第17話 空洞

 翌日の日曜日、悠海ゆみは学校までやって来た。

 家族には「昨日会議に出たことで、ちょっと」と言っておいたが、もちろん嘘だ。

 隣町の家から湖のところまで下りて、湖畔こはん自転車道を十分走り、あの産業振興会館の前を通り、そこからだらだらの上り坂を息を弾ませて登ってまた十分以上かかる。

 聖厳しょうごんいんの参道を、観光客にぶつからないよう、あとで「おんこうの生徒の暴走自転車が走っていた」と町の観光課から学校にクレームが来ないよう、気をつけて、また走る。

 暴走自転車の主が生徒会副会長では、話にならないから。

 「この前は爆走したな」

ということは忘れてないけど、あのときは全力で学校とのあいだを往復しなければいけない理由があったのだ。

 だから、それはそれとして。

 自転車は学校に置いたまま、悠海は、あの場所に行ってみた。

 悠海が、絵美と、絵を描いた……。

 そう、いろんな色で絵を描いた、あの場所へと。

 もし、絵美えみが続きを描いているならば、今日、あの場所にやっぱり絵美はいるはずだ。

 だが、いなかった。

 いないだろう、と、最初からわかっていた。

 いまとなっては、あれが木漏れ日のかたちを写し取った図形だったのかどうかさえ、はっきりしない。

 もともと、絵美は、ただ時間をつぶしていただけかも知れなかった。

 だが、何のために?

 土曜日の午後なんだから、さっさと帰ればいいはずなのに。

 涼しげな初夏の風が吹き抜けた。

 悠海は、二つの胸のふくらみの下に大きな空洞が空いていて、そこにセーラー服の風止めを越えた風が吹きこんでいるように感じた。

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