第4話 大手事務所

「はぁああ~ん♡ 永遠とわのルドミラ英雄譚はなぁ、超名作なんやぞ! 私としてはメイン攻略対象のアランではなく、クリス推しであってだな」


 唐突に乙女ゲーの話になり視聴者が引き気味になる。だがしかし! 私もここで引くわけにはいかない。何としても放屁系の汚名を払拭し、小粋なトークで人気を得なければならないのだ。


「クリスは一見大人しくて物静かなタイプなんだけどな、堕ちると急に攻め攻めのドSキャラに変貌するんだよ。このギャップが良くてだな」


 視聴者おいてけぼりの私の話に、コメント欄が荒れ始める。


:おまえの趣味なんて知らねーよ!

:ドMか!

:くだらねー


「は? おい、今おまえなんつった!? 『とわるど』馬鹿にしたら許さんからな! この作品は、よくある逆ハーレムものだと誤解されがちだけど、シナリオが逸品で隠れた名作なんだよ。私も、涙で枕を濡らしたのが何度あったことか」


:濡らしたのは別の場所だろw

:ジュンジュワー

:草

:wwwww

:喪女の〇慰シーン想像して草生えたわ


 予想外の盛り上がりを見せるコメント欄。私の目指している方向と全く違うのだが。


「うっ、うっさい! うっさい! うっさい! そりゃ私だって、たまにはムラムラする時もあるんだよ!」


:お、おい、ぶっちゃけすぎだろ!

:やっぱり別の場所じゃねーかw

:お前は羞恥心が無いのか!

:ムチャすんな

:コーヒー噴いたわ


「い、いや、そういう意味じゃねーし……。てか、おまえらはどんなアニメとか好きなんだよ?」


『今期では転生したらガラケーとか』

『発動エルフだな』

『おね攻めでしょ!』


「おっ、良いね。おねショタ系は良いものですよ。ぐへへ♡」


:おい、また始まったぞ

:誰か何とかしろ

:もう手遅れだ


「発動エルフも良いよねぇ。あの淫紋を刻まれたエルフが。原作小説のWEB版は規制で削除されたとか伝説ですよ」


:こいつ本当に女か?

:中身おっさんだろ

:エロアニメ好きとかウケるわ

:こいつおもしれぇ

:おもしれー女w

:『おもしれー女』頂きました


「私としては、やっぱ賢者枠アニメは規制解除版だよな。胸とパンツが出ねえと納得いかねぇ!」


 ガンッ!

「痛っ!」


 熱弁し過ぎて私の手がパソコンに当たる。気にせず私は話しを続けた。


「ぐへへぇ♡ 初心うぶな少年がエッチなお姉さんに迫られちゃうのは良いよねぇ。私の中のイチモツ的な何ががビンビンくるぜぇ」


:おい、見えてるぞ!

:中の人出ちゃってる

:中の人などいません

:いや、出てるだろw

:また放送事故かよwww

:こいつ確信犯じゃねーのか?


「うへぇ♡ おね攻めのユータ君かわえぇ♡」


:誰か教えてやれよ

:まだ気付いてねえぞ

:相変わらず小汚ぇTシャツだな

:下はけよ!

:この絶妙なムッチリ喪女感と陰キャ女っぽさがクセになる

:それな!

:最初はブッサとか思ったけど慣れた

:いやいや、可愛いだろ

:素材は良いと思う

:エロ同人に出てくるエロい陰キャ女みたい

:ワロス


「ん?」


 ふと、コメント欄を見て変な話になっているのに気付く。パソコンの画面には、煌羅きららぺろみ17歳ではなく俵田たわらだ麻衣まい24歳が映っているのだ。


「はっ、はれっ……顔……映ってる」


:おっ、気付いた

:やっとかよ

:パンツ見せんな

:メチャシコ

:素直に射〇します


「ああっ、ああああ! いっやぁあああああああああああああああああああああああああああ!」



 そして私は三夜連続の放送事故をした。


 ◆ ◇ ◆




 WeTubeやツブヤイターには、更に私の切り抜き動画が増えてしまった。そこには、ヨレヨレ部屋着Tシャツとパンツ一丁で、エッチなアニメについて熱弁を振るう愛され喪女の姿が映っている。


 なぜ愛され喪女かというと、前日までの魔喪女ブーと違い、意外と私を褒めるコメントが増えているからなのだ。



「どれどれ、またコメント増えてるな」


 適当な切り抜き動画のコメント欄を見て見ると――


『これが噂の放屁喪女ですか』

『ふーんエッチじゃん』

『意外とイケる』

『揺れてる』

『おっぱいデケぇ』

『クセになる可愛さ』

『ふぅ……』

『↑抜くな!』

『何だろう、可愛くはないはずなのに、妙にエロいのだが』

『ダメだ! 見れば見るほど好きになる』


 ちょっと変な方向だが、私の人気が急上昇なのだ。


「ぐへっ、ぐへへぇ。承認欲求が満たされますわぁ。私も意外とモテるもんだな。そうかそうか、イケるのかぁ」


 にへらっと顔を緩ませてから気付く。


「いや待て! 煌羅きららぺろみを人気にしなきゃならんのに、私が人気になってどうする」


 そんな今後の方針に迷っている私のところに、聞いたことのある会社からメールが届いているのに気付いた。

 そう、今を時めく人気WeTuberが多数加入している大手事務所からなのだ。


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