24話:俺はお前からタンたんを奪う

 天獄の長:大天使 = タンたんの親父は言った。

 娘であるタンたんを“殺しに来た”と。


「おいおいおい、タンたんを殺すだぁ? 穏やかじゃねぇな」


「親子の会話に口を挟むな。貴様には関係の無い話だ」


 言って、おもむろに大天使が右手を伸ばす。


 直後、右手からビームが放たれた!!


 俺の右肩にビームが直撃し、ジュッと音を立て、消える。


「……いきなり何すんだよ? チクッとしたぞ」


「噂通り硬いな。まぁ驚きはせんが」

 フムと一人納得し、それから大天使は続けて口を開く。

「それにしてもタンよ、何故死んでいない?」


「おいテメェッ、だから何だよその言い方は!!」


「だからそれはこちらの台詞だ。親子の会話に口を挟むなと、先程そう忠告した筈だが?」


「口を挟まずにいられるかよ!! 一体何が親子の会話だ!! 何処の世界に、子供が生きていることを責める親がいる!?」


「ここにいるが?」


「そういうこと言ってんじゃねーんだよ!! 小学生がテメェは!!」


 俺はマジで頭にきていた。

 コイツの発言全てがタンたんの存在を否定している。

 実の親だろうが何だろうが、俺はこいつをタンたん親として認めない。


「お前知ってんのか!? タンたんはなぁッ、この10年間、毎日欠かさず俺を観察しにやって来てたんだぞ!? この異世界『ヴァルハバラ』にッ、たった一人でだ!! ここには危険な動物もいるし、もしかしたら犯罪に巻き込まれたかもしれねぇ!! 俺が悪いドラゴンだったらどうする!? ヤバいロリコンがいたらどうする!? 普通の親ならッ、そんな危険な状態を10年間も放置しておかねぇよ!! しかもようやく出て来たと思ったらッ、実の娘に対して“殺しに来た”だと!? ――ふざけんじゃねーぞッ、テメェは父親失格だ!! 俺はテメェをッ、タンたんの父親とは絶対に認めねぇ!!」


「それはそうと喉が渇いたな。茶を貰えるか?」


「空気読めよ!! そういう感じじゃねーだろ今は!?」


 何だよおいッ、せっかくの俺の熱いセリフが台無しじゃねーか!!

 マジふざけんなこのクソ親父め!! 


 よ~し、こうなったら茶の代わりに、こぼした牛乳を拭いた雑巾のしぼり汁でも入れて出してやる。

 クックックッ、毒じゃないだけありがたいと思え!!


 とか考えていたら――ピタッ。

 タンたんの指が、俺の口を塞ぐ。


「……ありがとうタツヲちゃん。あとは私が話すね?」


「お、おう……」


 気持ちが落ち着いたのか、勇気が湧いてきたのかは知らねぇが、タンたんの震えは止まっていた。

 ただし、俺から離れようとはしない。

 俺を抱き締めたまま、顔だけ自分の父親に向けている。


 そんなタンたんの背中に、俺はそっと手を置いた。

 ただ、それだけだ。


 タンたんが喋り出すとわかったのか、大天使もジッと彼女を見つめている。

 

「……お父様、どうして私を殺すの? 私が何か迷惑でもかけた? せっかく生き返ったのに」


「生き返った事が迷惑なのだ、不出来な娘よ」


「テメェ、マジでいい加減にッ――」


 ピタッ。

 またもやタンたんの指で、俺は口を止められた。


 タンたんを見返すと、相変わらずクマの酷い目で、俺をジッと見返している。

 「大丈夫」だと、目が口ほどに物を言っていので、それならばと俺は黙って見守ることにする。


 もしも何かあれば、その時は実力行使に打って出るまでの事だ。


「……不出来な娘なのは、自分でもわかってるつもり。お姉様とお兄様に、私が何一つ勝てないのもわかってる。だからお父様が私を見放したのも……一人で納得した。だったら私がどう生きようと、それは私の勝手。私はタツヲちゃんとここで暮らすって決めたの。――それに、今まで父親らしいことなんて何一つしてくれたこと無かったじゃない。放っておいて」


「認められん」


「……どうして?」


「当然だろう。大天使の娘が“命の流れに逆らう”など言語道断。死者は死者の世界へ行くべきだ。そうでなくては世界の魂のバランスは保てない。それを“出来るから”と易々生き返るとは……情けない。恥を知れ」


「ッ――」


 大天使の無慈悲な言葉。

 タンたんは今にも泣き出しそうな顔で、ギュッと唇を噛み締め、それでも口を開く。


「……お父様は、私の生き返りが認められないと? それが例え、自分の娘でも?」

 

「娘だからこそ、認められんのだ」

 そして大天使は、一歩一歩こちらへと近づいてくる。

「お前の生き返りは、既に天国で噂になっている。当然、それを問題視する声も大きくなっている状況だ。このままお前を放置しておけば、やがて天国から秩序は消え去るだろう。皆の声を静める為には、最早お前を殺す他ない。――さぁ来い。お前は天国で公開処刑する」


 そして大天使がタンたんに腕を伸ばす。


 それをガシッと、俺が掴んで止める!!

 ギロリと、大天使が俺を睨む。

 

「止めてくれるなドラゴン。貴様の実力は既に把握した。ここで戦えば双方に甚大な被害が出るだろう、それは私も望まぬ事だ。――貴様は手を出すな、これは親子の問題だ」


「子を殺す親は、もう親じゃねぇよ」


「いいや、親だ。これは私の、親としての最後の愛情だ。“殺すからこそ親なのだ”。子を持たぬ貴様にはわかるまい」


 けっ、わかりたくもねぇ。

 そんな親、俺が子なら御免だね。



「決めたぜ。俺はお前からタンたんを奪う」



「奪えるものなら奪って見せろ」



 大天使が動いた!! 

 合わせて俺も動く!!


「きゃっ!?」


 タンたんをソファに投げやり、拳を握りしめ――激突。


 途端、眩い光と共に轟音が響く!!


 力は五分五分なのか、互いの拳が互いの拳を捉えたところで止まった!!


「やるなおっさん、パンチを止められたのは初めてだ」


「ふんッ、今のが私の本気だと思うのか?」


「そっちこそな!!」


 互いにもう一発、拳を打ち合うも互角!!


 どうやら本当に拮抗した実力らしい。

 面倒くせぇな……奪いたい武器も持ってねぇから、ここは大天使の威厳を奪う方向でいこう。


幸運の助兵衛な雨ハレンチレイン


「『否』」


「お?」


 大天使の声で雨が消えた。何でだ?


幸運の助兵衛な雨ハレンチレイン


「『否』」


 まただ。

 また雨が消えた。


幸運の助兵衛ハレンチ――』


「無駄だ。私の『審判ジャッジ』で全てのスキルは無効に出来る」


「……なるほどねぇ」


 別に驚きやしない。

 相手は天国を統べてる長:大天使。

 俺に負けるとも劣らないスキルを持っていることくらいわかっていた。


 ――ならばこそ!

 信じられるモノは己の身体能力のみだ!!


「消えた?」


 大天使が戸惑う程のスピードで、俺は大天使の背中に回り込んだ。

 無防備な大天使の後頭部目掛けて、拳を放つ!!


 が、目の前に傍観していた女神兵おんなしんぺいを出された!!

 

「ちょッ!?」


 慌てて拳を止めたところに、おっさんの裏拳が入る!!

 クソがッ、テメェそれでも本当に天使かよ!?


 不意を突かれて吹き飛ばされた俺は、壁に大穴を開けて家の外に飛び出してしまった。


「ぐっ……」


 流石に効いた。

 よろけて立ち上がったところに、大天使のビームを喰らう!!


「がっ!?」


 出力が最初とはけた違い過ぎる。

 胸をビームで貫かれ、口からドバっと血を吐き、俺は倒れた。


 い、痛ぇなおい!!

 こんな感覚何年ぶりだ!?


 だが、このままやられっぱなしで終われるか!! 

 俺は血反吐を吐きながら立ち上がり――その足に、ビームを喰らう。

 

「ッ――!!」


 ……畜生が。

 視界が揺らぎ始めやがった。

 立っていることも叶わず、俺は地面にドサッと倒れる。


 意識も視界が朦朧とする中、タンたんの声だけが耳に届いた。


「『擬人化(ヒトマネ)』――解除!!」


「ッ!?」


 ボフンッと、俺の身体が煙に包まる。

 その煙が晴れた時、朦朧とする視界に、久方ぶりに見たドラゴンの鼻が見えた。

 

 俺を、元に戻した……?

 一体何の為に……。


「タンよ、どうしてこやつを元の姿に戻した? “本来の防御力”に戻られては、いくら私でも止めの刺しようが無い」


「もういいでしょ! これ以上は辞めて!!」

 タンたんの声は今にも泣きそうで……いや、きっと泣いているのだろう。

「タツヲちゃんを殺さないで!! お父様の言うとおりにするから!!」



 ――その言葉を最後に、俺は意識を失ってしまった。



 ――――――――――――――――

*あとがき

ラブコメに要らない要素ナンバー1(弊社調べ)と噂の「シリアス展開」になってきました。

もっと気軽に読める作品にする為、次話からシリアス展開をぶっ飛ばしに行きましょう。

(この3章は比較的短めに終わります)


「続きに期待」と思って頂けた方、作品をフォローして頂ければ幸いです。


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