第14話 平安姫、結婚をする


 それから、王族としては異例の早さで婚姻の準備がされ、イザベルとルイスの結婚式の日がやってきた。


 真っ白なウェディングドレスを纏ったイザベルの手には、おかめのお面が握られている。


「イザベル様、いけません!」

「じゃが、りりあんぬが良いと言った!」

「絶対にリリアンヌ様は面白がっているだけです。本気にしてはいけません!」


 イザベルとミーアがお面の奪い合いをしていれば、ルイスがやってきた。

 ミーアはその隙を狙ってお面を奪い取るとそそくさと部屋を辞した。



「イザベル、似合っている。誰にも見せたくないくらいだ」

「ならば、おかめのお面をつけようぞ!!」


 どこからともなくスペアのおかめを取り出してイザベルは嬉々として言う。


「……というのは嘘で、私の妻だと自慢して歩きたいほどだ。だから、そのお面は閉まっておこうな」


 またしても、おかめを没収されてしまいイザベルは口を尖らせた。


 (りりあんぬは、おかめのお面を最高だと褒めてくれたのに、なぜ他の者には伝わらぬのじゃ。やはり、生前の記憶の有無じゃろうか)


 そんなことを考えていればイザベルの前に影が差し、イザベルの唇にルイスのそれが合わさった。


 未だにドキドキするが、いくらか慣れ始めた口付けにイザベルはそっとルイスの背中に手を回す。


 少しの時間、口付けを交わしていた二人だが、名残惜しそうにルイスから離れた。



「ふふっ。紅がついておるぞ」


 そう言ってルイスの唇にソッと触れるイザベルは魅惑的で、ルイスは理性を総動員してグッと我慢する。


 (終われば初夜。終われば初夜。終われば初夜……)


 最早、煩悩の塊でしかないがそんなことを知らないイザベルはルイスに微笑む。


「皆が祝福してくれるなんて、楽しみじゃの」

「そうだな」



 遂に国民への顔見せの時間がきた。二人でバルコニーへと続く扉の前に立てば、イザベルは緊張で頭がくらくらとするのを感じた。


 そんなイザベルを励ますかのように、ルイスの手が繋がれる。


「イザベル。私は冷たく未熟な人間だ。人として間違えることもあるだろう。

 イザベル以外をどうでも良いと蔑ろにすることもあるだろう。それでも、私の傍にいて欲しい。共に歩んで欲しい。

 イザベル、貴女を愛してるんだ」


 繋がれたルイスの手が少し震えていることに気が付いたイザベルは、優しく包むように握り返す。


「われよりも皇太子妃に相応しい者もおるじゃろう。

 われよりも るいすの心境をおもんぱかることができる者もおるじゃろう。

 われとて同じじゃ。

 それでも、るいすと共に生きていきたい。われとて、るいすのことを愛しておる。

 共に悩み、迷いながら進もうぞ」


 視線が交ざり、微笑み合う。


 そして、二人同時にバルコニーへと足を踏み出したのだった。





ー本編ENDー




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