第9話 ガスキエール

 全国のお茶の間にVTuber煌羅きららぺろみのCMが流れる。私は放送予定の番組を観ているのだ。


 番組がCMに入り、ついにその時は来た。



 ――――――――――――

『明日はデートなのに、ガスが溜まっている気がしたら?』


 実写の女優が映りナレーションが流れた後に、VTuberアイドル煌羅きららぺろみの出番だ。


『カスキエール!』

 見た目は清楚系なのに中身は下品系な煌羅きららぺろみが商品名を叫ぶ。


『試験中にオナラが出たくなったら困るわ』

『ガスキエール!』


『生配信中に、お腹が張ったりしたら?』

『ガスキエール! ブッヒィィィィ! これで私の生配信も安心だね。もう放送事故なんて言わせないぜ!』


『ガスを抑える整腸剤と言えば?』

『角山製薬ガスキエール! ピンポーン』

 ――――――――――――



 テレビの画面に私が扮するバーチャルアイドルが出ているのが、嬉しいような恥ずかしいような不思議な感覚だ。

 この際、放屁放送事故は忘れることにしよう。いや、忘れられないのだが。


「改めて考えても凄いことだな。つい最近始めたばかりの私が、大手企業のCMに抜擢とかトップランカーみたいじゃないか」



 テレビCMと合わせて、私のチャンネルでもプロモーション動画をアップした。テレビでの話題性もあり、ぐんぐんと再生数が伸びている。



 ――――――――――――

『はーい、皆こんにちは、こんばんはぁー! 吹けよ風! 轟け爆音! 銀河を超えてぶちかませ、私のメガ放屁キャノン! 魔喪女系銀河のブヒ姫、煌羅きららぺろみ参上! ブヒィィィィィィー!』


 いつものキャッチフレーズを叫びながら動画は始まる。


『今日は重大な報告があります! チャララララララララーン! ジャジャン! な、なんとこの私、この度あの大手製薬会社の角山製薬さんとコラボすることになりましたぁ! ぱふぱふ」


 相変わらずキャラは清楚系なのに、喋りは吹っ切れて地が出ている私が軽快(多少喪女っぽいが)なトークをかましている。


『今回新発売のお薬はコレ! 整腸剤ガスキエール! これはね、お腹が張ってたりガスが溜まってる時に一粒飲むと、お腹の調子が整えられてガスが溜まりにくくなるんだよ』


 煌羅きららぺろみが薬のビンを開け、一粒飲む動作をする。


『この一粒で乳酸菌やビフィズス菌がお腹に作用して、善玉菌を増やしてくれるの。これで本番中でもオナラを気にしなくて済むね! あっ、私のアレはオナラじゃなくノイズだから。そこは勘違いしないでよねっ♡』


 ――――――――――――



 一通り商品の説明をして動画は終了した。動画を公開して一時間だというのに、既にコメントは1000件を超えている。


「なになに? コメント欄が凄い盛り上がってるな」


 上から順に読んでみた。



『ワロタ!』

『おい、この女、とうとうオナラで商売始めやがったぞ』

『何がノイズだコラ! 臭そうなのしやがって!』

『思い切り屁ってただろが!』

『(´;ω;`)ブボッ』

『ノイズだと。オマエがそう思うのならそうなんだろう』

『オマエの中ではな!』

『女捨ててやがる……』

『腐ってやがる。早漏かよ』

『↑だから腐ってねえし早漏でもねーよ』


 ネタにしているコメントが多いが盛り上がっているようだ。話題性としては十分だろう。


「相変わらずこいつら容赦ねえな。でも私の放屁で、この不景気で暗澹あんたんたる社会に、少しでも明るい兆しを届けられたのだろうか。もはやこれは放屁型相互作用ブレイクウインド・インタラクション!」


 私の放屁で経済効果があるのならば使わない手はないだろう。


「そうだ! 私はブラック企業でパワハラを受け、完全に自信を無くしていた……。だが、放屁型相互作用ブレイクウインド・インタラクションが可能ならば、私は賢くて知的な女として名を馳せることも可能なのでは!」


 賢いと知的がダブっている気もするが関係無い。


「私は、このチャンスを活かし自称美少女VTuber兼経済評論家としてやって行けるのでは! 乗るしかない! このビッグウエーブならぬビッグウインドにな! うぇーっはっはっはっは!」



 大それた夢を抱き高笑いする私。そう、人は見果てぬ夢を追いかけ一生を費やす永遠の夢追い人ドリームチェイサーなのだから。


 私は私の幸福青い鳥を追い求め、この混沌としたネット社会の大海原に漕ぎ出したのだった。






 ――――――――――――

 お読み頂きありがとうございます。

 人は永遠の夢追い人ドリームチェイサー、時に放屁は人と人との相互作用。このストレス社会に一服の清涼剤を。


 もし少しでも面白いとか期待できると思ったら、★やフォローを頂けるとモチベ上がって嬉しいです。イイネやコメントもお気軽にどうぞ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る