第14/23話 不慮
「それじゃあ、ラウンド5を開始しましょう」
嬰佐は、そう言った後、アワード・ダイスとインサーター・ダイスを振った。結果、懸賞ポイント数は1SP、虎義は挿入者、龍東は設置者となった。
「それじゃあ、龍東くん、二号室に行きましょう」
その後、嬰佐と龍東、菱門は、二号室に移動した。それから数分が経過したところで、西壁の出入り口から、菱門が姿を現した。
「龍東さまのアクションが完了しました。臼場さん、来てください」
(よし、行くか……)
そう心中で呟くと、虎義は、左手の小指から、ティッシュを取り去った。その後、それは、くしゃくしゃに丸めて、ズボンのポケットの底に突っ込んだ。すでに、血は止まっていた。
それから、虎義は、二号室に移動した。アクションエリアに入り、白テーブルの南辺の前に立った。
「それじゃあ、臼場くん、アクションを開始してちょうだい」そう言うと、嬰佐は、タイマーをスタートさせた。
虎義は、あらためて、電源タップに設置されているアダプターに視線を遣った。形は直方体で、色は白、大きさは、電源タップの左右の端から、少しはみ出さしている程度だ。左右の側面には、製品名らしき「VAN」というロゴが描かれていた。
(よし……これも、VANアダプターだ……!)彼は万歳三唱をしたい衝動に駆られた。(……せっかくのVANアダプターなんだから、懸賞ポイント数、もっと多いほうがよかったが……まあ、いいか。たった1SPでも、所持ポイント数は、目標ポイント数に、確実に近づくのだから……)
そんなことを脳裏で呟きながら、虎義は、アクションの準備を行った。C箱からケーブルを一本、取り出して、それのVTCコネクターを、スピーカーに接続する。
(このラウンドでも、ラウンド4と同じように、考えを巡らせるフリをして、時間を稼ぐことにしよう……とりあえず、先に、ポート向き、確認しておくか)
そう胸内で呟くと、虎義は、右手にコネクターを持ち、左手でVANアダプターの前後の側面を掴んだ。その時、さりげなく、左手小指で、アダプターの裏面、彼から見て左上隅を、さっ、と撫でた。
そこには、シールが貼られていなかった。
(ということは、ポートは、裏向きだ……!)
虎義は、笑い出しそうになるのを、必死に堪えた。右手のコネクターを白テーブルの上に置き、左手をVANアダプターから離す。それからは、腕を組んで、考えを巡らせているフリをした。
その後、しばらくして、タイマーのディスプレイに表示されている値が、「00:30」を下回った。
(……そろそろ、いいかな)
そう心中で呟いて、虎義は腕を解いた。左手で、VANアダプターの前後の側面を持ち、右手で、コネクターを摘まむ。その後、それの先端を、ポートに近づけていった。蓋を押し開け、内部へと進入させていく。
がきっ、という鈍い音が鳴って、コネクターは、それ以上は動かなくなった。
(……?!)虎義は、瞼と鼻孔と口を全開にした。
「臼場くん、挿入失敗ね」嬰佐は、タイマーをストップさせた。「本ラウンドにおけるアクションの成功者は、龍東くんよ。龍東くんには、1SPを進呈するわ。それじゃあ、みんな、一号室に戻りましょう」
そう言われて、虎義は、右手のコネクターを白テーブルの上に置き、左手をVANアダプターから離した。その直前に、もう一度、アダプターの裏面、彼から見て左上隅を、左手小指で、さっ、と素早く撫でた。
その後、虎義は、一号室に移動した。茶テーブルのディスプレイに表示されている値は、「臼場 所持ポイント数」の下が「06」、「龍東 所持ポイント数」の下が「13」となっていた。
最後に、嬰佐が、二号室から出てきた。彼女は、茶テーブルに近づくと、ラウンド5で使用されたアダプターとケーブルを、U箱に入れた。「それじゃあ、ラウンド6を開始しましょう」と言う。
(……ラウンド5の、あれは──おれがアクションに失敗したのは、なぜだ……? あのVANアダプターの裏面の右上隅には、シールが貼られていなかった……それは、間違いない。さっき、左手をアダプターから離す前に、それの裏面の左上隅を、左手の小指で撫でておいた……その時も、やはり、シールの存在は、感じられなかった。
だからこそ、おれは、ポートは裏向きである、と判断したんだ。しかし、実際には、表向きだった……これは、いったい、どういうことだ?
おれが、シールを貼る時、位置を間違えた、ということは、ありえない……それだけは、やらかさないよう、とても注意していたからな)
虎義が、そんなことを考えている間に、嬰佐が、アワード・ダイスとインサーター・ダイスを振っていた。結果、懸賞ポイント数は1SP、虎義は挿入者、龍東は設置者となった。
「それじゃあ、龍東くん、二号室に行きましょう」
そう嬰佐が言った後、彼女と龍東、菱門は、その部屋に入った。扉は、ばたん、と閉められ、がちゃり、と施錠された。
(……どうして、ラウンド5では、VANアダプターの裏面の右上隅に、シールが貼られていなかったのか? その原因としては、二つの候補がある。
一つは、シールが自然に剥がれてしまった、というケース。別に、シールには、とても強力な接着剤が使われている、というわけでも、龍東は、設置者としてのアクションを行う時、各種のアダプターを丁寧に扱っている、というわけでもない……シールが自然に剥がれてしまう、というハプニングは、じゅうぶん、起きうる。
もう一つは、龍東がシールを剥がした、というケース。つまり、龍東は、「臼場が、VANアダプターの裏面の右上隅にシールが貼られているかどうか、を目印にして、ポート向きを判断している」ということに、気がついているんだ。そこで、それを逆手にとって、シールを剥がした後、ポートを表向きにして、アダプターを設置した……おれが、「裏面の右上隅にシールが貼られていない、ということは、ポートは裏向きだ」と、誤って判断するように。
どっちだ……いったい、どっちのケースが、実際に起きたんだ?)
その後も、虎義は、考えを巡らせていった。しかし、どうしても、結論が出せなかった。
そのうちに、二号室の扉が、がちゃり、と開錠され、がちゃっ、と開けられた。そこからは、菱門が姿を現した。
「龍東さまのアクションが完了しました。臼場さん、来てください」
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