第6話 輝かしいスタート?
私を銀河のブヒ姫にしようとする
「あっ、本名は
恥ずかしいキャッチフレーズを付けたのも気にもせず、六花ちゃんはお構いなしに話を進めている。
「は、はぁ……あ、あの」
「それで、これからの方向性ですが、やはり
「あのですね……」
「配信のネタですが、今までのゲーム配信も良いですが、これからはアニメの感想や日常生活の出来事とかも入れて行きましょう」
六花ちゃんのペースに呑まれ話を切り出せない。私は意を決して声を上げた。
「あのっ!」
「はい?」
久しぶりに人と話すので音量調節が難しい。つい大きな声になってしまう赤面してしまう。コミュ障あるあるである。
「あ、あの、さっきのキャッチフレーズですが、やっぱり他のものにしようかと……」
「えっ、凄く良いと思うのに。銀河を超えてぶちかましちゃうんですよ。『ブヒィィィィィィー!』って。もうドッカンドッカン大爆笑です。絶対ウケますって」
「そ、そこは私がアレンジを入れてみますから」
「そうですか。では
こうして説明や打ち合わせは進み、最後に六花ちゃんから失言だけはしないよう注意されてから解散となった。
昨今ではVTuberの失言が問題になっているのだ。禁止用語や差別用語、社会通念上許されない発言など。そこだけは注意しないと謹慎や契約解除になりかねない。
まあ、私の場合は失言というよりもエロい放送禁止用語を言いそうな気がするのだが。
◆ ◇ ◆
久しぶりの外出を終え自宅アパートに戻った私は、郵便受けを確認してから階段を上る。
足を踏み出したその時、ちょうど学校から帰ってきた隣室の少年とバッタリ会ってしまった。配信でも話した隣の部屋で一人暮らししているらしい
出会いは今年の春。
進学で学校の近くのにあるこのアパートに引っ越してきた彼が、粗品を持って挨拶で私の部屋に来た時である。
会社を辞めたばかりで昼夜逆転していた私は、鳴り響くチャイムに胸元が大きく開いたヨレヨレTシャツで出てしまったのだ。
その時の少年の目線が完全に私の胸に行ってから、急に真っ赤になってオドオドし始めた
チャラ男や陽キャには怖くて近寄れないが、
「あっ、こ、こんにちわ」
私は軽く挨拶をする。もしかしたら初の彼氏になる男かもしれないのだから、少しずつ会話をしてみるものだろう。
「あっ、ブー、い、いえ。す、すみません」
スタタタタタタタッ――
誰が見ても分かるほどキョドリ始めた彼が、顔を赤くして階段を上って行ってしまった。
そこには私一人が残される。
「えっ……あれ?」
数日前までは、会えば軽く会釈をしてくれていた少年が、今は逃げるように去ってしまった。どうしてこうなった?
「わ、私、何かしちゃったのか……?」
余りしつこく付きまとっては通報されるかもしれない。それこそ事案発生だ。変態紳士……いや変態淑女である私はそっと離れて見守るだけだぜ。
イエス、ショタコン! ドントタッチショタ!
部屋に戻った私は、逃げる少年を追い詰めて『くっころ展開』する妄想をオカズにしてイケナイコト……ではなく、今後の配信の準備を始めた。
「やはりキャッチフレーズか。あいさつ代わりに言うアレだよな。確かに人気VTuberは皆言って気がするぞ」
色々と考えてみるが思い浮かばない。
「皆のアイドル……これじゃありふれてるし。魔喪女ブー……いやいやいや、これは自爆だ。そう考えると六花ちゃんの考えた『吹けよ風! 轟け爆音! 銀河を超えてぶちかませ、私の放屁! ブヒィィィィィィー!』が良く練り込まれている気がするな」
それからも色々と考えた私は、いくつかの案を決め夜の配信へと挑むのだった。その場のノリで案の中から一つを使う予定だ。
配信が始まりキャッチフレーズを言おうとしたところで事件は起きた。考えた案を全て忘れ頭が真っ白になってしまったのだ。
「あっ、えっと……」
画面に
:おっ、始まった
:何か変じゃね?
:おーい、また放送事故か?
マズい、何か言わないと。えっと、えっと、キャッチフレーズを……吹けよ風だったっけ?
「吹けよ風! 轟け爆音! 銀河を超えてぶちかませ、私のメガ放屁キャノン! 魔喪女系銀河のブヒ姫、
結局、私は恥ずかしいキャッチフレーズを叫んでしまった。メガ放屁キャノン付きで。
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