25話:天国へGO!!

 ――パチリ。

 目が覚めて、ドラゴン鼻の先に金髪美女の顔が見えた。

 むしゃむしゃと唐揚げを頬張る彼女の奥には、広々とした大空も見えている。


「おや、ようやく気が付いたか。こんな状況でお昼寝とは、随分と呑気なものじゃのう」


 三途の川の主こと唐揚げ大好きリバ子様が呆れ顔で笑ったが、俺は笑いたい気分ではない。

 せっかく人間の姿になれたのに、今やドラゴンの姿に逆戻り。

 そして何よりも“失った物”がデカすぎる。


「……タンたんは?」


「物の見事に連れ去られたようじゃな。まぁ正確を期せば里帰りしただけとも言えるが。むしゃむしゃ」


「……俺、どのくらい寝てた? タンたんが連れて行かれてから何秒だ?」


「期待が過ぎるな。そこは秒ではなく時間や日で訊くべきじゃ」


「御託はいい。何時間経った?」


「2年じゃ」


「2年ッ!?」


「嘘じゃ」


「うおいッ、サラッと嘘つくなよ!! 心臓止まるかと思ったぞ!!」


 ここからは、どう考えてもタンたんを連れ戻しに行く展開だ。

 2年も時間が経っていたら、既にタンたんは処刑されていただろう。


「本当は2時間ほどじゃな。何やら外が騒がしいから出て来てみれば、お主がドラゴン姿で倒れ、大天使がタンを連れて天国へと戻っていくところじゃった」


「それを黙ってみてたのか?」


「そう睨むな。わらわに大天使の相手をしろとでも言うのか? お主を助けてやっただけありがたいと思え」


「助けた? ……あぁ、そう言えば傷がねぇな」


 言われて気づいた。

 胸と足をビームで貫かれた筈なのに、開いた筈の穴が何処にも見当たらない。

 タンたんが『擬人化ヒトマネ』を解除したから傷も治った、なんていう都合の良い話でもないだろう。


 ドラゴンの姿に戻っても、俺は意識を保てずに気絶してしまったのだ。

 俺の血が地面に付いているので、アレが夢だったという訳でもあるまい。


「リバ子様が治してくれたのか? ありがとな」


「うむ、礼など要らぬ。本当はお主の驚異的な自己回復力で、自然と完治しただけじゃからな」


「マジで!? 俺ってスゲー!!」


「言うて中身はドラゴンじゃからな。様々な伝承に登場する伝説の生き物じゃ。大抵の傷は寝れば治る」


「そ、そうなのか……」


 マジかよ。

 今までまともに傷を負った事が無かったから知らなかったぜ……ともあれ、これで俺、完全復活だ!!


 それから俺は、リバ子様と仲良く暮らしましたとさ――となる訳もない。


 のそり。俺はゆっくりと立ち上がった。

 軽く屈伸をして、3本指の手をグーパーと閉じて開いて、全て問題無しだ。

 尻尾をフリフリして、翼をバサバサと羽ばたかせ、こちらも全て問題無し。


 それじゃあ。



「ちょっと天国に行ってくる」



 ――――――――



 ■誰でも出来る天国への行き方(初級編)■



 ~ ミッション1:天国からの使者を見つろ!! ~

 

 天国への行き方も、地獄とそう変わらない。

 

「――いた。仕事せずに呑気に寝てる神兵しんぺいが」


 神兵だって人間と同じだ。

 個性豊かな面子が揃っているので、中には仕事をサボって昼寝するヤツもいる。

 今回は町外れの丘でお昼寝していた、天国の神兵(40台で中肉中背のフツ面)がターゲット。



 ~ ミッション2:『世界扉ポータル』を奪え!! ~


 天国と地獄の者が、『世界扉ポータル』と呼ばれるゲートを使って世界を行き来しているのは周知の事実。

 昼寝中の神兵の首に掛けられているペンダントがそれだ。


お前の物は俺の物ジャイアニズム


 ZZZ……ZZZ……。


 昼寝していた神兵から、俺は何の問題も無く『世界扉ポータル』を奪った。



 ~ ミッション3:天国へGO!! ~


 『世界扉ポータル』を手に入れたなら、もう天国へ行ったも同然。

 「天国 ⇔ ヴァルハバラ」と書かれたペンダントの中央をカチッと押す。

 すると、目の前に黄色のモヤモヤとした「如何にも何処かに繋がってます」と言わんばかりのゲートが出て来た。

 

 そのゲートを怖がらずに通れば――天国への移動は完了となる。



 ――――――――



「ここは……羽葉はねばの森か」


 葉っぱの代わりに白い羽が茂っている、一風変わった木で出来た森が羽葉の森。

 天国においては一番ポピュラーな木で、見た目の美しさから「すげー綺麗な木」とも呼ばれている。


 ただまぁ、そんな天国の小話などどうでもいい。

 俺の目的はタンたんを取り戻すことであり、その為には羽葉の森の遠くに見える“天国の街並み”を目指す必要があるだろう。


 バサリ。

 翼があるので飛ぶのが一番手っ取り早い。

 羽葉の森の羽を大量に巻き上げながら、俺は空から天国の街へと“攻め入る”事にした。



 ――さて、ここで一つ質問だ。

 “天国の街”と聞いて、一般的にはどのような街を想像するだろうか?


