第16話 敗者はこれくらいは尽くすもの
へんな絵、と思いながら、その絵を提出した。
冬ならばとっくに日が暮れているはずの時間まで、
悠海だってお昼ご飯抜きなのだから、まあ、それで釣り合うというものだろう。
しかし、
筆洗に水を汲んできたくせに、けっきょく鉛筆で描いたふしぎな幾何学模様以上のものを絵美は描かなかった。
だから提出できるわけがない。
五大先生にそのことを聞かれたら、絵美は月曜日には必ず絵を出す、と答えようと思っていた。じっさい、絵美は言ったのだ。
明日、描いて、仕上げる、と。
絵画コンクールには作品は月曜日に送るのだから、月曜日で間に合うのだ、と。
でも五大先生からは絵美のことは一言も言われなかったので、黙っていた。
絵美の椅子とイーゼルを片づけるのが悠海の仕事になってしまったけれど、まあ、いいかと思った。
悠海は負けたのだ。敗者は、勝者のためにこれくらいは尽くすものだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます