第22/23話 決着

「それじゃあ、ラウンド11を開始しましょう。まずは、懸賞ポイント数を決めるわね」

 そう言うと、嬰佐は、アワード・ダイスを茶碗の中に投入した。それは、ごろんごろん、という音を立てながら、転がり回った。

(おれは、あと、1SPでも獲得すれば、勝利が確定する……ならば、懸賞ポイント数は、少なければ少ないほど、いい。もし、アクションに失敗した場合でも、臼場に、あまり差を縮められずに済むからな……)

 そう脳裏で呟いたところで、アワード・ダイスが停止した。

 出目は【6】だった。嬰佐が、「……懸賞ポイント数は、6SPよ」と言った。

(なんだって……?!)龍東は両目を瞠った。(これじゃあ、おれと臼場との所持ポイント数の差なんて、関係ない──このラウンド11でアクションに成功したプレイヤーが、このギャンブルに勝利することになる……! クソ……厄介だな……!)

「次に、挿入者を決めるわね」

 そう言うと、嬰佐は、インサーター・ダイスを茶碗の中に投入した。それは、ごろんごろん、という音を立てながら、転がり回った。

(頼む、【龍】の目が出てくれ……!)龍東は、ごくり、と唾を飲み込んだ。(おれには、クレアヴォイアント・オクルスがある……挿入者としてのアクションになら、必ず成功するんだ……!)

 そう胸内で呟いたところで、インサーター・ダイスが停止した。

 出目は【龍】だった。嬰佐が、「臼場くんは、設置者、龍東くんは、挿入者よ」と言った。

(よし……!)龍東は、鼻を大きく膨らませた。

「それじゃあ、臼場くん、二号室に行きましょう」

 それから数分後には、虎義は、アクションを完了させた。龍東は、二号室に移動すると、アクションエリアに入り、白テーブルの南辺の前に立った。

「それじゃあ、龍東くん、アクションを開始してちょうだい」嬰佐は、そう言うと、タイマーをスタートさせた。

 龍東は、あらためて、電源タップに設置されているアダプターに視線を遣った。形は直方体で、色は白、大きさは、電源タップの左右の端から、ぎりぎりはみ出さない程度だ。左右の側面には、製品名らしき「LIN」というロゴが描かれていた。

(さっそく、勝利を確定させるとするか……)

 そう心中で呟くと、龍東は、C箱から、ケーブルを一本、取り出した。それのVTCコネクターを、スピーカーに接続する。

 その後、彼は、右手でUSBコネクターを摘まみ、左手でLINアダプターの前後の側面を持った。それから、コネクターの先端を、ポートの蓋に近づけていき、それの数センチ手前あたりで、停止させた。

 それから、龍東は、クレアヴォイアント・オクルスの透視機能を作動させた。ぎゅううっ、と右目に渾身の力を込め始める。ポートの中を、じいいっ、と凝視した。

(真っ白に塗り潰された長方形、みたいな物が、今回は、内部空間の上半分に位置している……これこそが、ポート凸部に違いない。つまり、このポートは、表向きになっている……!)

 そう脳裏で呟いた後、龍東は、右瞼を、五回、高速で瞬かせた。透視機能が終了し、視界が通常状態に戻った。

(それじゃあ、挿入するとしよう……)彼は、思わず、くくく、という笑い声を上げた。(このギャンブル、おれの勝ちだ……!)

 龍東が右手に摘まんでいるコネクターは、すでに、表向きになっていた。彼は、それの先端で、ポートの蓋を押し開けると、内部へ進入させていった。

 がきっ、という鈍い音が鳴って、コネクターは、それ以上は動かなくなった。

「な……?!」

 龍東は、あんぐり、と口を全開にした。右手を、引いては突き出し、引いては突き出す。しかし、そのたびに、コネクターは止まって、がきっ、がきっ、という音を立てた。

「龍東くん、挿入失敗ね」そう嬰佐が言い、タイマーをストップさせた。「アクションを成功させたのは、臼場くんよ。臼場くんには、6SPを進呈するわ」


「これで、臼場くんの所持ポイント数は、18SP──目標ポイント数に達したわ。よって、このギャンブルは、臼場くんの勝ち」

 臼場虎義は、そう嬰佐が言ったのを聴いて、思わず、「よっしゃああっ!」と大きく叫び、大きくガッツポーズをした。

 嬰佐は目を細めた。「それじゃあ、スタンダード・ハンドレッドと、ドロップ・マルチのカード、持ってくるわね」白テーブルの北辺から離れようとした。

「嬰佐さま、お待ちください」菱門が、そう言った後、虎義に視線を向けてきた。「わたしと一緒に、オーディエンスエリアに移動しましょう。その後は、引き続き、わたしが、嬰佐さまを警護します」

「わかったわ」

 嬰佐は、そう返事をして、こくり、と頷いた。それからは、菱門に言われたとおり、二人で、オーディエンスエリアに向かって移動し始めた。

(これで、スタンダード・ハンドレッドは手に入るし、ドロップ・マルチのカードは取り戻せる……万々歳だ……!)人の目さえなければ、諸手を上げているところだった。(あの作戦、成功して、本当によかった……!)

 その後、嬰佐と菱門は、オーディエンスエリアに入ると、そのまま、二号室を出て行った。

「勝ちました、勝ちましたよ、虎義さん!」瑠子が、満面の笑みを浮かべながら、弾んだ調子の声で言った。「これで、スタンダード・ハンドレッドも、ドロップ・マルチのカードも、わたしたちの物です!」

「ああ、そのとおりだ!」虎義も、瑠子に負けないくらいの笑みを浮かべながら、瑠子に劣らないくらいに弾んだ調子の声で言った。

 その後、二人は、「具体的に、スタンダード・ハンドレッドを、どう使用するか」という件や、「今後は、ドロップ・マルチのカードを、どう保管するか」という件など、さまざまな雑談を交わし始めた。ギャンブルが終了した、という解放感や、ギャンブルに勝利した、という高揚感などのせいで、軽い興奮状態に陥っていた。

 彼らの会話がひと段落したタイミングを見計らって、鳥栖栗が、「お嬢さま」と瑠子に話しかけた。「今のうちに、一号室に移動しておきましょう」

「あ……すみません、そうですね、そうしましょう」瑠子は、こくこくこく、と首を縦に振った。

 鳥栖栗は、部屋にいる、他の人たちを見回した。「では、最初に、お嬢さまと臼場さま、須梶さま、わたしが、一号室に移動します。龍東さまと利根井さまは、その後に、移動してきてください」ぎろり、と龍東を睨みつけた。「それで、かまいませんね?」

 彼は、ひどく機嫌の悪そうな顔をしていた。虎義としては、普段なら、「関わり合いになりませんように……」と怯えるのだろうが、今は、多幸感のせいで、「ざまあ見やがれ!」と勝ち誇っていた。

「わかったよ……」

 龍東は、吐き捨てるような調子の声で、そう言った。

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