【2章:魂の救済編】

13話:ヒロインが死んだけど、ラブコメだし何とかなるかも知れない予感!!

 目が覚めたら、ストーカー娘:タンたんが息をしていなかった。

 この衝撃の事実を語るうえで、昨夜の流れについて軽くおさらいしておこう。



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 ――

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 ~ タンたん曰く『新婚生活』7日目の夜 ~


「はぁはぁ……またやっちゃった……」


 まただ。またタンたんが湯船で倒れた。

 彼女が倒れるのはこれで7回目。

 毎日の様に俺の風呂に乱入しては、俺の裸を見て、一人で勝手に興奮し、一人で勝手に昇天なされてしまうのだ。


 だから俺は仕方なく、いやもう本当に嫌々ながら、顔を嫌々ニヤニヤさせながら、「眼福眼福」と嫌々ながらも、風呂場でのぼせたタンたんの身体を嫌々拭いて。

 それからタンたんがベッドメイキングした俺の寝室に嫌々運び、彼女を嫌々ながらもベッドに寝かしつける。


 ……別に、俺だけパパとママの部屋で寝ても良かっただろう。

 出逢って日の浅い女の子と同じ部屋で寝ている今の状況が、おかしいということくらいは自分でもわかっている。


 ただ、俺は心配だった。

 タンたんが目を覚ました時、俺が近くにいないと発狂しそうな気がして、それで俺も同じ部屋で寝ることにしていた。


 性格はアレだが、見た目が可愛い女の子と同じ部屋で寝てみたかったとか、そういうことではない。

 性格はアレだが、見た目が可愛い女の子に「あなた、もう朝ですよ」とか優しく起こしてほしかったとか、そういうことではない。


 そんなゲスい考えは、理由の僅か9割程だ。

 俺は純粋にタンたんを心配しただけなのだ。


 とか言い訳を考えている内に、俺も眠気に襲われ、『新婚生活』7日目の夜が終わりを迎えたという次第である。



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 そして、俺は目を覚ます。

 タンたん曰く『新婚生活』8日目の朝。


 早起きしたタンたんが朝ご飯の用意をしてくれてるだとか、俺に裸で迫って来ているラブコメ的な状況だとか、そういう事を期待――オホンッ。

 予想していた訳だが、得てしてその予想は完全に外れる事となる。


 目が覚めたら、彼女が息をしていなかった。



「……タンたんッ!?」



 ■



「これは……」


 家に呼んだ掛かり付けの医者が、俺のベッドで動かぬタンたんを見て、唸る。


 ――彼女の名は「ヤマイナ・オーセル」

 白衣を雑に着た茶髪の彼女は、ドラゴンとして生まれた俺を取り上げた助産師であり、しかしその本業は医者。

 見た目は30前後の成人女性だが、己のスキルで見た目の若さを保持しているだけで、実年齢は驚異の三桁越えらしい。


 その長生き先生が、何とも言えぬ難しい顔をしている。


 これはアレだ。

 電車の中で、幼い子供から「ねぇパパ。赤ちゃんってどうやって生まれるの?」って訊ねられ、静かになってしまった電車の車両内で、周囲の人々が明らかに“自分の答えに耳を傾けている”と自覚しているお父さんくらい難しい顔をしている。


 そんな顔の先生に、俺は恐る恐る訊ねた。


「先生、タンたんは……?」


「恐らく“絶頂死”だ」


「え、絶頂……死?」何だそりゃ? 聞いたことねぇけど。


「文字通りの意味さ。絶頂して、その興奮で死んだ。発作の一種だと思えばいい。まぁしかし、実際にこの目で見たの私も初めてだよ」

 言って、先生が蔑んだ目で俺を見る。

「お前さん、いつの間にそんな人の姿になったかと思えば……一体この子とどんな変態的なプレイを楽しんだんだ?」


「ま、まだ何もしてねぇよ!!」


「ふ~ん、どうだかねぇ」

 凍てつくような先生の視線が痛い。

「ま、アタシには別に関係無いが……しかし、これは面倒くさいことになったね」


「面倒くさいって、一体どういう……ってか、え? タンたんはもう完全に死んだのか? 昨日まで普通に動いてたぞ? 呼吸しないで寝てる……だけじゃなくて? こいつなら呼吸無しでも生きてそうじゃね? あっ、お肉食べたら生き返らねぇかな?」


「あらら。お前さんも珍しく頭が混乱してるね。――そこに座りな。少し話を整理しようか」


 先生はベッドに腰掛け、それからクイッと顎で床を指した。

 言われた通り、俺は胡坐あぐらで床に座る、

 そしたら俺のドラゴンが、甚平の隙間から気だるげな「こんにちは」をしていたので、それを仕舞ってから改めて先生を見る。


 相変わらず、先生は冷めた目。

 それから呼吸を一つ入れ、淡々と口を開く。


「まず、これはハッキリとさせておこうか。この子は既に死んでいるよ。それは間違いない」


「間違いないって、そんな……」


 グラリと、視界が揺れる。

 出会ったばかりの女の子とは言え、面倒くさい事この上ない女の子だったとは言え、自分を慕ってくれていた女の子が俺のベッドで死んだという事実が、今一つ理解出来ない。


 ――いや、理解したくなかった。

 その事実を飲み込みたくなかったのだ。

 だって、だって昨日まで、あんなに元気そうに、俺に包丁やのこぎりを突きつけていたというのに……。


「なぁ先生、人工呼吸で治るか? それとも絆創膏を水着の代わりにしたら……あれ? コレって滅茶苦茶ヤバくないか? なんか生き返る気がしてきた! よし、早速試してみよう!!」


「待て待て待てッ、ヤバいのはお前さんだ。そんなもんで死人が生き返る訳ないだろう? 生き返らせたいなら別の方法だ」


「……ん?」

 何か今、先生がとんでもない事をサラッと口にしていたが。

「えっと……俺の聞き間違いか? タンたんを生き返らせる方法が、ある、みたいな言い方だったけど……」


「あるよ。そりゃあるだろ?」


「え、あ……そうなの?」


 さも当然と言わんばかりなその口調に、俺は一周回って拍子抜けし、何なら二周回ってダブル拍子抜けした。

 もう一周したら拍子抜けのハットトリックで、いくら何でも都合良過ぎる。


 ちょいとばかし「命」ってのを軽く見過ぎてないか?


 ――え? 転生した奴が何を言ってるんだ?

 うるせぇ、今はそんなことよりもタンたんだ。


「先生ッ、どうすればタンたんは生き返る!? 俺は何をすればいい!?」


「そう焦るな。生き返らせる方法を教える前に、お前さんに一つ問おう」


「いいぜ、何でも訊いてくれ。何でも答えるぞ」


「本当に何でも答えるな?」


「お、おう……。そりゃ訊かれれば答えるさ」


 やけに念押ししてくるが、別に俺は先生に隠すようなことなど一つも無い。

 先生が俺に訊きたいことがあるというなら、俺は全て正直に答えよう。


 あ、でも「ワタシのことは好きか?」とかだったらちょっと困るな。


 先生にはこの10年間、食事管理や体調管理、健康診断からお肉の美味しいお店の紹介まで、色んなことで世話になっている。

 先生のことは間違いなく慕っているし、好きかどうかで言えば勿論好きだが……しかし、それは「Like」の好きであって「Love」ではない。

 俺がドラゴンから人の姿になったからって、いきなり付き合って欲しいと言われても困るというか何というか――。



「お前さん、この娘の為に死ねるか?」



「――へ?」


 ――――――――――――――――

*あとがき

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