第7話 初めての投げ銭

 メガ粒子キャノンならぬ、メガ放屁キャノンをぶっ放してしまった私。往年のロボアニメ好き世代なら理解されようものだが、最近のZ世代に通じるのかは未知数だ。


 Z世代と言っても語尾にアルファベットが付くロボアニメの意味ではないのだから。



「あっ、えっと、今のはナシで……」


 うっかり口を滑らした私は慌てて取り消そうとする。しかし、ネット民の世界では消せば余計に増えるのが常である。


:(≧∇≦)キタァァァァアァァァ!!

:キタ――(゚∀゚)――!!

:キテネェェェェ!

:汚ェェェェ――!!

:ブヒー!

:またやりやがったぞ!

:メガ放屁キャノン

:銀河のブヒ姫?

:養豚所の豚姫の間違いだろ

:(´;ω;`)ブボッ


「ぐっ、お前ら容赦ねえな……」


 もう完全に定着したかのように騒ぎ出す視聴者。これは取り消し不可能だ。このまま突き進むのみ。


「てか豚じゃねーよ!」


:豚ではない

:細くもねーがな

:どっちでもいい

:かわいい


「ほら、かわいいって人もいるだろ。実は私、モテるのかも」


:寝言は寝て言え!

:モテはしない

:むしろ彼氏発覚は無いから安心

:ぺろみ熱愛発覚www

:ないわー

:ないない

:無いな


「なんじゃそりゃぁーっ! 私だって彼氏の一人や二人……できたら良いなぁって……。おまえら覚えとけよ。私にガチ恋しても知らないからな。推し過ぎてガチ恋勢になってから、彼氏発覚とかなったらどうすんだよ」


 彼氏がいない前提の視聴者に、つい熱くなってしまう。


:絶対無い

:ガチ恋勢www

:ガチ変勢の間違いだろ』

:ガチ変w


「誰がガチ変態じゃこりゃぁああああっ!」


 誰も私の熱愛を信じる者がいなくてヘコむ。まあ、VTuberが熱愛発覚したら大炎上なのだが。


「そういえば、例の近所のDKも冷たかったしなぁ。私、何かしたのか……」


:出た! ヤベェ女

:おまわりさーん!

:おまわりさん、こいつです!

:おい、通報されるなよ

:年下男子を狙う魔喪女捕まる

:マジで逮捕案件


「うっせぇぇぇぇーっ! 若い子は癒しなんだよ。遠くから愛でて楽しむもんなんだよ。ドントタッチショタ!」


:この分なら当分彼氏はムリだな

:一生ムリだろw

:無理無理

:ずっと俺たちの喪女でいろよ

:見抜きして良いっすか?

:また放送事故プリーズ

:ブヒッ!

:ブボッ!

:メガ放屁キャノン! ブッヒィィィィ!


「くそっ、ホントにおまえら容赦ねえな……」


 そんな時、チャット画面に色と数字の付いた表示がされる。


:ナオキ¥2000 いつも応援してます



 なっ! 今の色付きコメントは、噂に聞く『投げ銭』というものでは!? 遂に私にも投げ銭が!


 私は急いでお礼を言う。

「あっ、ナオキ君、応援ありがとー! むっちゅ♡」


:おい、反応がいちいちオッサンくさいぞ

:今時むっちゅは無いわな

:ぶふぁ! むっちゅw

:ぶっひの間違いだろ

:ブッリッかもな


「おい、おまえらーっ! ほら、私だってモテるだろ。ふふふ~ん、遂に私にも推しができたかぁ」


:ポッポ¥200 まあしょうがねえな

:ピー君¥100 コーヒーの足しにしろ

:再演なる岡本¥300 ほらよ

:Potecipo¥500 これでどうだ


 画面には次々と投げ銭の表示が流れる。


「おおっ! おまえら良い奴じゃねーか。遂に私の魅力に悩殺されたのか。でも、ちょっと安くねーか?」


:贅沢言うな

:言える立場かよ

:欲しがりませんこくまでは

:こけば金額上がるのかw

:悩殺はされてない

:調子のんな!


「ぐへへぇ、これで私も人気VTuberの仲間入りかぁ」


:ダメだ聞いちゃいねえ

:もう手遅れだぜ

:腐ってやがる。早漏過ぎたんだ

:腐ってねえし早漏でもない


 こうして私は大人気VTuberへの道を歩み始めた。皆が私の話を聞き反応してくれる。メンタルやられていた無職の頃とは大違いだ。


 ◆ ◇ ◆




 ガチャ!

 配信が終わった私は、コンビニでも行こうと部屋を出た。今夜は放送事故も無く平和に終わることもできたのだ。


「ふっふーん、ふんふんふっひぃー」


 変な鼻歌を歌いながら上機嫌の私だが、隣の部屋のドアが開く音で我に返る。


「えっ!」

「あっ……」


 偶然にも隣の部屋のDKが顔を出し、二人同時に固まってしまった。


「あ、あの、すみません」

 ガチャ!


 ドアから出ようとしていた初心うぶなDKが、私の顔を見るなりそう言ってドアを閉め戻ってしまった。


「えぇぇ……やっぱり私、嫌われてる……?」


 そう思ったのも束の間、再びドアを開けたDKが顔だけ外に出した。


 ガチャ!

「あの、その……お、応援してます」

 ガチャ!


 恥ずかしそうな顔で私を応援していると言ったDKは、また室内に戻ってしまい出てくることはなかった。



「えっと、応援してますって……。もしかして、私の正体バレてる?」


 お気に入りの少年に私の放屁事故が知られているのではと思うと、悶々とした心と体が火照り眠れない夜を過ごすのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る