週走るごごとに1粒あげよう」
「本当か?!」
「ちょっ!、?ここ三階だぞっ!!」
ウィンゲートが制止するよりも早くに迸る熱いパトスに突き動かされ、少女は窓辺から飛び立つ。さながら残酷な天使のように。
そして何事もなかったかのように馬術部所有の馬車と並走し始める。数時間もしないうちにこのミスカトニック大学の神話になるだろう。
「な、キャリッジ(人間が乗る部分)が重しになってハンデになっているとはいえ馬車に追いつくなんて!それ以前にこの高さから飛び降りて彼女は全くの無傷!!」
「何も驚くことはないぞウィンゲート君。彼女はチャイニーズなのだ。チャイニーズは全員カンフーが使えてセンドーパワーが出せるのだ。だからこれくらいは可能なのだ」
「それもそうですね教授。取り乱してすみません」
ウィンゲートは納得して着席した。
「それで本日はどんな用件で参られたのかな?」
「実はそちらのウィンゲート様にご用件があって訪問した次第で」
コーヒーを飲み干してから法律事務所のニコルソンは何も見なかったことにしようとした。
「僕にですか?」
「アーカム市郊外にある幽霊屋敷をご存知ですか?」
「噂くらいなら。うちの大学やアーカムのハイスクールの生徒が肝だめしに行ったきり何人も帰って来ないと評判のあそこですね」
「ほう?それは興味深いな!今すぐ先程のチャイニーズの御嬢さんと一緒に行ってみよう!すまんがミスターニコルズ。道案内をお願いする。そうだな。車は馬術部の馬車を借りるとしよう」
人の足より馬の脚。三十分ほどで噂の幽霊屋敷へと到着した。
「これがその幽霊屋敷かっ!素晴らしい!誰もが逆らえずにお邪魔してしまうっ!その手にカンテラを灯しながら!扉は打ち付けられ入り口は固く閉ざされ中は暗いであろう事しか想像できないっ!!この館にはどんな呪いが待ち受けているというのかっ!!!その真実を解き明かす為の歩みを止める事は誰も止める事はできないっ!!!」
ウィンゲートはダイアー教授の足をひっかけた。
「なにをするのだああああああああああああ!!ゆるさああああああああん!!!」
「英国紳士なら絶対しないような絶叫ですねダイアー教授」
「私はアメリカ人だから問題ないのだぁあ!!黒人だからという理由で窃盗の冤罪を造る警官に対してコーラの瓶で殴りかかっても問題はないっ!!なぜならば私はアメリカ人だからだっ!!!」
「とりあえず屋敷の探索は一番いい装備を用意した方がよさげな屋敷じゃないですか」
「ウィンゲート様の仰る通りです。今まであの屋敷に高価なフレスコ画があるという噂を聞いて訪れて行方不明になった者が何人もいますので」
「それならばいっそ屋敷ごと焼き払うのはどうかね?」
「当初アーカム市ではこの屋敷を放置していました。十年以上」
「いや放置すんなよ。行方不明者出てるんだから」
「しかし市の人口増加に伴い生活用水の確保が課題となり、この地区に人工池を造成して水を確保する事が閣議決定されたんです」
「実際にそういうのを考えるのは土木課の連中の仕事で政治家の仕事ははい、とうなずくだけだがな。あとは選挙対策」
「そしてこの屋敷ですが権利者を再確認したところ十年前に失踪したウィンゲート様の御父様の所有と判明しました」
「父さんって確かオーストリアの砂漠で行方不明になった」
「うむ。オーストラリア西部のグレートサンデー砂漠での生物学調査の最中に盛大な砂嵐に見舞われたのだが。その時君の父上はいきなり大きな図書館があると言い出して砂嵐の中に飛び込んでしまったのだよ」
「いったい父の身に何があったのでしょう?」
「うーん。船がボストンを出向した後途中で補給の為に南米に寄港してたからな。コカインとかやってたのかもしれない」
「麻薬ですか。じゃあしょうがないですね」
「でもまあ一応職務上の事故って事で処理しておいたから保険も出たしハイスクールと大学の学費の補助申請もすんなり通ったからね」
「ありがとう父さん」
「それでこのお父上であるナサニエル教授所有の屋敷なのですが。土地家屋併せて二万平方メートル評価額一万ドルになります。ただ相続税などがかかりますので多少は受け取り金額が目減りするかと」
「ありがとう父さん!」
ウィンゲートは書類にサインするとニコルソン弁護士に手渡した。
「一応建物内の確認をして頂きたいのですが」
弁護士は非常に言いにくそうに言った。
「別に構わないけど」
ウィンゲートは入り口を施錠している鎖についている南京錠に弁護士から受け取った鍵を突っ込んだ。
鎖を外して扉を開けると。
入り口から巨大なネズミが飛び出してきた!
「うああっ!!なんだこいつ!!」
「これは凄いな!人間の子供くらいはあるぞっ!とてもネズミとは思えないっ!!」
「なんだ貴様ら。ただのネズミではないか何を驚いている」
「頼もしいなチャイニーズのお嬢さんは。やはり連れてきて正解だった」
「待っていろ。私がそんなもの一刀両断に。い、いっとう。りょうだんに」
フード付きマントの少女は背中に背負った大剣を引き抜こうとして。
「りょ、りょうだんに。りょうだんにいいいいいいぬいいいいいいふんすっ!」
大剣は鞘ごと折れた。
「我が主君より授かりし、ま、王のちからがあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
「ウィンゲート君お嬢さんを安全なところに」
「わかりました教授」
真っ白になった少女を引きずって避難させる。
教授はスーツの内ポケットから三十八口径オートマチックを取り出すと九ミリパラペラム弾を叩き込んだ。
「やはり最新式のアメリカ製拳銃は素晴らしいな。あのような猛獣を一バーストで仕留めてしまうとは。みんな無事かね?」
「すとーむぶりんがああああああああああ」
「全員無事ですね」
「今御覧頂いた通りです。内部には照明設備もなくこのような鳥獣の住処になっています。ひょっとすると金庫などがあるかもしれませんが持ち出しは少々危険かと。一応解体期日まではウィンゲート様の自由にしてよい取り決まりになっておりますので」
「ふむ。それまで調査は自由だが準備もなしに飛び込むのは流石に危険か。一度出直すことにしよう」
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