第14話 ブヒィチューバーは無双する

 一旦CMに入ったスタジオは凍り付いている。


 通常は大御所コメンテーターの発言には賛同するか、または一旦受け入れて別の発言をするかが暗黙のルールである。

 事も有ろうに私は、おっぱいをネタにツッコミを入れただけでなく、ドMっぽい返しをしてしまったのだから。



 スタジオの政治評論家コメンテーターときたら、CM中もずっと『けしからん!』だの『これだから最近のウィーチューバーは!』などと怒りが収まらないようだ。



 これ、大丈夫なだよな……?

 メスブタは放送コードに引っ掛かるのか?


 私は私で大御所を怒らせたことより放送禁止用語の方が気になる始末である。



 ふっ、パワハラで一時はメンタルやられていたから、私はこのオッサンみたいな高圧的で上から目線の人間が苦手なんだよ。


 でもな、目の前ではなくネットの画面越しならバトルも行けるんだぜ。こちとら全世界に向けてブボッと恥を晒した女なんだ。もう怖いものなど無いぜ!


 そう思いながらも、実際に人と対面すれば怖気づいてしまうものだろう。だが、今の私は無双できそうな気がするのだ。



 あっという間にCMは明け、再び番組は再開した。

 まるで何も無かったかのようにカキネのトークは続く。


「今日の特集です。政府は異世界の少子化対策を打ち出しましたが、各方面で異論が噴出しているようなのですよ。今日は日本の少子化について徹底追及したいと思います」


 カキネの話に続いて、女子アナの五色ごしきあやがフリップを出して解説する。少子化対策の基本は子育て支援と各種手当を給付することのようだ。



 一通り説明が終わってからコメンテーターの発言に移る。


「これは遅すぎたんだよ。もっと早くから給付するべきだよね。増税してでも子供を産んだ人には給付すべきだよ。そもそも政府の少子化対策は、まだ何もできていないんだよ。全然ダメだね」


 ここぞとばかりに政治評論家コメンテーターが語り始める。先程のイライラも何処へやら、今は生き生きとしているようだ。


「そうですよね。もっと子育て世代に手厚くしないと。私は防衛費の為の増税には反対ですが、子育て支援の増税なら喜んでしますよ」


 エッセイストの女性コメンテーターの有難いご意見である。


「子供を一人産んだら一千万円プレゼントしちゃったら良いんじゃないの。そのくらいしないと産む人いないよ」


 大学教授でITジャーナリストの男性コメンテーターときたら、更に踏み込んだ議論だ。子供一人一千万円というのは思い切ったな。



 三人の意見が出揃ったところで、五色ごしきアナが私にコメントを振る。


「では、お待ちかね。煌羅きららぺろみさんの意見はどうですか?」


 何がお待ちかねなのか知らないが、五色ごしきアナの表情がニコニコである。この放送事故を期待するような顔はやめてくれ。


 小粋な女子アナと、全国津々浦々ぺろみファンの期待を背負って、私は口を開く。


「私も政府案には反対です」


「何だ、気が合うじゃないか」

 何故か政治評論家のオッサンに仲間にされた。


「私が反対しているのは子育て支援ですね」

「おい! 何を言ってるんだ!」


 仲間になったはずの政治評論家に怒られた。結束は幻想だったようだ。



「いいですか! そもそも少子化の原因は未婚率が急上昇したからですよ。1980年台以前の生涯未婚率は数%です。つまり、ほぼ全ての人が結婚していたのです。しかし、2020年以降のデータでは生涯未婚率が激増しています。特に非正規男性では70%という驚くべく数字に」


 そう、私は弱者男性の味方なのだ。勝ち組や陽キャは苦手である。そもそも結婚している人は勝ち組なのだからな。


「若者が結婚しないのは相次ぐ増税や社会保険料の増大に苦しみ、未来への展望が見えず結婚を諦めてしまっているのですよ! 税と社会保障費の国民負担率は46%ですからね」


 私の独壇場が始まる。コミュ障で陰キャだが、特定分野を語らせると饒舌じょうぜつになるのはオヤクソクだ。やたら早口になるオタクとでも呼んでもらおうか。


「つまり、少子化の原因は格差社会にあります! 所得格差だけでなく恋愛格差! そう、負け組男性には女性は振り向いてもくれないのですよ! この格差を是正せずにいて、子育て支援と銘打って増税したら、更に若者は困窮してしまうでしょう! 自分の生活がままならないのに、結婚して子供を育てようと思うでしょうか! いや、思わない! 諸君らが計画した少子化対策は失敗した! 何故か! ボウ……じゃない、根本原因が間違っているからさぁああああ!」



 私こと煌羅きららぺろみの大演説に、カキネもコメンテーターも固まってしまう。ただ、五色ごしきアナだけは、期待を込めたような笑顔をしていた。


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