27話:もう1回死んでくれねぇか?

 『俺 VS 大天使』。

 実力はほぼ互角だと予想されたこの勝負は、タンたんが『擬人化ヒトマネ』を使って決着。

 大天使が小さくなり、巨剣:ドラゴンキラーに潰されて試合終了となった。

 

 そして、ドラゴンキラーに潰されながら、大天使のおっさんは俺に向かって叫ぶ。


「あーもうッ、貴様なんか嫌いだ!! 私のタンを奪いおって!!」


「あ? 奪うも何も、テメェはずっとタンたんを放置してたじゃねーか。何を今更」


 タンたんも「?」と摩訶不思議な物を見る目で、大天使(今は普通の人間サイズ)を見つめている。

「ずっと放置してたくせに何言ってんの?」と言わんばかりの顔だ。


 しかし、そんな二人の視線に大天使は物申す事があるらしい。


「ええいッ!! さっきから聞いておれば、二人揃って私を悪者扱いしおって!! 私が10年間もタンを放置していただと!? ――そんな訳あるかァッ!!」


「「は?」」



「私はなッ、ドラゴンを10年間こっそり観察するタンを、10年間こっそり観察していたのだ!!」



「「な、何だってぇぇぇぇええええーーーーッ!?」」


 珍しくタンたんと声が揃う。

 想定外の台詞に少々頭が混乱したので、少し話をまとめよう。


 The archanjel said.

 大天使は言った。


「10年間ずっとタンたんを観察していた」と。

 

 えっと……正直、キモイです。

 っていうか、どういうこと?

 タンたんのことを放置してたんじゃなかったのか?


 育児放棄――いわゆるネグレイトだと思ってたんだが……。


 そんな大天使のまさかの発言を受け、タンたんは目をグルグルと回し完全に混乱している。

 漫画的で非常に分かり易い混乱の仕方だと褒めてやろう。


 しかし、大天使の方は褒められない。

 ドラゴンキラーに押し潰されながらも、完全にキレた様子で叫び出した。


「あぁそうさ!! 私は愛しの娘を10年間もストーキングしていたさ!! だがそれの何が悪い!? 子供が危ない目に合わない様に見守る事の何が悪い!?」


「え? いや別に、悪いとは言ってないが……」


「言っている!! 顔がもうなんか言っている!! 私が10年間昼間の仕事をサボっていたせいで、違法の異世界転生者が増えに増えまくって手が付けられなくなってしまったが、それの何が悪い!?」


「いや、それは悪いだろ。仕事しろよ」俺が言うのも何だけどさ。


「黙れ糞ドラゴン!! 私のタンを奪いおって!! あんなに可愛かったタンが、今や貴様を思い過ぎて寝不足で、目の下のクマが日常化してしまったじゃないか!!」


「それも踏まえて可愛いじゃねーか」


「その通りだ!! タンは世界一可愛いのだ!!」


 うっ、キモイ……。

 タンたんも「うわぁ……」って感じで引いている。


「ってか、そんなに娘が好きなら何で殺そうとするんだよ?」


 疑問はそこだ。

 仮に大天使の言うことが本当だとして、仕事を放り出してまで10年間陰からこっそりタンたんを見守っていたとしよう。


 気になるのは、それほどまでに好きな娘を、どうして今になって殺そうとしたのか。

 これまでの大天使の発言は、どう考えても「嘘でしたー」で済むような代物ではない。

 当然、本人としても本気で言っていたことらしいが……。

 

「――それは先程も言ったであろう? 天国の長:大天使として、魂の流れに逆らう事だけは許容出来ない。天国は厳格な規則によって秩序が保たれているのだ。その長が自ら規則を破る事など絶対にあってはならぬ。もしも自分の娘だけ生き返りを認めたとなれば、これはもう暴動が起きて天国が崩壊するのは必至。これでも私は平和主義者だ。多くの血が流れる結末は見たくない」


 う~ん、なるほどな。

 理に適っていると言えばそうだけど……。


「おっさん、本音は?」



「私になつかないタンなど死んでしまえ!!」



 なるほど……親子だな。

 タンたんがそんな父親を見てドン引きしているが……なぁタンたん、お前も傍から見たらこんな感じだぞ?



 ――ともあれ。

 タンたん親子の問題はこれで無事に解決(?)した訳だが、しかし問題はまだ残っている。


 このままでは天国が崩壊し兼ねない。


 当初は、天国の秩序など俺としてはどうでもよかったのが、それもこうなってくると話は別か。

 このまま俺がタンたんを連れ去り、しかも結果的にではあるものの、俺に大天使が負けたとなれば暴動が起こるのは避けられない。

 いくら敵対していた相手とはいえ、このままでは大天使が可哀想過ぎるだろう。


 娘をどこぞのドラゴンの骨とも知らぬ奴に奪われ、しかも自分の治める天国が混乱の渦に巻き込まれるのだ。

 泣きっ面に蜂もいいところ。

 これがどこぞの馬の骨とも知らぬ奴なら放っておくが、相手は狂ってもタンたんの父親。

 最低限のフォローくらい入れておいても損は無いだろう。

 

 という訳で。

 俺は全てを丸く収める起死回生の一手を打つ事にした。



「なぁタンたん、もう1回死んでくれねぇか?」



 ――――――――――――――――

*あとがき

「続きに期待」と思って頂けた方、作品をフォローして頂ければ幸いです。


 ↓★★★の評価はこちらから(★1つ貰えるだけでも凄く嬉しいです^^)↓

 https://kakuyomu.jp/works/16817330655781369085#reviews

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る