8話:閻魔王の娘、登場!!
マジでヤバいストーカー娘こと、タンたんは言った。
「今日から私達、ずぅ~~~~っと一緒に暮らせるんだよ?」
――これだ。
俺が危惧していたのはこれ。
既に太陽は仕事を終え、今は丸いお月様が夜勤で空の低い位置に出勤している。
子供ならとっくに家へと帰る時間だが、タンたんがこのまま「ばいばーい」と帰る未来が俺には全く見えなかったのだ。
そしてその予感というか、ある種の予定調和な展開は物の見事に当たっており、俺は「う~む」と唸り声を上げる。
「タンたん、お前マジでこれから俺と一緒に暮らすつもりか?」
「勿論。愛する人と暮らすのは当然のことでしょ?」
答えが真っ直ぐ過ぎて、真正面から見るのが少し辛い。
「そのストレートさは素直に尊敬するが……しかし俺には理解出来ん。というか教えてくれ。何でお前は、そんなに俺のことを慕ってくれるんだ?」
「それは……一言で言うと『
「真面目に頼む」
俺が真剣な眼差しを返すと、タンたんは「むすぅ~」と唇を尖らせる。
が、それでも俺がジッと待っていると、諦めた様子でポツリポツリと語り出した。
「……私、5歳の時に初めてこの『ヴァルハバラ』へ遊びに来たの。……え? 勿論天国から来たんだよ。それで大きな木の家があるなーって中を覗いたら、そこにタツヲちゃんがいたの。その瞬間、私はタツヲちゃんに一目ぼれして……え? 好きになった理由? それはもうあまりにもカッコよくて、可愛くて……はぁはぁ、思い出したら興奮して来ちゃった。えっと、それから毎日『ヴァルハバラ』に来て、タツヲちゃんだけを見て暮らしてたの。それを10年くらい……え? 今になって話しかけて来た理由? それはね――」
1つ、この辺りで断りを入れておくが、俺はタンたんが喋っている間に質問など一つもしていない。
彼女が勝手に“俺が知りたがっていると妄想して”勝手に喋っているだけだ。
確かに彼女の話す内容は俺が知りたがっていることだが……こ、怖ぇえよコイツぅぅううーーーーッ!!
「――で、私がようやく15歳になったから来たの」
「ん? ちょっとスマン。よく聞こえなかったんだが、15歳が……何だって?」
「だからね、天国人の女性は15歳から結婚出来るから、こうして改めて妻として嫁ぎに来たの」
「な、なるほど……」
うん。やっぱりタンたんはヤバい奴だった。
聞くまでもなくわかってたけどな。
聞きたいのはまた別のこと。
「つーかさ、お前の親とか家族は何も言わねぇのか? 嫁として嫁ぐどうこう以前に、5歳の時からそんな頻繁に出かけてたら普通は怒られるだろ?」
そう尋ねた瞬間、訊かなければよかったと後悔した。
それまで嬉しそうに話していた彼女の顔が、一瞬にして曇る。
「……別に、私がいなくなっても、どうせ誰も気にしないから……」
「あっ……えっと……」
「………………」
思わぬ沈黙が流れた。
俺のせいではあるのだが、参ったなぁ……というのが正直な感想だ。
気まずい。非常に気まずい。
この空気を変えるのは、街中でウォー〇ーを探すくらい難しく、唐揚げと茶色のトイプードルを写真で見分けるくらい難しい。
これは何と声を掛けたものか……。
二人して沈黙する、そんな最中に、いきなり“彼女”は現れた。
轟音!!
天井が「バリバリバリッ!!」と突き破られ、舞い落ちる木片と共に「小さな生き物」がスタッと着地。
そして小さな胸で大きく息を吸い込み、吐き出す。
「出て来るのだドラゴン!! 今日こそオレ様がッ、貴様を地獄に送ってやヴべッ――やるのだぁぁぁぁああああーーーーッ!!!!」
登場したのは、噛んだことなど全く気にしない少女。
年の頃は10歳程で、年相応に小さな身体ながら、大胆にも露出度の高い黒いビキニを着ている。
その多すぎる肌色率を誤魔化すように、水着の上から裏地が真っ赤な黒いマントを羽織っており、血の様に真っ赤な目と、タンたんとは対照的な真っ白い髪の毛が印象的な少女だ。
頭には黒く大きな帽子を被り、手には女王様が持っていそうな黒い鞭を持っている。
そして彼女は、何かを探すようにキョロキョロとリビングを見渡す。
「むぅ、ドラゴンがいないのだ……。おい、そこのお前」
ビシッと、少女は手に持った鞭で俺を指し、俺も俺で自分を指差す。
「俺か?」
「そうだ、ドラゴンの角っぽいのを生やしている竜人族みたいなお前だ。この家にドラゴンが住んでいる筈だが、何処に行ったか知らないか?」
「あー、何処に行ったというか何というか……」
何処に行くも何も、俺はここにいるんだけどな。
まぁ今までの俺とは姿が違い過ぎるので、コイツが俺をわからないのも無理はない。
これはアレだ。
黒髪で大人しそうなクラスの女子が、夏休みが終わって金髪黒ギャルになって教室に入って来て、クラスメイト全員が「あいつ誰……?」となった時レベルの変化。
もしくはテレビアニメ化した時に、キャラデザが漫画と違い過ぎて「あいつ誰……?」となった時レベルの変化か。
まぁ今の例えがわかろうがわかるまいが、つまりはわからなくて当然だろうという話。
ならば説明せねばなるまいと、俺が口を開く――その前にタンたんが動く。
「むっ、何なのだ女? オレ様に何か用でも……むぐっ!?」
ハンカチを手にしたタンたんが無言で少女に近づき、その口にハンカチを押し当てた。
その数秒後、少女はカクンと力なく頭を垂れる。
……おいおいおい、まさかクロロホルム的なやつで眠らせたのか?
Why? 何故?
訳もわかららず俺がただただ見守っていると、タンたんは完全に脱力した少女を床に寝かせ、それから静かな闘志を燃やす瞳をこちらに向ける。
「……タツヲちゃん、コイツ誰? こんな露出度の高い衣装でタツヲちゃんに夜這いに来るなんて……許せない。事と場合によっては、ここで消えて貰う流れになるけど?」
「待て待て待て、早合点するな。こいつは『ネック』っていう子で、地獄の長“閻魔王の娘”だ」
――――――――――――――――
*あとがき
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