6話:タツヲ、人間(竜人族の姿)になる!!

 結論から述べよう。

 俺を「人の姿にする」という彼女の言葉に偽りはなかった。


 最初こそ、適当なことを言うストーカー娘に俺は呆れ、酒場から去ろうと思ってロッキングチェアから立ち上がると同時。

 女はこう口にしたのだ。



擬人化ヒトマネ



 ――するとどうだ?

 

 俺の身体がキラキラでピカピカな光に包まれ、大事なところをキチンと隠した光の中で“俺の身体が生まれて変わってゆく”。

 そして魔法少女の変身シーンばりの光が収束を迎えた時、俺はそれまでの俺ではなくなっていた。


「これは……あぁ、なんか久々な感覚だ……」


 『感動』という言葉は今の為にあったのだろう。

 横を見て、酒場の窓に反射する自分の全体像を見れば――あら素敵。


 シルエットは“9割9分”人間。

 頭部の左右からドラゴンの角が生えていなければ、見知らぬ他人に「俺、元はドラゴンだったんだぜ?」と言っても「何言ってんだコイツ? テメェの頭はハッピーセットか?」となっていただろう。


 肌が赤褐色に近いのはドラゴンの時の名残かもしれないが、それでもグーパーと両手を開くと、指は5本。

 当然、鱗の付いたドラゴンの腕ではなく「人の腕」から繋がっているし、足も人間のそれだ。


 全体的に手足は長く、身長は目算で2メートル程。

 目線の高さは今までとさほど変わらないので、立っている感覚に違和感はない。

 細身だが筋肉質な体系で、ガタイはかなり良い方だ。


 端的に言って、ゲームとかでよくある“竜人族”みたいな感じか。


「タツヲちゃん、どう? 私のスキル『擬人化ヒトマネ』は、何でも人間っぽく出来るの」


「……素直にすげぇな。もしかして、ずっとこのままでいられるのか?」


「基本的にはそう。でも、言ってくれれば元に戻すことも出来るよ」


「マジかよ」便利過ぎるだろ。


「気に入ってくれた?」


 相変わらず下着姿のストーカー娘が、如何にも「褒めて?」みたいな顔で下からのぞき込んでくる。

 おかげでそんなに深くはない谷間に俺の目が導かれ、柔らかそうな双子果実とブラの間に隙間が出来て、そこに魅惑の山頂が……。

 

 ――はっ!?


 何を俺は覗き見してんだ!? これ以上は駄目だ!!


「……タツヲちゃん、どう?」


 俺の視線に気付いていたのか、いないのか。

 もう一度念押しする様に女が訊いてきたが、流石に嘘を吐く気にはなれない。


「ま、まぁ悪くはない……ありがとな」


「えへへぇ~、どういたしまして」


 ニタァ~と、女はやっぱりヘビみたいに笑う。

 顎の下まで舌が伸びるとか、お前は爬虫類か何かなのか?

 その彼女長い舌が、ちょっとだけ可愛く見えてきたのは……どうか俺の勘違いであって欲しいところだ。


「それにしてもタツヲちゃん……」


「ん、何だ?」


「やっぱりこっちもドラゴン級だね」


「こっちって……ハッ!?」


 いやん!!



