第12話 平安姫、狙われる
リリアンヌは可愛らしいとよく言われる顔を歪めて小さく舌打ちをした。
(よりにもよって、残ったのは
こうなったら、さっさと死んで次の人生にいくしかない)
「悪役令嬢のくせに幸せになろうとするあんたも道連れにしてやる!!」
そう言うや否や、ゼンの帯刀していたレイピアを抜いてイザベルに向かって走り出す。
リリアンヌは可愛い見た目に反して、前世ではやり投げの選手だった。そんな彼女の狙いはイザベルのみ。
護衛が近付いたのが分かったので、レイピアをイザベルに向かって投げた。
綺麗な放物線を描き、レイピアはイザベルへと飛んでいく。だが、そのレイピアも何処かから飛んできた暗器によって床へと落ちた。
カラン カラン カランッ……。
あまりの事態にイザベルはあんぐりと口を開け固まったまま、ルイスに庇うように抱き締められている。
「フォーカス子爵令嬢を捕らえろ」
ルイスの一言で、あっという間にリリアンヌは捕らえられ、床に這いつくばった状態になった。
「悪役令嬢は幸せになんてならないわよ! もがき、苦しみ、死ねばよかったと思う人生が待ってるんだから。次こそは斬首刑にしてやる!!」
床に頭を押し付けられても、リリアンヌはイザベルへと叫び続ける。
そんなリリアンヌにイザベルはルイスの腕から抜け出して目の前にしゃがみこんだ。
「りりあんぬは、あやかしにでも取り
命を狙われたにも関わらず『変』の一言で片付けたイザベルに、ルイスは目を見張った。
「われは巫女ではないからの。あやかしを
「……あんた、いつの時代の人?」
「いつ……とな?」
「あーもー! 源氏物語って知ってる?」
「紫の上の作品じゃの。あれも
イザベルとリリアンヌの二人で誰もが知らない話をしているのは異様な光景だったであろう。
だが、その声が聞こえているのは幸いにもルイスとゼン、そして取り押さえている騎士のみである。
「あんたは平安だけど、私はもっと
取り押さえられて指一本動かせないリリアンヌは視線で他の取り巻き達を見た。
だが、ゼンは首を横に振りそれを受け入れない。
「俺はリリアンヌの傍にいたい」
「だから、そういうのはもういいよ。これから先、傍にいてくれたからって欲しい言葉もあげるつもりないし」
「別にいらない。リリアンヌが笑ってくれることが俺の望みだ」
その言葉にリリアンヌは顔を歪め、困った子供を見るような視線をゼンへと向けた。
「残念だけどもうすぐ私は死ぬから、それも叶わないよ。そうでしょ? ルイス皇太子殿下様?」
「そうだな」
「駄目じゃ!!」
イザベルとルイスの声が重なり、顔を見合わせた。
「フォーカス子爵令嬢は時期王妃の命を狙った。死をもって償わせる」
「駄目じゃ。われは無事でかすり傷一つない。それに、われは、りりあんぬと今しがた友になった。友を殺させる訳にはいかぬ」
「「はぁ!?」」
ルイスとリリアンヌの気持ちは一つとなった瞬間だった。
「命を狙ったやつと友になどなれるわけないだろ!」
「そうよ。あんた、どっかおかしいんじゃないの? 私が生きてたら危ないって思いなさいよ! ここは私が全ての罪を被って死んで
リリアンヌの発言にイザベルは首を傾げ、ルイスにしか聞こえないように呟いた。
「りりあんぬを使って、随分と自分の良いようにしようとしてるようじゃの。じゃが、あれを殺せば、われは生涯るいすに心許すことはない」
「何のことだ?」
「分からぬなら、それはそれで良い。われと話す気がないということじゃな」
ルイスがイザベルに白旗を上げた瞬間だった。
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