第22話 胸がちゃぽんと波の音を鳴らした

 昼休みが終わりそうになったので教室に帰ろうとしていると、向こうから異様に黒い印象をまとった生徒がやってきた。

 中野なかの絵美えみ

 午後の授業前なので、トイレに行くらしい。

 そうか。こいつもやっぱりトイレに行くんだ。

 悠海ゆみはすれ違いざまに、弾むような声で

「大賞おめでとう」

と声をかけた。

 「ふんっ!」

 絵美は迷惑そうに体を避け、不愉快そうに鼻を鳴らした。

 それだけだ。

 なぁんだ、せっかくほめてやっているのに。

 そう思うと、胸が、ちゃぽん、と波の音を鳴らした。

 悠海の豊かな胸が。

 振り向く。

 向こうも振り向いていた。

 すごくいたずらっぽそうに、笑って。

 悠海も、いまにも笑い出しそうだ、と、肩を縮めて見せた。

 そして、二人はまた目をらしたまま、反対方向へと、また歩き出した。


 (終)

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