 真っ白い雲の上に出来た、古代ローマの様な美しい街?

 それとも、近未来感あふれる高層ビルが立ち並ぶ街?


 後者を思い浮かべた奇特な人は、正解だ。

 数世紀前ならいざ知れず、天国や地獄だって現世と同じ様に、むしろ現世を先取りして様々な技術が進歩し、前者みたいなステレオタイプの街並みはとっくの昔に無くなっている。


 そんな近未来溢れる白い超高層ビルが立ち並ぶ天国の中で、一番高いビル――『大天使の館』前の広場に俺は降り立った。



「出て来い大天使!! タンたんは返して貰うぞ!!」



 咆哮と共に、青い空に向けて火炎放射!!

 超高層ビルと同じくらい高く上がった俺の炎が、大天使に対する宣戦布告。


 その布告を受け、手に槍を持った大勢の神兵がわらわらと俺を取り囲んで来る。

 その数は10、20、30……1000人は下らないか。

 流石は『大天使の館』前だけあって、警備神兵の数が半端ではない。地獄以上の警備だ。


「異世界『ヴァルハバラ』のドラゴンが何用だ!? ここは大天使様の館だぞ!!」


 知ってるよ。

 知ってるから来たんじゃねーか。

 

「雑魚に用はねぇ!!」


 尻尾を振り回し、その風圧で全員を吹き飛ばす!!

 続けて。


お前の物は俺の物ジャイアニズム


 吹き飛んだ神兵が落とした槍を全て奪い、1000本まとめて『大天使の館』にぶん投げる!!



 ――もしも。



 もしもこの槍が直撃すれば、『大天使の館』は根元から倒壊するだろう。

 1000本の槍は、ただの1000本の槍ではない。


 俺が投げた1000本の槍だ。


 その威力は、単純計算でダイナマイト爆弾1000発分に相当する。

 ダイナマイト爆弾1000発の威力がどんなもんか知らねーけど、だいたいそんな感じだ。


 当然、大天使としても無視は出来ない。

 空が突如発光し、眩い光と共に天からビームが降って来た!!


 そのビームが1000本の槍を破壊し、地面に直径10メートル程の大穴を開ける!!


 そして大穴の上空から、白い翼を生やした身長3メートルの大男が――大天使が降りて来た。

 その手に、まるで荷物を扱うように、片手でタンたんを掴みながら。


「タツヲちゃん……」


「よおタンたん、俺を置いて行くなんて酷いじゃねーか。俺を好きだって言ってたのは嘘だったのか?」


「嘘じゃない!! でもッ――」


「わかってるよ、冗談だ。すぐに終わらせるからちょっと待ってろ」


 俺がニッと笑うと、タンたんは複雑そうな顔をしながらも最後はコクリと頷く。

 続けて俺は、そのタンたんを抱える大天使をギロリと睨みつけた。

 睨みつけられた大天使は、「ふぅ~」と面倒くさそうにため息を吐く。


「全く、困ったドラゴンだな。せっかく娘の頼みで生かしてやったというのに、わざわざ自ら殺されに来るとは」


「はんっ。生かしてやったじゃなくて、生かすしかなかったんだろ? テメェがタンたんの望みを叶えてくれる訳もねぇ。俺がこの身体に戻って、単純にテメェは俺を殺せなくなった――“実力的”にな。違うか?」


 俺の問いに、大天使もギロリと睨み返して来る。

 これ、多分本気のやつだ。


「……神兵隊、全員下がっていろ。この場に残った者の命は保証しない」


 大天使の言葉を受け、神兵隊の全員が慌てて俺達から遠ざかる。

 腰抜け共め、と見下すよりは、正確に状況判断が出来ている良い神兵達だと称賛すべきか。


 俺と大天使と神兵達。

 それそれの実力を踏まえれば、それが賢明な判断だと言えるだろう。


 神兵共が全員下がり、『大天使の館』前の広場に3人だけという状況となった。

 泣いても笑っても、ここがクライマックスなのは間違いない。


 大天使がタンたんを地面に降ろし――さぁ、大天使はどう出る!?



「ドラゴンよ、取引をしようではないか」



「……は?」



 ――――――――――――――――

*あとがき

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