 ■



 さて、竜人族(自称)に成れたのは良かったが、酒場の客が見ている前というのは良くなかった。

 ある種、酒場のマスコットと化していた俺が竜人族(自称)になっちまったせいで、酒場の中はてんやわんやだ。

 店の連中が出て来ると大変な騒ぎになるのは目に見えていたので、俺は女の手を引いてそそくさと酒場から退散した。 



 ――そして、今は大きな切り株の家の中だ。

 世界樹を切り倒した様なデカさの切り株をくり抜き、その中を家にした文字通りの切り株ハウス。


 元々は、地獄へ強制送還された俺の両親と住んでいた家で、今は俺一人だけがこの家で暮らしている。

 テーブル席やソファー席がある広いリビングが中央にあり、奥にはキッチンや水場、2階には俺の部屋やパパとママの部屋を含め、いくつかの部屋がある広い家だ。


「俺はパパの服を着てくる。適当に座ってろ」


「私は全部脱げばいいの?」


「馬鹿野郎かお前は? 逆だ、着ろ」


「えぇ?」と不満げな女を無視し、俺はパパとママの部屋に久しぶりに入った。

 何年も一緒に暮らした相手なので色々と感慨深い感情も浮かびはしたが……今は思い出に浸っている時間でもない。

 クローゼットの中から適当にパパの服を見繕い、俺は10年以上ぶりとなる人間としての着替えを終えた。



 ――――――――



「ねぇタツヲちゃん……タツヲちゃんが上半身が裸なのは、私を誘ってるってことでいいの?」


「このサイズに合う服が無かっただけだ。下も無理やり甚平を着てるだけだし……まぁそんな事よりも、とにかくそこに座れ」


 俺がドスンとソファーに座ると、女も反対側のソファーにちょこんと座った。

 ……座ってろって言った筈なのになぁ。


「それで、お前は誰だ? まだ名前も聞いてなかったけど」


「私は『タン』だよ。タンたんって、愛情込めて呼んで欲しいな。たっぷりと、ねっとりとした愛情を込めて? ……はぁはぁ……ねぇ、やっぱり今から私と子作する?」


 だ、駄目だコイツ。マジで本当に何とかしないと……ッ!!

 

 ――そんな事を考えていると、タンたんがパンッと両手を叩いた。


「そうだタツヲちゃん。のど乾いたでしょ? お茶どうぞ」


「お、案外気が利くな」


 俺が着替えている時に用意したらしく、タンたんがお茶を差し出して来た。

 酒場からここまで急ぎ足で来たので、確かに喉はカラカラだったし、これはありがたい一杯だ。

 

 遠慮なく受け取り、一口含んだ。


 ズズッ。


 む……普通に美味いな。

 何かよくわかんねぇけど、香りとか味とか、自分で入れてた茶よりも良い感じがする。


「どう? 茶葉の香りも渋みも旨味も楽しめる85度で淹れてみたの」


「へぇ~」

 ズズッ。うむ……やっぱり美味い。

「こりゃあ確かに美味いな。茶に詳しいのか?」


「えへへ、詳しいって程じゃないけど……でも、タツヲちゃんの為に花嫁修業は欠かさなかったから、家事は一通りこなせるよ? タツヲちゃんの大好きな魔獣のお肉料理も作れるし……どう? 私をお嫁さんにする気になった?」


「むっ、魔獣の肉料理か……」


 これは俺にビビッと来るワードだった。

 ずっとドラゴンだったせいもあってか、俺は魔獣の肉が無ければ生きれない、と言っても過言ではない身体になってしまっている。

 その魔獣の肉を使った料理もバッチリだとくれば、これは確かに嫁に欲しいところだ。

 

 しかも、今になってよく見てみると、このタンたんというヤバい女……案外可愛らしい顔つきをしている。

 相変わらずの目の下のクマは酷いし、しっとりとした黒髪とヤバめな愛情も相まって、色々と重たい感じのする女ではあるが……うん、そこさえ抜かせば普通に可愛い。

 

 こんな可愛い子とイチャイチャ出来たら、それは確かに……悪い話……では……な……。

 

「ふぁ~~……あー、何か急に眠くなってきた……」


 フラフラと俺の視界が揺れる。

 世界が揺れていないのであれば、俺の身体が揺れているのだろう。

 急に眠気が来た。この姿になって疲れでも出たのだろうか?


「タツヲちゃん、大丈夫?」


 心配そうに声をかけ、倒れかけた俺の身体を支えるタンたん。

 その顔が、ヘビの様にニタァ~とした笑みを浮かべているように見えたのは、俺の意識が朦朧としていた為だろうか?


 ――――――――――――――――

*あとがき

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