20話:閻魔の館を攻略せよ

「俺は異世界『ヴァルハバラ』最強のドラゴン:タツヲ!! 奪われた物を取り返しに『閻魔王の館』へやって来たッ、ドラ!!」



 ↑こんな宣言をしたせいで、閻魔の館の正面入り口が、一瞬にして阿鼻叫喚の渦に呑まれた。

 この場から逃げ出す者、腰を抜かして動けぬ者、逆に奮い立って睨み返す者、反応は様々。


 それからすぐにけたたましい警報音が鳴り響き、この場が地獄の日常から非日常の世界へ切り替わったことを教えてくれる。

 場に残った、またはすぐに駆けつけて来た30名の警備員が俺を取り囲み、地獄のこん棒片手にこれ以上無い程の警戒の目で俺を見ていた。


 いくら敵陣本拠地の正面玄関とは言え、この短時間でこの人数が集まるのは流石と言わざるを得ないだろう。

 ただし、全員が全員、冷静な目で俺を見ているとは言い難い。


「『ヴァルハバラ』のドラゴンだと! 本当か!?」

「くそ、閻魔王様が出張中だと知ってやって来たのか!?」

「いやまさかッ、噂のアイツは本物のドラゴンの筈!! こいつは角があるが人間だぞ!!」

「落ち着けお前等!! 焦っても事態は変わらねぇ!! とにかくまずはパンツを脱ごう!!」

「何でだよ!? パンツ抜いでも何も変わらねぇだろ!?」


 ――その通り。

 混乱してパンツを脱ごうが脱ぐまいが、俺の前では同じこと。



幸運の助兵衛な雨ハレンチレイン



「「「ッ!?」」」


 俺を取り囲んだ警備員全員の衣服が溶け、ほとんどの者はそれだけで悲鳴を上げて退散してゆく。

 全裸になっても逃げ出さない勇敢な者も数名いたが、その程度では話にならない。


 

お前の物は俺の物ジャイアニズム



「うわッ、俺のこん棒が!?」


 服を剥いだうえに武器まで奪えば、相手が丸腰になるのは当然のこと。

 あとはこん棒を取り戻そうと躍起になって掛かってくる、全裸の警備を掴んでは投げ・掴んでは投げを繰り返し、僅か数秒で全裸警備員の山を築き上げる。

 むさ苦しいおっさんが折り重なる光景は、絵面的に非常に残念な感じなのは否めないが……ともあれ。


 これで残った警備員はただ一人。

 混乱してパンツを脱いだヤツだけだ。


「お、おのれ最強ドラゴン!! そんなに俺のたくましい身体が見たいならッ、思う存分見せてやる!!」

 そして男は、あえて股間を見せつける様に駈けだした!!

「ほうら、これが俺の象さんだッがばぁらッ!?」


 非常に見苦しいので、遠くまでぶっ飛ばしておいた。

 


 ――――――――



 ――さて。

 そんな感じで警備員全員を投げ飛ばし、俺以外に立つ者がいなくなった「閻魔の館」の正面入り口から、俺は堂々と中へと入った。

 流石に地獄を舐め過ぎでは? と思うかも知れないが、そんなこともない。


 警備員の一人が「閻魔王は出張中」と言っていたので、警戒する必要が無くなったのだ。


 閻魔王のいない地獄など、お風呂シーンが無いラブコメみたいなもの。

 もしくはマリ〇が出て来ないスーパーマ〇オみたいなものだ。

 そんなもの恐れるに値しない。


「なぁ、閻魔王の娘:ネックの部屋は何処だ?」


「きゃあッ!?」


 1階ロビーの受付カウンターにて。

 しゃがんで隠れていた受付の若い女に尋ねてみたが、彼女は俺に怯えて小さく身を縮めている。

 別に危害を加えるつもりも無いが、状況が状況だけに女が怯えるのは致し方のない事だろう。


 という訳で。

 俺は女の首根っこを掴み、大口を開け、喉の奥に炎をチラチラとチラつかせる。

 

「素直に吐けば、お前に危害を加えることはない。もう一度だけ訊くぞ、閻魔王の娘:ネックの部屋は何処だ?」


「……さ、最上階です」


「そうか、ありがとな」


 必要最低限の脅しで必要な情報が聞き出せた。

 女を開放し、俺は奥のエレベーターエントランスで「↑」のボタンを押す――が、光らない。


 どうやらこの緊急事態を受けてエレベーターが止められたらしい。

 まぁこの対応は仕方が無い。


 俺はエレベーターを諦め、一旦外に出て、“外壁を素手でよじ登る”。

 指を突き立てて外壁にぶっ刺し、一歩一歩&一手一手登ってゆく。


 翼があれば最上階に行くのも楽だっただろうが、タンたんが居ないとドラゴンの姿に戻れないので仕方がない。


 逆に、俺とは打って変わって良い感じで空を飛ぶ「第5世代ドローン」からのガトリング砲を受けつつ。

 受けた弾を全て強靭な皮膚ではじき返し、俺はあっという間に最上階の窓まで到達。

 その窓を拳で突き破りくり抜き、「こんちはー」と中に入る。


 すると、呑気にも部屋の中にいたネックが驚きの顔でこちらを見た。

 相変わらず黒い水着姿で、黒いマントを羽織っている。


「のわッ!? い、一体何処から部屋に入って来てるのだ!?」


「窓だけど?」


「見ればわかるのだ!! 部屋にはちゃんと扉から入るのだと、そういう話をしているのだ!!」


俺ん家おれんちの天井ぶっ壊して入って来たお前に言われたくねぇよ」


「う、それは……。いやでも、オレ様が違法転生者に礼儀を尽くす必要は無いのだ!!」


「なるほど、確かにな」


 そりゃそうだ。

 犯罪者相手に正論を持ち出す方がおかしいのかも知れない。

 ある意味納得ではあるが、だからといってこのまま「さようならー」とする訳にもいかないだろう。


 ――そんな事より、改めて。

 今更説明するまでもないが、ここは閻魔王の娘:ネックの部屋だ。


 超高層ビルの最上階だが、閻魔王の娘ならばこんな勝ち組の家に住んでいてもおかしくはない。

 テニスコート1つ分はある広い部屋に、黒を基調としたお高そうな家具・調度品が配置されており、この場所に相応しい金持ちの娘っぽい部屋に仕上がっている。

 加えて、10歳の子供らしく「ぬいぐるみ」の1つや2つはあるかと思っていたが、そういうのは見当たらない。


 その代わりに目を引くのは、壁一面に設置された水槽と、その中にいる大量の“ホルマリン漬けの生き物たち”だった。



 ――――――――――――――――

*あとがき

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