11話:ラブコメにお風呂場は必須
「ねぇタツヲちゃん、お風呂入って来たら? あの泥棒猫の匂いは今すぐ落とした方がいいよ。運気が落ちると思うの」
閻魔王の娘:ネックが出て行ってからそれなりに時間が経ち、多少なりとも落ち着いたストーカー娘:タンたんがそんな提案をして来た。
ネックの匂いで運気がどうこうはさておき、時間的には風呂に入ってもいい頃合いだ。
「風呂に入るのはいいんだが、ウチは温泉じゃねーからなぁ。まずは湯を沸かさねーと」
「あ、お湯ならもう沸かしてあるよ」
「え、そうなのか? いつの間に……」
「タツヲちゃんが睡眠や――お昼寝してる時に、お風呂の準備をしておいたの。寝室のベッドメイキングも済ませてあるから、眠くなったらすぐに寝られるよ?」
「ほう、気が利くな」
「えへへ~、だってタツヲちゃんのお嫁さんだもんね!!」
最早見慣れた感もある「ニタァ~」としたタンたんの笑み。
それを不思議と「可愛いかも……」と思ってしまった俺は、既にタンたんの術中に嵌ってしまったのだろうか?
彼女の目の下にある酷いクマも、何だかパンダみたいで可愛く思えてきたんだが……。
――ぶるぶるぶるッ。
頭を振り、俺は邪念とも呼べぬ何だかよくわからない気持ちを振り落とす。
こういう悩みは……アレだ。
先延ばしにしておくのが主人公というモノだろう。
「それじゃ、ありがたく風呂に入らせてもらおうかな」
「うん。私は後で入るから、タツヲちゃんお先にどうぞ~」
お? これは少しばかり予想外。
自惚れ覚悟で白状すると、絶対「一緒に入ろう」とか言われると思ってたんだが……ふむふむ、これは感心。
この短い時間で多少なりとも“節度”という概念を覚えたらしい。
節度さえ守ってくれれば、俺だってタンたんのことを邪険に扱うつもりは無い。
俺はその言葉に安心し、何の気兼ねも無く風呂場へと向かった。
~ 切り株ハウスの風呂場 ~
単刀直入に言って、この家の風呂場は広い。
全てが木で作られた牧歌的な風呂場で、旅館の大浴場か何かと見間違えんばかりの広さだ。
身長2メートルある俺が風呂場に立っても、どこか絵的な淋しさを覚える程の広さ。
この家の設計者が余程の風呂好きだったのか、それとも物凄く体の大きな人物だったのかは知らないが、とにかくこの広い風呂場が俺は昔から好きだった。
その風呂に、今日は新しい姿で入る。
まずは入浴前に身体を洗い、本日の様々な汚れ(ちょっとした心の汚れとかを含む)を洗い落とす。
10年ぶりの人の姿での洗体だが、生前の習慣を身体が覚えていたので特に困ることはない。
身体を洗ったらお湯で流し、それから湯船にドボンッと飛び込んだ。
ふぅ~と、俺は心の底から安堵のため息を漏らす。
「あぁ~、俺が人間の姿で風呂に入れるなんてなぁ。ドラゴンの姿も悪い訳じゃなかったけど……いやぁ、やっぱ人の姿が最高だ。こりゃあタンたんに感謝しねえとな」
「えへへ~、そう言って貰えると嬉しいな♪」
「うおっ!?」
ビクッ。
俺の身体が震え、湯船も揺れた。
いつの間にか俺の隣に、タンたんが“全裸”で立っていたのだ。
そのか細い右手に、湯船の煌きを受けてギラリと光る“鋸(コノギリ)”を持って。
「お、おい、その手に持ってるのは何だ?」
「何って、
「それは見りゃわかる。そうじゃなくて、
「何でって、ちょっと斬って私が保管しておこうと思って。事と場合によっては、だけど」
「保管? それに斬る?」
それともKILL(殺す)の聞き間違いか?
どっちにしろ良い予感はしないんだが……。
「えっと、斬るって何をだ?」
この質問に、タンたんは俺の股間を指差した。
「何って、タツヲちゃんのアソコだけど?」
「ふぁッ!?」
何だって!?
何を言ってるんだお前は!?
おかしい、おかしいぞこれは!!
俺が思い描いていた女の子とのお風呂はこうじゃない!!
俺が思う一般的な流れだと、ここは俺の視線がタンたんの小さ過ぎず大き過ぎない柔らかそうな双子果実に目がいって、それからその下にある誘惑の三角地帯に目が行く――その直前で俺はフッと視線を逸らして「見ちゃ駄目だ!!」みたいな葛藤をするところじゃないのか?
少なくとも、俺が見てきたアニメだとそうだったぞ?
だというのに、どうしてこうなった。
タンたんはやっぱりおかしい。
ってか、ヤバい。
「お、おい。一応訊いておくが、本気で俺のアレを斬るつもりじゃないよな?」
「それは、タツヲちゃんの返答次第……内容如何によっては斬っちゃうから」
「ッ――」
や、ヤベぇよこいつ!! マジでやべぇ!!
知ってたけど!!
「ねぇタツヲちゃん、本気で答えて? さっきのネックって子……本当に浮気相手じゃないよね? もしもアイツが泥棒猫だったら――」
「いやいやいや、だから違うって言っただろ? そもそもネックは10歳の子供だし、子供相手に浮気も何もねぇだろ」
俺が至ってまともな答えを返すも、タンたんはまだ納得のいかぬ顔だ。
「それじゃあタツヲちゃん、凄く……物凄く嫌だけど、あの泥棒猫の姿を頭に思い浮かべて」
「あ? 何でそんな事を……」
「いいから」
――ふむ。
よくわからんが、やれと言われればやるまでだ。
それで納得してくれるならやってやろう。
俺は目を瞑り、ネックの姿を思い浮かべた。
――――――――――――――――
*あとがき
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