第8話 平安姫、耐える
それからまた少し時が経ち、今日は舞踏会の日だ。
今のイザベルの好みとミーアのアドバイスで作られた桜色のドレスを着たイザベルは、今すぐにでも布団に潜り込んで隠れてしまいたい衝動に耐えていた。
「これは肌が見えすぎではないかの。われは
「何言ってるんですか? 以前はもっと露出されていたじゃないですか」
「うぐぅぅ……」
「お綺麗ですよ。世界中の誰よりも」
「みーあ……」
「だから、その変なお面をつけようとするの止めてくださいー!!」
「みーあ、返すのじゃ!! ほら、いい子じゃから」
イザベルは奪われたおかめのお面を取り返そうと懸命に手を伸ばす。だが、次のミーアの言葉でピタリと動きを止めた。
「お面をしたら、髪も崩れちゃいますよ」
「それはならぬ」
意外にもあっさりと手を引っ込めて諦めたことにミーアは目を瞬かせた。
「……いいんですか?」
「みーあが結い上げてくれた髪が崩れるのじゃろ? ならば、諦めるしかあるまい」
(でも、あんなにお面に執着してたのに?)
そんなミーアの疑問に気が付いたのだろう。イザベルは言葉を付け足していく。
「われがうねうねした髪を嘆いたから、われのためにと、みーあがしてくれたものじゃ。お面も大事じゃが、それよりも大切なものもある」
「イザベル様……」
「じゃが、肌の露出はちと抑えられぬかの?」
折角の感動の場面をぶち壊しながら、イザベルは胸元を見た。
イザベルのドレスは今までのイザベルのように胸を強調するものではない。
だが、鎖骨が見えているデザインは中身が平安姫のイザベルにとって恥ずかしさしかない。
「イザベル様のご希望通り、着物でしたっけ? 袖をほらこんな変わった形にしましたし、足も見えませんよ。ちょっとくらい肌を見せるのはサービスです」
「さーびす?」
「はい。男の人はうなじや細い首、鎖骨なんかでもドキッとするらしいですよ」
ドレスの形は、桜色の着物をはだけさせたようにし、スカート部分はマーメイドラインになっている。腰はシャンパンゴールドの帯のようなもので思考を凝らして豪華に結びあげている。
今のイザベルは胸を強調するわけでもスカート部分にスリットを入れて足を露出するわけでも、背中が大きく開いたドレスを着ているわけでもない。
少しだけ溢れんばかりのイザベルの胸の谷間は見えているが、他の露出はない。他の令嬢と比べても露出は少ないくらいだ。
(隠すことによって溢れる色気ってあるのね……)
などと感心していれば、ミーアはイザベルの戸惑うような視線を感じた。
「……るいすも、どきっとしてくれるかの?」
「もっ、もちろんですとも! 今のイザベル様を見てドキッとしない男性なんて、不能か、少女趣味か、男色家しかいません!! このミーア、命を懸けて保証いたします!!」
「いや、命は大切にした方が良いぞ」
突っ込みどころがずれてはいるものの、ミーアが興奮し出したことにより冷静さを取り戻したイザベルはそろそろ諦めることにした。
ルイスにドキッとして欲しいというのが大半だが、今更ドレスを変えるなんてことはできないのだと分かっていたからだ。
「皇太子殿下、喜んでくれるといいですね」
「うむ……」
頬を赤らめて俯くイザベルは冗談抜きに世界一可愛いとミーアは思った。
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