第15話 公共の電波で放送事故だけど冤罪です

 どこぞのアニメキャラのような演説をしてしまった私に、コメンテーターたちの視線が突き刺さる。

 ついノリに乗って口が滑ったようだ。


 さっきから政治評論家コメンテーターの視線が痛い。



「なっ、何だキミは! 子育て支援は当然じゃないか。日本は諸外国と比べて公財政教育支出はOECDの中で最下位レベルなんだ。増税してでも教育や子育てに金を使うべきだ!」


 口角泡を飛ばし政治評論家のオジサマが弁舌をふるう。どうやら完全にロックオンされてしまったようだ。


「そもそもだな、負け組男性が何だと言うんだ! そんな軟弱な男など自己責任だろ! 男なら努力と根性で稼いでみろってもんだ! 最近の若者は、すぐ離職するやら引きこもるやら。ボクの時代は軟弱な男など二、三発殴って根性入れたもんだ!」



 はい、『自己責任』頂きましたーっ!

 そうです、この世代の人たちは自己責任論大好きなんですよね。

 ここは私が負け犬代表として反論せねばなるまい。


「自己責任、自己責任って言いますけどね、あなたたち昭和世代は高度経済成長を甘受して働けば働いただけ給料も上がったのかもしれませんよ。でも、バブル崩壊以降の失われた三十年は、働けど給料は上がらず負担や責任ばかり増えてるじゃないですか。そもそも、雇用が流動化し一度負けてもチャンスがある外国と比べ、日本は新卒を有難がる風潮から一度負けるとチャンスは激減しますよね。特に氷河期世代なんかを自己責任で片付けるのはどうなんですかね」


「うるさい! 負け組なんぞ知るか! 根性の無いヤツなど放っとけば良いんだ!」


「そうやって自己責任で片付けてきたから今の少子化なんでしょ! 将来に希望が持てない若者が、結婚して子供を産むはずないんだよ! もうっ、少子化の原因が分かってるのに、何で誰もが無視してるかな。そこに金使っても選挙に勝てないから、与党も野党も見て見ぬふりしてんだよね」



 ヒートアップする私たちの討論に、さすがのカキネも慌てて間に入ってきた。


「盛り上がっていますが、ちょっとここで……あっ、CM? はい、CM入りまーす」


 無理やりCMに入ったようだ。このままでは私のテレビ出演が炎上してネットのネタにされそうな気がする。

 だがしかーし!


 炎上上等だコラ! 私のメガ〇〇ビーキャノンで報道自由度ランキングが低い日本マスコミに風穴を開けてやんよ! 放送法第四条がナンボのもんじゃい! どうせ公正中立なんて誰も守っちゃいねーよ!



 放送コードをブチ破りそうな私の憤懣ふんまんやるかたない溜まったガスは、今にも放屁事故寸前だ。

 と思いきや、CM明けには何事も無かったかのように、次の話題へとコーナーは移ってしまった。


 まあ、日本の番組は同じようなコメントを述べる人を集め仲良し報道するのが常なので仕方がない。賛否両論両陣営の論客を集め舌戦を交えるなど、空気を読むのを美徳とする国では流行らないだろう。




「はい、今日の特産品コーナー。季節は秋。秋といえば、はい煌羅きららぺろみさん?」


 何やら名物コーナーに移った五色ごしきアナが、私に話題をふる。この場慣れした感じ。この女、只者ではないな。


「性よ……しょ、食欲の秋とか?」

「はい、せいかぁーい! ピンポンピンポン♪」


 特産品と自分で言っているのだから食べ物だろうと思うが、私の答えにハイテンションの女子アナだ。

 危うく変な回答をしそうになったのは内緒である。



「今日は、サツマイモの特集です。焼き芋とか美味しいですよねぇ。煌羅きららぺろみさん、焼き芋を食べ過ぎて本番中にオナラしちゃダメですよぉ」


「あっ、はい……」


 おいおいおいおい! それ言いたいだけだろ!

 この女子アナ、どうしても私にオナラさせたがってる気がするぞ。大丈夫か?



「サツマイモと言えば、皆さんは何処の名産地を思い浮かべますか?」


 五色ごしきアナの質問に、コラムニスト女性が答える。


「やっぱり鹿児島県ですかね」

「芋焼酎が良いんですよ」


 大学教授兼ITジャーナリストが話に乗る。


「はい、全国一位は鹿児島県ですが、今日は茨城県のある新しい取り組みの農家さんを特集します」



 品種改良で糖度が高くホクホクねっとりと、何やらエッチワードのような食欲を誘う話を聞かされた挙句、美味しそうな焼き芋がスタジオに登場した。

 出演者皆で味見するようなのだが、リモート出演の私の分は無い。


「ええー、私は見てるだけ……」


 美味しそうに頬張るコメンテーターの顔を見せられると、無性に腹が減るというものだ。


 ふと、体を動かした時に、それは起こった。


「ブブォォーッ!」


 変な音をマイクが拾い、芋を食べているスタジオが凍り付いた。


「あっ、ち、違っ!」


 音の原因は私なのだが、決して放屁ではない。


 パソコンデスクの上に置いてある、『乙姫寮の管理人お姉さん』BDボックス特典の乙姫おとひめ春花はるかおっぱいマウスパットが擦れて変な音が出ただけなのだ。

 本当にノイズだった。



「えっと……本当に本番中にブウブウしちゃうなんて、さすが煌羅きららぺろみさんですね。期待を裏切らないVTuberです」


 フォローしている五色ごしきアナだが、全くフォローになっていない。むしろ放屁放送事故を決定づけてしまった。


「あーやだやだ」

 コラムニスト女性の有難いお言葉である。

「あははっ、煌羅きららさん最高ですね」

 大学教授兼ITジャーナリストに至っては大笑いだ。


「まったく、さっきの弁舌は生意気ながらも気概を感じたのだが、女性でありながら人前で放屁するなど言語道断だね」


 はい、『言語道断』頂きましたーっ!

 政治評論家が本気で嫌そうな顔をしている。


 こうして私は、公共の電波に乗せて巨大放屁した魔喪女VTuberとして、その名を轟かしたのだ。


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