第11話 イザベル、戦いを挑まれる

 その頃、ルイスとイザベルはというと仲むつまじく腕を組み、貴族達からの挨拶を順番に受けていた。


 イザベルは自身を醜いと思い込んでおり、話し言葉が他の人とずれてしまっていることを自覚しているので最小限の会話に留めていた。

 それでも出会う人 全てに美しいと褒めてもらうことで、容姿への劣等感は少しずつ薄まっていく。


 そんな最中、小柄で可愛らしい容姿の令嬢がこちらへとやってくる。

 けれど、その令嬢の容姿もイザベル基準では決して可愛いものではないため、イザベル自身は特に何とも思わなかったのだが。



「ルイス様!!」


 ルイスを呼ぶその姿に会場中の視線が彼女へと向けられた。


「これは、フォーカス子爵令嬢。そのように私の名を気安く呼ぶのは止めてもらおうか」


 既にリリアンヌへの想いは何もないと周囲に分かるようにルイスは言った。


「そんな、他人みたいに呼ばないで! 私とルイス様の仲でしょう?」

「私と貴女は他人だが? 何を勘違いしているのか知らないが、最初から貴女は特別な間柄ではなかった」

「そんな……」


 大きな瞳に涙をいっぱい溜めたリリアンヌは庇護欲をそそるのだろう。取り巻きの宰相の子息や騎士団長の子息等、五人の高貴な子息が慰めている。


「ありがとう。私、負けないわ」


 (いったい、何と戦っておるのじゃろう。それにしてもおのこをあんなに引き連れて、ふしだらな女じゃのう)


 他人事のようにルイスにくっついたまま様子を見ていたイザベルをリリアンヌは睨み付けた。


「イザベル様! 今までの嫌がらせは全て許してあげます。だから、ルイス様を解放してください!!」


 (……戦う相手はわれであったか!!)


 と驚きながらもイザベルは曖昧に笑う。そして、リリアンヌとのイザベルの記憶を思い出す。


 (そもそも下級貴族であるのに礼儀のなってない、りりあんぬにも原因はありそうじゃな。まぁ、以前のわれも悪いのだが。

 仕方があるまいの。るいすと恋仲にあったのは事実のようじゃし、認めてやるか)


「よし、分かった。りりあんぬ、そなたをめかけとして、われは認めよう。これで良いか?」


 その言葉に会場内はこおりついた。


「イザベル、何を言ってるんだ?」

「あれは、るいすのお手付きなのじゃろう?」

「ついてない!!」

「そうか? ならば、われとあの女の勘違いか?」


 真っ直ぐに見詰めてくるイザベルに流石のルイスも言葉が詰まった。だが、ここでルイスも引くわけにはいかない。

 そこにリリアンヌが今だ! とばかりに叫びだす。


「ルイス様は、私を愛しているのよ!! ルイス様を想うのであれば、イザベル様は身を引いてください!!」


 こてりと首を傾げてルイスをイザベルは見る。その姿は「そうして欲しいのか?」と聞いているようでルイスは内心慌てていた。


「私はフォーカス子爵令嬢を愛したことなど一度もない。勘違いをされては困るのだが」

「でも、私といると楽しいって……。それに、イザベル様といるよりも私といる方が心が安らぐと言ってたじゃない」

「それは、変わる前のイザベルの話だ。私はイザベルを愛している。イザベル以外を娶るつもりもない」

「嘘よ!! そんな高慢な女のどこがいいのよ。私の方がいいじゃない。欲しい言葉をあげたでしょう? 私といると満たされるでしょう? これからもルイスの欲しい言葉を行動をあげるわ! 私には貴方の全てが分かっているんだもの!!」


 肩で息をしているリリアンヌの呼吸の音までも聞こえそうな程に会場内は静まり返った。


「りりあんぬ、そなたは阿呆あほうじゃの」

「そんな変な話し方してるあんたになんか言われたくないわよ!! 何で急にゲームから外れるの? 信じらんない!! 今までの苦労が全部水の泡じゃないの」

「話し方はすまんの。あと、何を言いたいのか、われには分からぬ。じゃが、りりあんぬが阿呆で、数多の男を侍らせて喜ぶふしだらであることだけは分かった。周りを見回してみい、そなたのしたことの大きさが分かる」


 その言葉にハッとしてリリアンヌが周りを見れば、取り巻き達もが距離をとっている。唯一、リリアンヌの傍に残ったのは騎士団長の子息のみだ。


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