第11/23話 不知
「それじゃあ、ラウンド2を開始しましょう。まずは、懸賞ポイント数を決めるわね」
そう言うと、嬰佐は、アワード・ダイスを茶碗の中に投入した。それは、ごろんごろん、という音を立てて転がり回った後、止まった。
出目は【6】だった。彼女が、「懸賞ポイント数は、6SPよ」と言った。
(今度は、6SPだと……?!)虎義は、目を大きく瞠った。(もし、おれがアクションに成功すれば、おれの所持ポイント数は、龍東の所持ポイント数を上回る……!
……逆に、もし、おれがアクションに失敗すれば、龍東の所持ポイント数は、11SPになってしまう……対して、おれの所持ポイント数は、0SPのまま。圧倒的な差をつけられることになる……なんとしてでも、アクションに成功しないと……!)
嬰佐は、茶碗の中から、アワード・ダイスを取り出し、茶テーブルの上に置いた。「次に、挿入者を決めるわね」と言って、今度は、インサーター・ダイスを投入する。それは、ごろんごろん、という音を立てて転がり回った後、止まった
出目は【龍】だった。彼女が、「臼場くんは設置者、龍東くんは挿入者よ」と言った。
「それじゃあ、臼場くん、二号室に行きましょう」
そう言いながら、嬰佐は、インサーター・ダイスを、茶碗の中から取り出して、茶テーブルの上に置いた。その後、東壁の出入り口を通って、二号室に入った。
虎義も、その後に続いた。扉を、ばたん、と閉め、がちゃり、と施錠する。それから、アクションエリアに入ると、白テーブルに向かい、それの南辺の前に立った。嬰佐は、すでに、白テーブルの北辺の前に立っていた。
「それじゃあ、臼場くん、アクションを開始してちょうだい」
嬰佐が、そう言って、白テーブルの上に置かれているタイマーのボタンを、ぽちっ、と押した。ディスプレイに表示されていた、「05:00」という値が、一秒ごとに、「04:59」「04:58」「04:57」と減っていった。
(さて……おれは、どういうポートの向きで、アダプターを設置したらいいんだ? 表向きか、それとも、裏向きか?)
そう脳裏で呟いた後、虎義は、その問題について、考えを巡らせ始めた。しかし、なかなか、結論が出なかった。どちらでも、大して変わりない気がする。それだけに、どちらにすべきか、決められない。
(うーん……とりあえず、先に、アダプターを用意しておこうか……)
そう胸内で呟くと、虎義は、白テーブルの上に置かれているA箱に視線を遣った。その中には、さまざまな見た目のアダプターが入れられていた。白い立方体、というシンプルな物もあれば、色はショッキングピンク、上面はアルファベット「N」の形、という派手な物もあった。
いずれのアダプターにも、二つの共通点があった。一つ目は、ポートに蓋が設けられている、という点。二つ目は、アダプターの上面が点対称な形をしている、という点だ。
二つ目の点は、上面の形からポート向きを推測されることを防ぐための配慮だった。例えば、上面が「A」という非点対称な形であるならば、ポートが表向きである場合は、アダプター向きは「A」、ポートが裏向きである場合は、アダプター向きは「∀」となってしまう。しかし、上面が「N」という点対称な形であるならば、ポートが表向きである場合は、アダプター向きは「N」、ポートが裏向きである場合も、アダプター向きは「N」となる。
(そうだなあ……「VANアダプター」以外なら、何でもいいんだが……)
虎義は、そう心中で呟きながら、A箱に右手を入れた。がさごそ、と探り始める。VANアダプターとは、左右の側面に、製品名らしき「VAN」というロゴが描かれているアダプターだ。
(……まあ、これでいいか)
そう脳裏で呟くと、虎義は、アダプターを一個、取り出した。形は直方体で、色は白、大きさは、電源タップの左右の端から、ぎりぎりはみ出さない程度だ。
(ええと、こいつのポート向きは……?)
そう胸内で呟きながら、虎義は、ポートの蓋を押し開けようとして、右手人差し指を、それに近づけていった。
(……待てよ)ぴたっ、と指を停止させた。(ポート向き、確認しないでおいたほうが、いいんじゃないか?
