5話:ヒロインはストーカー娘

 これは、俺が見知らぬ女に子作りをせがまれる9年前の話。



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 ――

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 ふと気が付くと、目の前に“光の人間”がいた。


「おぉタツヲよ、ようやく気づいたか」


「誰だ? 眩しくてよく見えねぇけど……」


「私はスキルの神だ。夢を通してお前に話しかけている」


「スキルの神? マジで?」


「マジだ」


 マジらしい。

 話が唐突過ぎるものの、全く予想が出来なかったかと問われれば、必ずしもそうではない。


「風の噂で聞いてたんだよ。異世界『ヴァルハバラ』で暮らしていれば、いずれ“すげー凄いおっさん”からスキルを貰えるとか何とか」


「うむ、私が噂の“すげー凄いおっさん”だ。スキルの神である私は、生きとし生ける全ての者へ平等にチャンスを与える」


「つまり、ようやく俺もスキルが貰えるのか?」


「その通りだ。しかもドラゴンであるタツヲには、特別に2つのスキルを授けよう」


 やったぜ!! すげー凄いおっさん、最高だ!!

 と思ったのも束の間。

 すげー凄いおっさんことスキルの神は「ただし」と接続詞を加える。


「スキルの使用には、絶対に破ってはならない条件がある」


「条件?」


「うむ。それは“決して女性に暴力を振るわないこと”。もしもその条件を破ってしまえば、お前に授けたスキルは強制的に返して貰うことになるだろう」


「わ、わかった。気を付けて使うよ」



 ―

 ――

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 という9年前の夢を経て。

 俺は難なく2つのチートスキルを手に入れた訳だが……しかし、ここで当然の疑問が浮かんでくる。


 “どうしてこの女が、夢の中の話を知っている?”


 女性に暴力を振るわない、というこのスキル使用の条件は、ぶっちゃけ大きな弱点にもなり得る代物。

 誰かに知られでもすれば、それを逆手に取られる可能性は容易に想像がつく。

 それがわかっていたからこそ、俺はパパやママにさえこのことを話していなかった筈だが……。


「タツヲちゃんは今、“どうしてこの女が、夢の中の話を知っているんだ?”って思ったでしょ」


「ッ!?」

 俺の心を読んだ、だと!?

「まさかお前……エスパーなのか?」


「ううん、ただの乙女の感」


 マジで!? 乙女の感、凄すぎだろ!!

 と感心している場合ではない。

 女が「はぁ、はぁ」と鼻息荒く俺に近づいて来る。


「タツヲちゃん、子作りしよ? ね? いいよね?」


「いや、駄目に決まってるだろ。それ以上近づくなよ?」


「えへへ、恥ずかしがらなくていいよ」


「ちょッ、止まれって!!」


 俺が止めても、女は止まらない。

 制服のスカートが捲り上がるの無視し、ロッキングチェアに座る俺の上に容赦なく跨って来る。

 更に女は、“何も無い俺の股間”をさわさわと撫でる!!


「おい、そこは……ッ!!」


「知ってるよ? タツヲちゃんのココ、“収納式”なんでしょ? 普段は奥に隠れてるもんね」


 くっ、マジかよこいつ!!

 そこまで知ってるのか!?


「お前、どうしてそのことを? そんなの実際に見なきゃわかる訳が……」


 いや、待て。

 待て待て待て待て。

 おいおいおい、待ってくれよ。

 まさかとは思うが、見られていたのか?



 俺の貴重な“トイレシーン”を。



「テメェッ、人のトイレを勝手に覗くんじゃねぇよ!! 覗き魔かお前は!?」


「そうだけど?」


「あっさり認めたッ!?」


 その心意気、逆に清々しいぜ。

 そんな求めていない清々しさを見せてくれた彼女は、これまた求めてもいない完全なる下着姿を披露。

 俺の喉が「ゴクリ……ッ」と水分を欲するのはどうしようもない事だが、しかし、このままでは駄目だ。


「いやいやいや、ちょっと待ってくれ!!」


 堪らず、俺は3本指の前足で女の肩をガシッと掴む。


「……どうしたの?」


「どうしたの? じゃねーよ。おかしいだろ」


 フルフルと、俺は頭を横に振る。

 確かに、俺は女の子にモテモテになりたかったし、「あわよくば」と気持ちもあったが……しかし、ちょっと待ってくれ。 

 これは俺の望む形ではない。



「あのな、俺はこんなの望んでないんだ」



 ハッキリと、俺はハッキリと自分の意見を口にした。

 途端、彼女の目から涙が零れ、白い頬をつーッと流れてゆく。


「……何で? どうしてそんなこと言うの? 私は、こんなにもタツヲちゃんのことを愛してるのに……」


 そして女は、俺の首を両手で絞める!!

 更にガクガクと揺らして来る!!


「ねぇ何で!? どうして!? ねぇどうしてなの!? 何で私と子作りしてくれないの!?」


 ひぃッ!! 何この女!?

 マジで怖いんですけど!!

 首絞められても全然痛くはねぇけど、でもマジで怖い!!


「な、何でとか言われても、俺はお前のこと知らねぇしッ」


「………………」


 俺がまっとうな言葉を返すと、女は泣き止んだ代わりに「むすぅ~」っと表情をしかめる。


「だったらタツヲちゃん、私を知って? タツヲちゃんが今より私を知ってくれたら、今よりもっと親しい仲になったら、今よりもっともっと私を愛してくれたら、子作りしてくれるんでしょ? そういうことだよね?」


「そ、それは……」


 言葉に詰まった。

 その理由は、自分でもわかっている。


「でも俺……こんなドラゴンの姿だし」


「それが何? カッコよくて可愛いよ?」


「そうかもだけど……でもやっぱり、人の姿じゃないってのは……」


 俺はとうとう俯き、黙り込んでしまう。


 ――情けない。

 自分の姿が人間じゃないというだけで、俺は女に対して物凄い引け目を感じていたのだ。


 いくら強くても、カッコよくても、俺はマスコット以上の存在にはなれない。

 ドラゴンとして黄色い声援を受けることはあるが、それだけ。

 あの黄色い声援の意味がわからない俺ではない。



 俺は、動物園の動物以上の存在にはなれない。



 そりゃそうだ、当たり前だ。

 一人の異性としてドラゴンを好きになる様な人間が、この世の中に本当にいる訳がない。

 そんな奴がマジでいたら、頭のネジがぶっ飛んだ奴だけだろう。


 そんな頭のネジのぶっ飛んだ女が、ヘビの様な「ニタァ~」とした笑みを浮かべる。


「だったら私が、タツヲちゃんを“人の姿”にしてあげる」


「……へ?」


 ――――――――――――――――


*あとがき

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