第12話 まさかのコメンテーターぺろみ

 翌日、ネットのまとめサイトには私の記事の見出しが躍っていた。これまでは放送事故で炎上だが、今回は好意的な記事のようだ。



【炎上VTuber煌羅きららぺろみ】パワハラ被害者を救う。

 連日炎上を続け話題になった煌羅きららぺろみ、意外と良いやつだった模様。


 672:名無しですが何か

 ほんまや

 673:名無しですが何か

 意外と良い女

 634:名無しですが何か

 ぺろみもパワハラ受けて引きこもったって言ってたな

 635:名無しですが何か

 >>334

 見たまんまだろ

 636:名無しですが何か

 イジメやパワハラするカスは逮捕しろ

 637:名無しですが何か

 俺たちの女神降臨

 638:名無しですが何か

 脱がねえかな?

 639:名無しですが何か

 VTuberなのにヌードを期待される女



 まとめサイトを見ながらニヤつく。これまでは叩かれるコメントが多かったが、潮目が変わったのか意外と好意的な意見が多いようだ。


「別に狙ってやったわけじゃないのだがな。あの時は本当に危険な予感がしたんだ」


 そもそも、教師や教育委員会が子供に寄り添うどころかイジメを隠蔽するような世の中なのだ。そりゃ社会人でもイジメやパワハラは横行するだろう。


「クソッ! 世の中、弱者保護だの差別反対だの言ってるくせに、本当の弱者の声なき声は無視されたり掻き消されたりするんだ。この私が底辺代表として主張してやりたいくらいだぜ」


 そんな私の叫びは、後に現実のものとなってしまうのだった。


 ◆ ◇ ◆




 その知らせは、ある日突然訪れた。


『たたた、大変です、煌羅きららさん!』


 六花ちゃんから電話がかかってきたかと思えば、スマホの向こうでは慌てた様子の彼女が捲し立てている。


「何かありましたか? もしかしてまたCMとか?」

『そ、それも凄いですけど、今回はワイドショーなんです』

「ははっ、またワイドショーのネタですかね?」

『ち、違います、煌羅きららさんがワイドショーに出るんです!』

「は?」


 今、私がワイドショーに出るって聞こえたけど。もしかしてテレビデビューなのか?


「それって……?」

『それですよ! 煌羅きららさんがバーチャルコメンテーターとして参加するんです』


 マジだった。


「ほ、本当ですか! この私がテレビに」

『そうなんですよ。テレビデビューです』

「や、やった! 私がテレビ出演」

『ここは一発、ブブーっとぶちかましましょう』

「ぶちかましませんから!」


 どうも六花ちゃんは、私が本番中にブボッとするのを期待している気がする。まさか、生放送で放屁などB〇O案件にされてしまいそうだ。



「オナラはしませんが、この私がガツンとコメントをぶちかましてやりますよ」

『それは止めてください』

「は?」


 テレビでもマジレスの如き正論をかましてやろうかと思った私だが、出鼻を挫くように六花ちゃんが止めた。


『いいですか、煌羅きららさん。ワイドショーのような砕けた感じの番組でも、最初から方向性や意見の持っていき方は決まってるんです。番組の意にそわない発言をしたら次から出してもらえませんよ。特に政治的な発言は気をつけてください』


「えええ……そうなんですか……」


『そうなんです。正論だからと言って本当のことを言ったら干されます。プロデューサーやお偉いさんに睨まれたら次は無いと思ってください。オナラはOKですがね』


「オナラはOKなんかい!」


『通常、VTuberだけでなくアイドルなどが出演したら、当たり障りのないコメントだけするんですよ。番組の方向性に沿いつつ、それでいて面白いコメントをお願いします。今はコンプラも厳しいですから』


 大人の事情を聞き、私の心は早くも折れかかる。


「そ、そうですね……長いものには巻かれろですか」


『でも、煌羅きららさんには何かやってくれると期待しちゃうんですよね。何か凄いことを。あっ、問題起こせって意味じゃないですからね。やっちゃダメですよ』


 最後に六花ちゃんはそれだけ言って電話を切った。彼女も私に何かを期待しているのだろうか。もうそれはお笑いの前フリだろ。


 この、変化を好まず延々と衰退を続けるような世界で、言いたいことも言えずただ空気を読んで空虚で意味の無い言葉を垂れ流すだけ。

 もし、私のメガ放屁キャノンで強行突破ブレイクスルーする未来を描けるのなら。


「よっしゃぁああああっ! この私がテレビ業界にデカい風穴を開けてやんよ!」


 そう言い放った私だが、やっぱり業界での放送事故は怖いので、多少は気をつけようと思った。ヘタレたわけじゃないぞ。


 そんなこんなで、私のテレビ出演の時は迫って来たのだった。


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