もしかしたら、龍東は、ラウンド1でのおれと同じように、コネクターを挿入すると見せかけ、その時のおれのリアクションを窺ってくるかもしれない。もちろん、おれは、心理状態を悟られないよう、無表情・無反応でいるが……おれは、別に、ポーカーフェイスが得意、ってわけじゃないからな。ひょっとすると、やつは、何らかの手段で、おれの態度から、挿入の成否を推測するかもしれない。
それを防ぐ方法は、簡単……ポート向きを確認しないまま、アダプターを設置すればいいんだ。なにせ、ポートが表向きになっているか、それとも裏向きになっているのか、おれも知らないんだからな。いくら、様子を観察されたって、問題ない。
それに、どうせ、「表向きに設置しよう」「裏向きに設置しよう」という結論を出す根拠となるような情報も、ないわけだしな……よし、ポート向き、確認しないでおこう……!)
そう心中で呟くと、虎義は、右手人差し指を引っ込めた。けっきょく、ポートの蓋を一度も開けないまま、アダプターをコンセントに挿し込む。
「臼場くん、設置終了ね」そう言って、嬰佐は、タイマーをストップさせた。「それじゃあ、龍東くんたちを呼んできてちょうだい」
嬰佐が、西壁の出入り口に近づくと、その間、白テーブルの南辺の前にいる設置者は、彼女の視界から外れる。もしかしたら、その時、設置者が、何らかの不正を行うかもしれない。そんな懸念を解消するため、一号室にいる挿入者たちを呼ぶのは、嬰佐以外の人物の役目となっていた。
虎義は、西壁の出入り口に近づくと、扉を、がちゃり、と開錠してから、がちゃっ、と開けた。「アクションが完了した。龍東、来てくれ」と言う。
その後、一号室にいた全員が、二号室に移動した。龍東は、アクションエリアに入ると、白テーブルの南辺の前に立った。それ以外の人は、みな、オーディエンスエリアに留まった。
「それじゃあ、龍東くん、アクションを開始してちょうだい」そう言って、嬰佐は、タイマーをスタートさせた。
(さて……やつは、どう行動するつもりだ? 何か、おれに対して、仕掛けてくるだろうか?)
虎義は、そう考え、心の準備をしていた。しかし、龍東は、特に、妙なことはしなかった。スムーズな手つきで、C箱からケーブルを取り出すと、それのVTCコネクターを、スピーカーに接続した。
(なるほど……「挿入するUSBコネクターの向きについて頭を悩ますより先に、USBコネクターを挿入する用意をしておこう」っていうことか。あるいは、すでに、挿入するUSBコネクターの向きについて、決めているのかもな。「このラウンド2では、USBコネクターは、表向きで挿入しよう」みたいな感じで……)
龍東は、左手で、アダプターの前後の側面を持った。右手に摘まんだ、表向きであるコネクターを、ポートの蓋に近づけていく。
(龍東が、おれのリアクションを観察しようとしてくるなら、ここだ……! ……まあ、おれは、今回、ポート向きを知らないから、リアクションを観察されたって、痛くも痒くもないわけだが……)
その後、龍東は、コネクターの先端が、蓋の数センチ手前にまで近づいたところで、ぴたっ、と右手を停止させた。
(来るか……?!)虎義は、ごくり、と唾を飲み込んだ。
しかし、龍東は、虎義に目を向けてはこなかった。眉間に皺を寄せ、アダプターを凝視している。
数秒後、彼は、右手を動かし、くるっ、とケーブルを半回転させた。その後は、コネクターの先端で、ポートの蓋を押し開け、それの内部へと進入させていった。
やがて、コネクターは、全体がポートに収まった。スピーカーが、ぱーぱぱー、というファンファーレを鳴らした。
(ぐ……!)虎義は、顔を顰めた。
「龍東くん、挿入成功ね」そう言って、嬰佐は、タイマーをストップさせた。「本ラウンドにおけるアクションの成功者は、龍東くんよ。龍東くんには、6SPを進呈するわ。それじゃあ、みんな、一号室に戻りましょう」
その後、虎義は、一号室に移動した。茶テーブルのディスプレイに表示されている値は、「臼場 所持ポイント数」の下が「00」、「龍東 所持ポイント数」の下が「11」となっていた。
(クソ……これで、龍東に、11SPもの差をつけられてしまった……)虎義は苦い唾を味わった。(まだ、敗北が確定したわけではない、とはいえ……どうしても、絶望を感じてしまうな……。
それにしても、目標ポイント数が18SPで、本当に助かった……。もし、ターゲット・ダイスの出目が【11】だったなら、今頃、おれは、負けていたところだ……)
最後に二号室から出てきたのは、嬰佐だった。彼女は、茶テーブルに近づくと、ラウンド2で使用されたアダプターとケーブルを、U箱に入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます