第12/23話 口先
「それじゃあ、ラウンド3を開始しましょう。まずは、懸賞ポイント数を決めるわね」
そう言うと、嬰佐は、アワード・ダイスを茶碗の中に投入した。それは、ごろんごろん、という音を立てて転がり回った後、止まった。
出目は【1】だった。彼女が、「懸賞ポイント数は、1SPよ」と言った。
(ということは、このラウンド3で、龍東がアクションに成功すれば、やつの所持ポイント数は、12SPとなる……ひいては、目標ポイント数である18SPに、手がかかる。ラウンド4以降、懸賞ポイント数が6SPとなったラウンドにて、もし、やつがアクションに成功した場合、やつの勝利が確定してしまう。
そんな状況は、ひどい精神的負担となる……それを避けるためにも、できれば、このラウンド、アクションに成功したい……!)
その後、嬰佐は、アワード・ダイスを取り出してから、インサーター・ダイスを振った。結果、虎義は挿入者、龍東は設置者となった。
それから数分後、龍東がアクションを完了させた。虎義は、二号室に移動すると、アクションエリアに入り、白テーブルの南辺の前に立った。
「それじゃあ、臼場くん、アクションを開始してちょうだい」そう言って、嬰佐は、タイマーをスタートさせた。
虎義は、あらためて、電源タップに設置されているアダプターに視線を遣った。形は直方体で、色は白、大きさは、電源タップの左右の端から、ぎりぎりはみ出さない程度だ。
(さて……とりあえず、挿入するコネクターの向きについて、考えを巡らせる前に、先に、ケーブルの準備を──)
「おい、臼場!」
龍東の声が、思考を遮った。虎義は、顔を左に向けると、オーディエンスエリアにいる彼に、視線を遣った。
「何だよ?」
「なあに、ヒントをやろうと思ってな」龍東は、嘲笑するような表情をしていた。「おれは、アダプターを設置する時、ポートを表向きにしたぞ」
虎義は、思わず、左右の瞼を全開にした。しかし、数秒後には、元の位置に戻していた。
(なにが、ヒントだ……本当のことを言うわけがない。嘘に決まっている)
そう脳裏で呟くと、虎義は、顔を前に向けた。電源タップに挿し込まれているアダプターに、視線を遣る。
(……あるいは、あえて、本当のことを言っているのかもしれないな。おれが、「やつの言ったことは、嘘に決まっている」「つまり、ポートは裏向きになっている」と考えることを見越して……)
その後、虎義は、腕を組むと、龍東の発言内容について、あれこれと考えを巡らせた。
(うーん……結論が出せないな。はたして、やつは、本当のことを言ったのか、それとも、嘘を吐いたのか?)
虎義は、一瞬だけ、龍東に視線を遣り、様子を観察してみた。しかし、龍東は、相変わらず、顔に冷笑を浮かべながら、虎義を眺めているだけだった。
(……待てよ……このアダプターのポート向きは、やつ自身にもわからない、という可能性もあるな。つまり、おれがラウンド2で行ったのと、同じ作戦だ。あえて、ポート向きを確認しないまま、アダプターを設置する、という作戦。うーん……)
その後も、虎義は、考えを巡らせていった。結論を出したのは、タイマーのディスプレイに表示されている値が、「00:50」を下回った頃だった。
(よし……コネクターは、表向きで、ポートに挿入しよう。龍東の言ったことは、たぶん、真実だ。
この、龍東の、「相手にポート向き情報を伝える」という作戦……ラウンド3でしか行わない、とは限らない。もしかしたら、やつは、ラウンド4以降でも、自分が設置者となった場合、同じ作戦を行うかもしれない。
そう考えると、龍東にとって、一つ、よく検討しなければならない点がある。「真の情報と偽の情報を、どのように混ぜ込むか?」という点だ。例えば、仮に、ラウンド4からラウンド8まで、ずっと、龍東が設置者になったとして、毎回、偽のポート向きを伝える、というわけにはいかないだろう……一回くらい、真のポート向きを伝えておいたほうが、おれを惑わせられる。
だが、真のポート向きを伝えるのは、偽のポート向きを伝えるより、はるかに度胸が要る。なにせ、本当のことだからな……。もし、その後、おれにアクションに成功されたら、目も当てられない。「ポート向き情報なんて、伝えなければよかった」と後悔する羽目になる。
つまり、やつは、こう考えるのではないか? 「精神的な余裕があるうちに、真のポート向きを伝えておこう」「現時点なら、もし、臼場がアクションに成功したとしても、まだ、あまり動揺せずに済む」と……)
そう胸内で呟きながら、虎義は、C箱に手を入れた。そこから、適当なケーブルを一本、取り出す。
(今、おれの所持ポイント数は0SP、龍東の所持ポイント数は11SP……大差だ。さらには、このラウンド3において、懸賞ポイント数は、たった1SP……おれがアクションに成功したところで、所持ポイント数の差は、ほとんど縮まらない。
すなわち、現時点において、やつは、かなりの精神的余裕を持っているわけだ。だが、今後は、どうなるかわからない。もしかしたら、おれが、大量にポイントを獲得して、所持ポイント数の差を、一気に縮めるかもしれない。
つまり、龍東は、こう考えるのではないか? 「今のうちに、真のポート向きを伝えておこう」と……)
そう心中で呟きながら、虎義は、VTCコネクターをスピーカーに接続した。その後、左手で、アダプターの前後の側面を持ち、右手で、USBコネクターを摘まんだ。
(よし……コネクターは、表向きにして、挿入しよう……!)
そう脳裏で呟くと、虎義は、コネクターの先端を、ポートに近づけていった。それの蓋を押し開け、内部へと進入させていく。
がきっ、という鈍い音が鳴って、コネクターは、それ以上は動かなくなった。
(う……!)虎義は、顔を顰めた。
「臼場くん、挿入失敗ね」嬰佐は、そう言って、タイマーをストップさせた。「本ラウンドにおけるアクションの成功者は、龍東くんよ。龍東くんには、1SPを進呈するわ。それじゃあ、みんな、一号室に戻りましょう」
虎義は、白テーブルから離れた。西壁の出入り口に向かって、すたすた、と歩いていく。その間に、嬰佐は、電源タップからアダプターを取り外していた。
(クソ……ポートは、裏向きになっていたのか。龍東は、偽のポート向きを伝えてきていた、というわけだ……)
しばらくして、虎義は、一号室に入った。茶テーブルのディスプレイに表示されている値は、「臼場 所持ポイント数」の下が「00」、「龍東 所持ポイント数」の下が「12」となっていた。
最後に、二号室から出てきたのは、嬰佐だった。彼女は、茶テーブルに近づくと、ラウンド3で使用されたアダプターとケーブルを、U箱に入れた。
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