17話:死に物狂いの下山とタンたんの身体

 正直に言おう。

 ハッキリ言ってこれは「苦行」だ。

 体感「300キロ」は下らないだろうリバ子様を背負って、【死出の山シデノヤマ】を下山している途中なのだから。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


「タツヲちゃん大丈夫? やっぱりこの肉団子が重いよね? そこら辺に捨て置いていった方がいいと思う」


 頭に乗せた魂姿のタンたんが、サラッととんでもない発言をかます。

 疲れた身体には魅力的な提案だが、生憎とそういう訳にもいかない訳で……。


「馬鹿言うなよ。リバ子様がいなきゃお前を生き返すことが出来ないんだし、そもそもここで一人にしたら死物しぶつにやられて終わりだぞ。運ぶしかねぇだろ」


「そうかもだけど……でもこの肉団子、流石にぐうたらし過ぎじゃない?」


「それでも運ぶしかねぇよ。一人じゃまともに歩けねぇみたいだし」


 話題の中心でもある肝心のリバ子様は、俺の背中で唐揚げを頬張ったままグースカと寝ているところだ。

 ご丁寧に鼻提灯まで膨らませているが、アンタは漫画のキャラか何かか?


 食って寝て、寝て食って、食って寝ての繰り返し。

 その上で移動まで人任せにすれば、そりゃあこれだけお太りになられても致し方ないだろう。


 もはや人を運んでいるという感じではなく、ぶにぶにとした物凄くデカイ物体を運んでいる感覚だ。

 脱力した人間というのは本来の体重以上の重さを感じるものだが、元々脱力した様な体系なので、寝ていても起きていても変わらないのはありがたく……は、ないけど。


「全く、一体何があれば10年でここまで太れるんだよ? こんなの俺じゃなきゃ運べねぇぞ」


「ふ~ん? この肉団子、10年前は違ったの?」


「まぁな。10年前は普通に痩せてたし、スタイルの良い美人だった」


「この肉団子が? ……私よりも?」


「ッ!?」


 ――ゾクッと背筋が凍る。

 魂だけの姿でも、タンたんの声には底知れぬヤバさが漂っていた。

 これ以上の「リバ子様上げ」は命の危機に関わりそうで、必然的にフォローが必須となる。


「た、タンたんの方がスタイルが良くて美人さ……当然だろ?」


「えへへへ、そうだよね。タツヲちゃんに私以上の女はいないもんね。疑っちゃってゴメンね? 生き返ったら……はぁはぁ、また色々と尽くしてあげるからね?」


「お、おう。死なない程度に頼むぜ……」


 そんな会話を繰り広げつつ。

 普通に歩く何倍も遅いペースで地道に下山していると、やっぱり“奴等”が現れた。

 只今「荷物(リバ子様)運搬中」なので無視してくれると非常にありがたいんだが、そんな話が通じる相手でもない。



「GARURURURURU!!」 ×100



「きゃッ!! 何このグロい集団!? これが死物しぶつ!?」


 地面から這い出てきたゾンビ集団を見て、タンたんが珍しく悲鳴を上げる。

 どうやら実際に死物しぶつを見るのは初めてらしい。


「いけッ、タツヲちゃん!! 火炎放射!!」


「ドラ!!」


 なんちゃらモンスター的な支持を受け、俺は口から火炎放射を噴き出す。

 すると死物しぶつの軍団が炎に捕らわれ、100匹全部が悲鳴と共に焼失。


 これで万事解決――となるなら死物しぶつの対処は簡単だけど……。



「GARURURURURU!!」 ×1000



「ぎゃー!? 何この数!! 多すぎるよ!!」


「なー、そうなんだよ。倒すほどに増えてくから厄介なんだ」


「タツヲちゃんッ、もう一回火炎放射だよ!!」


「待て待て、毎回律儀に相手してたらキリがねぇよ。避けて進もう」


「その肉団子を背負って?」


「それは……」



「GARURURURURU!!」 ×1000



 当たり前の話だ。

 こっちの会話が終わるのを死物しぶつが待ってくれる訳も無い。


 1000匹の死物しぶつが「テメェも仲間にしてやる!!」と言わんばかりの顔で全方位から迫ってくる状況。

 逃げ場は無い。


 あるとしたらジャンプで死物しぶつの頭を飛び越えるとかだが、流石の俺でもリバ子様を背負ったまま大ジャンプは厳しい。

 元のドラゴンの姿なら恐らく可能だったけど、この竜人族の姿になって幾ばくか力が減っているらしい。


「タンたん、俺をドラゴンの姿に戻すことは出来るか?」


「う~ん、流石に今はスキルが使えないみたいで……」


 だと思ったよ。

 それが出来るなら最初からドラゴンの姿で運んでいるって話だ。


「タツヲちゃん、どうするの?」


「ええい、こうなったら!!」


 迷っている暇は無い。

 俺は背中に背負っていたリバ子を地面に降ろし、そして――転がす!!



「必殺!! リバ子様:肉団子ボーリング!!」



 坂道に逆らわず、ゴロゴロと転がり出したリバ子様。

 その巨体が、下から迫っていた死物しぶつを「ブチブチブチッ」と押し潰す!!


 結果、死物しぶつが悲鳴を上げて逃げ始めた。


「やったねタツヲちゃん!! おかげで道が開けたよ!!」


「よしっ、今の内に駆け抜けるぞ!! そんでリバ子様を回収だ!!」


 海を割ったモーゼの如く。

 勇敢なるリバ子様が切り開いた道を駆け抜け、俺は見事に死物しぶつの群れから脱することに成功。

 後は転がるリバ子様の前に出て、それを止めれば――。


「うおっ、重ッ!!」


 ズザザーッと俺の足が滑る。

 滑って滑って、滑って滑って、とにかくもう止まらない!


「ちょっ、これは無理いぁぁぁぁああああーーーーッ!!!!」


 成す術無くリバ子様のお肉に挟まれ、そのまま「肉団子ボーリング in the 俺」として【死出の山シデノヤマ】を下山する羽目となった。



 ――――――――――――――――

*あとがき

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