第2話 魔喪女ブー

 翌日、私の放屁放送事故はSNSでバズり、WeTubeを始めとする複数の動画サイトには、恥ずかしい私の切り抜き動画が多数アップされていた。


 どうしてそうなったのか知らないが、バーチャル美少女であるにもかかわらず、素顔を晒してしまったのだ。しかも最悪なことに、画面にケツをドアップにしてマイクに向けブボッとやってしまったのだから。



「はぁああああーっ! 最悪だぁ……」

 溜め息と共に机に突っ伏した。


 切り抜き動画のコメント欄には、私を揶揄やゆする書き込みが連なっている。容姿を中傷するものもあれば、逆にビミョウな陰キャっぽさとムチムチな巨乳のギャップを褒める者など様々だ。


 そして、一番私が驚いたのが――――


「うっきゃぁああああっ! とと、登録者が8万人だとっ! 昨日までは120人くらいだったのに」


 そう、VTuberとしてほぼ無名だった私の登録者が、体を張った放送事故により一気に増えていたのだ。


「くっ、この変態どもめ。そんなに私の屁が見たいのか……」


 いくら悔やんでいても魔喪女ブーが無かったことにはならない。このまま辞めてしまっても、私の顔出し黒歴史は永遠にネットの海に残り続けるのだろう。もしかしたら、何かの事件でもあった時にネタとして画像が使われるのかもしれない。


「つまり、このままでは配信系VTuberとして爪痕さえ残せず、羞恥の配信中オナラという傷跡だけ残す結果に! だがしかぁし! 私はここから上り詰めてやる。大人気VTuberとしてなぁ! ふあぁーっはっはっは!」


 人前では無口な陰キャなのに、一人の時はやたら饒舌じょうぜつになる私は高笑いをする。



「パソコンぽちっとな」

 キュイィィーン!


 パソコンの電源を入れ配信の準備をする。そう、私は覚悟を決めたのだ。人気を得るためには何かを犠牲にせねばならないのだと。

 私は、やればデキる女なのだから! きっと。



「みんなぁー! いつもありがとぉ! はぐれゲーマー系改め、人気ゲーマー系VTuberの煌羅きららぺろみ17歳です」


 配信が始まり清楚系JKキャラが画面に映ると、見たこともないような速さでコメントが流れて行く。


:ファァァァァァー!

:キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

:ブボォ!

:くっさー

:魔喪女ブー

:誰が人気ゲーマー系や! 放屁系の間違いやろ!

:ぜってー許さねぇw


 現実は厳しかったようだ。コメント欄には私をネタにする書き込みで溢れる。


「えっとね、昨日はごめんねっ。もう配信切り忘れたりしないから。それと、途中でノイズが入っちゃったみたいでぇ」


:それは無理がありすぎる

:ノイズがぁ(ブボォ!)

:あんな爆音放屁がノイズのわけねーだろ!

:草草の草

:くっさー

:女がブーブーとか嘘言いやがって!

:そうだ、アイドルはオナラしねぇんだよ!


 女はオナラしねえだと! そんな訳ねえだろが! おまえらと同じように臭っさいのブーブーしまくってるよ!


 ついカッとなって暴言吐きそうになるが、グッと堪えて可愛い声で話をする。


「で、でもぉ、人間ならしょうがないよね。食べた分は出るからぁ。お花を摘みに行かないとならないし」


:こいつ開き直りやがったぞw

:中の人なんかいねぇんだよ!

:プロ意識ねえな

:屁コキ女とか最悪

:しょうがなくねぇわ!

:下品すぎる

:清楚なぺろみちゃんを返せ!

:やめちまえ雑魚!


 ブッちぃーん!

 私はキレた。そして、またしてもやってしまった。


「う、うう、うっせええええーっ! 女がオナラしないとか、おまえら童貞だろ! へっへぇーん、残念でしたぁ! 女もブーブーしますぅ! 夢壊してごめんなさいー! ブーブー!」


:最悪だコイツ……

:童貞イジリとか炎上もんだぞ!

:童貞にも人権あるんやぞ

:また放送事故か

:失言でクビだろ

:おまえは経験あるのかよ!


「け、経験? わ、私は……そ、そう、17歳だし。経験無くても良いんだしぃ」


:おまえ17じゃねーだろ!

:明らかに盛ってるわな

:あんな喪女OLっぽいJKがいるかアホ!

:おまえ処女のくせに童貞イジリかよ!

:放屁系WeTuberでリアル喪女とか終わってんな

:m9(^Д^)プギャー


「ううっ、うううぁ! うっきゃあああああああああああああああああああああああああああ!」


 その日、私は再び放送事故をして炎上することになる。そして事態は更に深刻さを増し、翌日のYapyu!ニュースのエンタメトップに載るのであった。


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