18話:タンたんの身体を取り戻せ!!
~ 下山から1ヵ月後 ~
ようやくだ。
俺は本当にようやく、我が切り株ハウスへと戻って来た。
いやぁ~、「肉団子ボーリング走法」で下山そのものは早かったのになぁ。
下山してから家に戻ってくるまでが本当に長かったぜ……。
「リバ子様、ここが俺の家だ。元はパパとママの家だけどな」
「ほう、案外良い家に住んで居るではないか。吃驚じゃ」
そんな吃驚リバ子様の横 = 俺の頭の上で。
魂姿のタンたんは驚きを隠せずにいた。
「……私は、アンタが“痩せた”事の方が吃驚なんだけど?」
――コレだ。
下山から家に戻るまで、1ヵ月かかった理由がコレ。
『こんな姿で人前に出られるか!! 元の姿に戻るまで、
下山直後にリバ子様が発したこの発言により、俺とタンたんはリバ子様の「ダイエット大作戦」に付き合う羽目となった。
隠す必要もない本音を言えば。
当然、下山後はすぐに切り株ハウスへ戻りたかったが、主導権を握っているのがリバ子様である以上、リバ子様の要求を退けることは出来ない。
最悪、機嫌を損ねられてタンたんの生き返しを無かった事にされては本末転倒。
そんなこんなで実行された「ダイエット大作戦」に付き合うこと1ヶ月。
ようやく元の姿に戻ったリバ子様と共に、晴れて切り株ハウスへと戻って来た次第となる。
いや、しかし……それにしても困るのは“俺の目のやり場”だ。
先ほどは「元の姿に戻った」と表現したが、実際は違う。
スレンダーな身体つきはそのままに、「脅威のバストアップ」を果たしている。
「ちっ!!」
魂姿のタンたんが大きな舌打ちをした。
「まさか脂肪を寄せ集めて、バストアップに使うだなんて……ッ!!」
――コレだ。
たった1ヶ月で、リバ子様がスレンダーな身体に戻った理由がコレ。
女性が特定のブラを着用する際、脇や背中に流れるお肉を集めてバストアップを図る術は、既に多くの男性諸君が知っている事実だろう。
下着メーカーの企業努力が女性の力になった一例であり、世の男性諸君が初めてその事実を知った時は、9割以上が「へぇ~」と感心した筈(当社調べ)。
リバ子様はその手法を更に研究・昇華させ、身体中の無駄なお肉全てをバストアップに使う術を身に着けたのだ。
コレこそ目からドラゴンの鱗的な究極のダイエット法であり、たった1ヶ月で「樽越えスライム」 ⇒ 「スレンダー&ダイナマイトボディ」に変身出来た理由。
それでいて相変わらずの美人顔のままスケスケな衣装を着ているものだから、これはもう目のやり場に困るのなんの。
そんな俺の内心を察知したタンたんが、これまた烈火の如く怒ってくるものだから……いやはや本当に、この旅路は疲れに疲れたぜ。
という感じで「眼福」を堪能していた為に、俺はすぐさま後悔する羽目になる。
――――――――
――――
――
―
ガチャリ。
俺の部屋の扉を開けると、白衣を着た茶髪の女性「ヤマイナ・オーセル」先生が出迎えてくれた。
椅子に座ってコーヒーを飲み、優雅に本を読んでいたらしい。
「ただいま先生」
「おかえり。随分と遅かったな、待ちくたびれたぞ」
「まぁ、ちょっと色々あってな。……あれ、タンたんの身体は? ベッドにねぇみたいだけど」
「あぁ、それなんだがな。“奪われてしまった”」
「――へ?」
呆ける俺の前で。
リバ子様に視線を移した先生が、コーヒー片手に会釈する。
「師匠、お久しぶりですね。相変わらずお美しい」
「かく言うお主もな。相変わらず歳を取っておらん若々しい姿じゃな」
「そういうスキルをですからね。それにしても師匠……胸、そんなに大きかったですっけ?」
「ふふん、
「はぁ~、羨ましい限りです」
ってな感じで始まった、先生とリバ子様の再会話はどうでもいい。
電車でいちゃつくカップルの世間体くらい、実にどうでもいい話だろう。
「先生、さっきのはどういうことだ? タンたんの身体が奪われたって……」
「あぁ、実はな――」
そして先生が語ってくれた、タンたんの身体が奪われるまでの経緯は次の通り。
今から1ヶ月半ほど前の話だ。
俺がタンたんの魂を求めて【
具体的には、大きな水槽を俺の部屋に持ち込み、そこにホルムアルデヒド水溶液に入れて、更にその中にタンたんを入れる――つまりは「ホルマリン漬け」にしたらしい。
そんな方法で本当に大丈夫なのか心配だったが、「大丈夫だ、問題ない」と先生が言っていたので、それについては問題無かったのだろう。
追加でアレコレ薬品を入れると言っていたし、化学に詳しくない俺がアレコレ気にしてもしょうがない。
問題は、そこに“あの子”がやって来た事。
「え、ネックがこの部屋に来たって?」
「あぁ、閻魔の娘がこの部屋に来てね。“オレ様の鞭を返せ”とか言って来たんだ」
説明しつつ、先生は気だるげにヒョイと肩を竦める。
「それで部屋を漁って鞭を見つけて、その鞭で召喚した魔獣にタンたんの身体を運ばせたのさ。悪いとは思ったが、私にはどうしようもなかった」
「まぁ、アイツも何だかんだで強いしなぁ……」
ドラゴンの俺だからネックを軽くあしらっているが、『ヴァルハバラ』の住人の大半はネックに勝てないだろう。
この『ヴァルハバラ』で1年以上過ごした者は全員漏れなくスキル持ちではあるが、そのスキルが必ずしも戦闘に使えるとは限らない訳だし。
「そんな……私の身体が、あの貧乳泥棒猫の手に……」
流石のタンたんも凹んでいる。
ようやく魂の姿から元の身体に戻れる = 「生き返ることが出来る」と思った矢先にこれだ。
そりゃあ落ち込みもする。
いくらタンたんでも落ち込むときは落ち込むのだ。
せっかくここまで頑張ったのに、最後の最後に戻る身体が無いのでは夢も希望のありゃしない。
となれば、俺が取るべき行動は1つ。
「おい、何処に行くんだ?」
無言で部屋を出る俺に先生が問い、俺は振り向変えずに答えを返す。
「ちょっくら地獄に行ってくるわ」
――――――――――――――――
*あとがき
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