14話:【死出の山《シデノヤマ》】を駆け上がれ!!

 今一度、話を整理しよう。


 目を覚ますと、ストーカー娘:タンたんが死んでいた。

 俺は急いで掛かり付けの医者:ヤマイナ・オーセル先生を呼んだ。


 先生の見た目は30歳ほどだが、実年齢は3桁越えのスーパーBBAで……いや、これはどうでもいい。

 ハンバーグセットについてくるコーンって食べづらいよねー、っていう会話くらいどうでもいい。

 俺は相変わらず上半身が裸で、下は甚平を履いているという情報くらいどうでもいい。

 

 とにかく先生は言ったんだ。

「タンたんを生き返らせる方法がある」と。



 ――そして今、俺は山を走っている。



 山といっても、木々の生えた緑の山ではない。

 緑なんて一つも無い、ゴロゴロとした岩肌ばかりが目立つ殺風景な山だ 


 行きつけの酒場がある町を通り過ぎ、川を越え、谷を越え、山を越え、雲を越えた先にある山――標高3200km(メートルの間違いじゃないよ)の規格外の化け物山――【死出の山シデノヤマ】。

 北海道の宗谷岬から鹿児島佐多岬までの直線距離が1900Km弱なので、3200kmと言えば日本列島をヨッコイショと立たせたよりもデカいサイズだ(沖縄を含めたとしても)。

 それでいて斜面はなだらかなので、ここから頂上までの直線距離は一体何Kmあるのか予想もつかない。


 先生曰く。

 異世界『ヴァルハバラ』と、俺が人間として過ごした『現世』、そして『天国』と『地獄』の全てに通じるのが、この【死出の山シデノヤマ】らしい。


 その【死出の山シデノヤマ】の岩肌を焦がす程のスピードで、俺はなだらかな斜面を爆走している。

 爆走しながら、切り株ハウスで行われた先生との会話を思い返す。



 ――――――――

 ――――

 ――

 ―



 The teacher said./先生は言った。


「いいかいお前さん、よくお聞き。死んだ者の魂は、まず間違いなく【死出の山シデノヤマ】にある人魂道じんこんどう(*死んだ者の魂が通る道)を通る。このタンたんって子の魂は今そこにある筈だ」


「なるほど。その【死出の山シデノヤマ】に行って、タンたんの魂を持ち帰ってくればいいんだな?」


 すぐさま俺は部屋を出ようとしたが、「まぁ待て」と先生が止めてくる。

 

「【死出の山シデノヤマ】から魂を持ち帰るのは並大抵の苦労ではない。それにそもそもの話、魂を持ち帰って来たところで、この子の身体に魂を定着させることが出来ないんだ。“師匠”の手を借りない限りはな」


「師匠? 先生の先生ってこと?」


「そうだ。師匠は【死出の山シデノヤマ】に住んでいるから、とにかくまずは師匠に会え。ただし、【死出の山シデノヤマ】は人を寄せ付けぬ禁断の地。そう簡単に生きて帰って来れる場所ではなく、いくらお前さんといえども命を落とすかもしれん。それでも、お前さんは行くか?」



 ―

 ――

 ――――

 ――――――――



 俺が今、斜面を走っているのが先生の問いに対する「答え」だ。

 先生曰く、【死出の山シデノヤマ】の中腹に三途の川があり、その近くにタンたんの魂が流れているだろう「天国人」用の人魂道があるとのこと。

 問題は、その中腹に辿り着くまでが長すぎるということと、俺を拒む“敵”が出てき始めたことか。



「GARURURURURU!!」



 聞きなれぬ唸り声と共に、1匹の怪物が地面から姿を現した。


 その怪物を一言で言うと、言わゆる“ゾンビ”。

 それも魔獣:ニャルベロスの様な可愛さは皆無で、皮膚が腐敗し爛れたニ足歩行のガチなゾンビだ。


「これが先生の言っていた【死出の山シデノヤマ】の化け物……“死物しぶつ”か」


 足をずるずると引きずりながら、手にはボロボロの石斧を持ってこちらに近づいてくる。

 敵意を以て俺に近づいているのは明らかだ。


「喰ってもマズそうだし、うるさいから燃やすか」


 口から火炎を吹き、俺は死物しぶつを灰に変える。

 そして再び走り出そうとした、その時。


「GARURURURURU!!」 ×10


 俺の行く手を塞ぐように、今度は10体の死物しぶつが地面から張って出て来る。

 今度の死物しぶつもやっぱりグロいビジュアルで、手にはそれぞれ石斧を持っていた。


「あーもう多いな、いちいち焼くのも面倒くせぇ……武器だけ奪って先に行くか」



お前の物は俺の物ジャイアニズム



 これで武器を奪っておけば、放っておいても大した脅威にはならない。

 俺のチートスキルによって、死物しぶつは武器の石斧を取り上げ――られない。

 

 ……ん?

 おかしいな。

 死物しぶつの石斧を奪えない。



お前の物は俺の物ジャイアニズム



 もう一度スキルを発動する。

 が……しかし、結果は変わらない。


 つまりは“石斧が奪えない”。


「スキルが効かない……だと? おい、これはどういうことだ?」


 って、死物しぶつに訊いたところで教えてくれる訳が――。


「シデノヤマ、デハ、スキル……ハ、ムコウダ」


「教えてくれたぁぁああッ!?」


「ホシ、ガ……キレイ、ダネ」


「しかも結構ロマンチスト!! ってか喋んなッ、やりにくいわ!!」


 その姿で人間っぽいこと喋られると、ちょっと怖い。

 という俺の内心を慮る訳も無く。


「GARURURURURU!!」 ×10


 死物しぶつが斧を片手に迫ってくる。

 そうそう、お前等はそれでいいんだよ。


 ……いや、よくねぇよ!!


 【死出の山シデノヤマ】ではスキル無効だと!?

 おいおいおい、聞いてねぇぞ先生!!

 そういう大事な情報はちゃんと教えてくれねぇと!!


「GARURURURURU!!」 ×10


「くッ、面倒くせぇな!!」


 このまま黙ってやられる訳にもいかない。

 俺は口から火炎を放って、10匹の死物しぶつを全て燃やし尽くした。


 が――。


「GARURURURURU!!」 ×100


「ちょッ、どんだけいんだよコイツ等!?」


 10匹倒したと思ったら、今度はその10倍の100匹程が、周辺の地面一体からわんさかと這い出て来た。

 祭囃子まつりばやしに誘われた子供じゃあるまいし、そんなに出て来なくてもいいってのに!!


「くそっ、真面目に相手してられるかよ!!」


 この調子だと、100匹倒しても次は1000匹、1000匹倒したら次は10000匹とかに成り兼ねない。

 相手するのも馬鹿らしく、下手をすれば噛まれて俺も死物しぶつになっちまうとか、多分そんなありがち設定なのだろう。


 俺は死物しぶつを無視し、再び地面が焦げる程のスピードで山を駆け上がった。



 ――――――――――――――――

*あとがき

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