第9話 平安姫、捕まえる


 着物風のドレスを纏い、髪を結い上げ、今までとは違う薄めの化粧をし、低めのヒールの靴を履き、装飾品は髪以外はあえて外した。

 しっかりと準備が終えた頃、ルイス皇太子殿下が迎えに来た。舞踏会に参加するのに迎えに来たのは実は初めてのこと。

 イザベルを面倒に思っていたルイスは現地集合、現地解散を基本としていた。


 今までのイザベルとは違う。そう分かっていたルイスだが、イザベルの姿を見て度肝を抜かれた。


「あの、いかがでしょうか?」


 恥じらいながら俯くイザベルのうなじが艶かしくて、視線が外せない。


「……あぁ、いいんじゃないか?」


 何とも気の利かない答えに、しゅんと落ち込むイザベルも可愛くて、このまま閉じ込めて朝まで二人で過ごしたいという欲求が沸き上がる。

 だが、これから行く舞踏会でイザベルとの仲を見せつけ、周りを牽制し、さっさと婚姻まで漕ぎ着けることが先決だと気持ちを切り替える。何より、イザベルを落ち込ませたままでいるわけにはいかない。


「すまない。あまりの美しさに緊張してしまい、冷たい態度をとってしまった。イザベル、きれいだよ。可愛すぎて誰にも見せたくないくらいだ」


 その言葉に、パアッとイザベルは無邪気な笑顔を見せた。始めて見るイザベルの表情にルイスは胸の高鳴りを感じた。


 けれど、それに気が付かないふりをして、イザベルが馬車に乗るのをエスコートしてから隣に座る。



「見たこともないドレスだ。とても似合っている。誰のデザイン?」

「われと、みーあで考えて職人に作って頂いたのじゃ」

「イザベルと侍女のミーアで?」

「われはもっと露出の少ないのが良かったのじゃが、みーあがこの方が良いとアドバイスをくれての。るいすは、その……肌が見えているのは好きか?」


 打算のない上目遣いの破壊力は凄まじい。このことをルイスは初めて知ることになった。


「それは、その人の好みによるんじゃないかな」

「われは、るいすの意見を知りたいのじゃ!!」


 逃げの一手をとったルイスだが直球のイザベルは真っ直ぐに再度問いかける。


「どうして、イザベルは私の好みが知りたがるんだ?」

「……るいすが喜んでくれなければ意味などない。われは、少しでも るいすに好いてもらいたいのじゃ。……迷惑かの?」


 (これは、もう逃げられない。捕まってしまったな)


 散々イザベルを自分のものにしようと今日まで計画を立て、ヒロインを捨て、外堀を埋めてきたにも関わらず、ルイスは自身の判断が鈍るのではないかと気が付かないふりをし続けてきた。


 (まさか、私が恋をするとはな)


 自嘲気味に笑いながらも満更ではないことが自身でも分かっていた。



「イザベル、とても私の好みだ。もう、離してやれないから覚悟しておけ」


 そう告げるとルイスはイザベルに口付けた。


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