第16話 ナオキの正体と出会って5秒で……

 ワイドショー出演を終えた私だが、ネットに広がるデマの影響で微かに残っていた乙女心に大ダメージを受けていた。

 生放送終了後、いや、生放送中から、匿名ネット掲示板には何本ものスレが立ち、私の放送事故を面白がる書き込みで溢れているのだ。


『【悲報】お下品VTuber煌羅きららぺろみ、テレビでもやらかす』

『【放送事故】煌羅きららぺろみ、生本番中にブボッ!』

『期待を裏切らない女! 煌羅きららぺろみワイドショー生放送で放屁』


 まとめサイトではトップを飾り、ツブヤイターなどSNSではトレンド入りだ。



「あああぁ……デマなのに。本当にノイズなのに……」


 いくらノイズだと言っても信じる人はいないだろう。世間は面白ければそれで良いのだから。


「くっ、笑えば良いさ。私の放屁型相互作用ブレイクウインド・インタラクションで、少しでも不景気な世の中に好循環をもたらされるのならな」


 そんなオナラで経済効果のようなことを呟きながら、私は食べ物を調達にコンビニへと向かう。


「はぁ……私の幸福青い鳥は何処にいるんだ」


 ◆ ◇ ◆




「らっしゃいませー」


 コンビニに入った私は、先ず雑誌コーナーに向かう。今週号の漫画雑誌をチェックする為だ。途中、目線の先に『煌羅きららぺろみ』と見出しの付いた芸能ゴジップ雑誌を見つけたがスルーしておく。


 漫画雑誌をパラパラとめくる私の後ろを数人のDKが通る。


 近所のコンビニに行くだけなので、私の恰好はヨレヨレTシャツにジャージというシンプルなファッションだ。さすがに若い子に見られるのは恥ずかしく、少し体の向きを変えた。



 息をひそめてながらもチラチラと若い子をチラ見する不審な私だが、その男子の集団の中に見知った顔を見て変な汗が出てしまう。


「なっ!」


 声を上げそうになり慌てて口を閉じる私。その見知った男子は、隣の部屋の初心うぶなDKなのだから。


 マズいマズいマズいマズいマズい!

 あの時の口ぶりから、絶対私の動画観てるよな。もう私の放送事故を知っているのだとしたら……。


 そう考えると、ますます変な汗が噴き出してしまう。もう腋汗がぴっちょりだ。



「なあ、ナオキは好きな女いるのかよ」

「い、いないけど」


 どうやら異性の話をしているらしい。そりゃDKもJKも、話題と言ったら異性の話と相場は決まっている。若いって良いな。

 隣室のDKが友人にアレコレと聞かれているようだ。



 ふふっ、あのDKちゃんナオキっていうのか。えへへぇ、これからはナオキくんって呼んじゃお。

 ま、待て! ストーカーじゃないからな。 変な意味じゃないぞ。


 隣の部屋のDKの名前を知ってニヤニヤする危ない女の私だが、ふと、いつも投げ銭してくれる人の名前を思い出した。


 あれ? いつも投げ銭してくれる子もナオキだったよな。ま、まさかな……そんな偶然は……。



 運命的な出会いをしたDKとイチャコラするラブストーリーを妄想していると、何やらDKたちの話題が私に移っているのに気付いた。


「おい、あそこで立ち読みしてる女ってエロいよな」

「うっわ、相変わらずタクマの好みは分からんわ」


 気付かれないようガラスに移ったDKの姿を確認すると、どうやらナオキくんの友人らしき男子が私を指差し、もう一人の友人が笑っているようだ。


「どう見ても非モテ女っぽいよな。ジャージだし」

「それが良いんだろソラ。何かこう欲求不満な喪女っぽい感じで。おっぱいも大きいし」


 情報を整理しよう。

 私を狙っているDKがタクマで、非モテだのジャージだの言っているDKがソラというらしい。

 間で困った顔をしているのが隣室のナオキくんだ。


「俺、ちょっと声かけてみるわ」

「や、やめた方が良いって」


 タクマが私をナンパしようとしているようだ。それをナオキくんが止めている。


「おいナオキ、おまえも一緒にどうだよ。ああいう女は、すぐヤらせてくれるかもしれねーぞ」


 タクマがドストレートに言う。まさかのヤリモクだった。


 待て待て待て!

 すぐヤれそうとか失礼な男だな。た、たしかに欲求不満だけど相手はオマエじゃねーよ。もっと初心うぶで可愛い男子なら心がグラつくけどな。

 そ、そうナオキくんみたいな……。



 そんな未来の彼氏の妄想をしてると、後ろのDKたちがすぐ近くまで来ていることに気付く。本当に私をナンパするようだ。


「お姉さん、今暇っすか?」


 タクマが声をかけてきた。顔がニヤけてるうえに視線は私の胸に向いている。オマエはおっぱいと会話しているのか?


「俺らと遊びに行きませんか? ちょっとお茶とか。俺、奢るっすよ」

「えっ、あの……」


 乙女ゲーではイケメン相手を翻弄している私だが、リアル男には全く免疫が無い。相手は年下だというのに、いざとなると声が出ないコミュ障である。


 その時、信じられないことが起こった。


「こっち、来て!」

 ガシッ!


 ナオキくんが私の手を取り走り出した。まさかの二人でコンビニからの逃避行だ。


「ええっ、ええええーっ!」


 まるで乙女ゲー『永遠とわのルドミラ英雄譚』の、出会って5秒で壁ドンからの心を奪われてしまうようなイベントである。

 

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