3話:何かと都合の良い文明レベルの異世界『ヴァルハバラ』

 三途の川の主:リバ子様の策略(?)により、俺はドラゴンの赤ちゃんとして生まれ変わった。

 俺も周りも吃驚したあの日から、一体どれだけの月日が流れたことか……。



 ~ 5年後 ~


「お肉、美味いドラ」


 酒場のウッドデッキに設けられた俺専用のロッキングチェアに揺られながら、俺は大好物となった“地獄の魔獣”のお肉をあーんと頬張る。

 ムシャムシャと豪快に噛んで、一気に飲み込む。

 うむ、美味い!!


 食べ終わったら上を向き、「ボウッ!!」と口から盛大にげっぷの炎を吐き出す――ここまでが、俺の食事シーンのプロセスだ。


 それを柵越しに見ていたエルフ族(耳が長い!)とスライム族(身体がスライム!)の女の子達が「きゃ-、可愛い!!」「きゃー、カッコいい!!」と黄色い声援を上げる。

 俺は炎を宿した尻尾をフルフルと揺らし、女の子達に挨拶を返した。



 ――異世界転生から5年経ったが、俺はまだドラゴンだった。



 相も変わらずドラゴンだったが、生まれた時から人間の言葉を不自由なく話せる事が出来たおかけで、何とか人間らしい生活を送ることが出来ている。

 ちなみに先ほど、語尾に「ドラ」とつけたのはただの気分だ。

 別に精神がドラゴン化してきたとか、そういうことは一切無い。


 無論、それはあくまで精神的な話であって、身体は完全にドラゴン。

 後ろ足で立ち上がった時の高さは優に2メートルを越えており、人間達と一緒に暮らすにはかなりギリギリのサイズだろう。

 角も牙も翼もかなり大きくなってきたし、もう少し成長すればこのロッキングチェアともお別れかもしれない。


 とまぁ、身体的な話はここまでにして。

 ここからは真面目に、この転生先の世界『ヴァルハバラ』について語ろうと思うが……


「タツヲちゃ~ん!! お肉のおかわり要る~??」


「要るドラ~!!」


 “ママ”の声を無視することは出来ない。

「タツヲちゃん」こと俺は、断腸の思いで内心の自分語りを中断した。



 ――――――――

 ――――

 ――

 ―



 ~更に5年後~


「ドラドラ、お肉美味いドラ」


 酒場のウッドデッキでロッキングチェアに揺られながら、“地獄の魔獣”のお肉をあーんと頬張る俺。

 炎を吐き出し、女の子達から黄色い声援を受け、俺は尻尾で挨拶を返す。



 ――異世界転生を果たしてから10年経っても、俺は未だにドラゴンのままだった。



 大きくなって不便になるかと思っていた身体は、5年前に成長が止まった。

 俺は相変わらず酒場のウッドデッキに設けられたロッキングチェアに揺られながら、地獄の魔獣のお肉を頬張る日々を過ごしている。


 この5年で変わった事と言えば、せいぜい“俺の両親が死んでしまった”事くらいなもの。


 まぁ、そんな俺の両親の話はどうでもいい。

 いや、どうでもよくはないが、今更どうしようもないから仕方がない。


 “地獄へ強制送還”された両親については、俺にはもうどうしようもないのだ。

 

 それよりも、異世界転生を果たしてから10年が経った。

 俺は既に、我ながら最強なスキルを2つも手に入れ、今はこの『ヴァルハバラ』で悠々自適なのんびり生活を送っている――とは言い難いのが問題か。


 今の俺は元々のドラゴンの強さに加え、チートスキルを2つも手に入れ、ほぼほぼ完全無敵な状態。

 だというのに、それでも毎週の様に「天国と地獄から俺の命を狙う使者」がやって来るのだ。

 それはもうしつこいくらい、俺の命を狙ってくる。


 ――それは何故か?


 答えは簡単だ。

 俺が転生して来た『ヴァルハバラ』の住人は、俺も含め、全員漏れなく“違法の転生者”。

 この「如何にも中世ヨーロッパ」風の街並みなのに、電気が通っていて「冷蔵庫」も「電子レンジ」もある、何かと都合の良い文明レベルの異世界『ヴァルハバラ』に住む住人は、全員が転生者であり、そして違法者だ。


 これが一体どういうことか……その理由は、多分“アイツ等”が教えてくれるだろう。



 ――――――――



「いたぞッ、違法のドラゴンだ!!」

 

 お肉を食べ終え、俺が一際盛大な炎を空に放ったタイミングで“アイツ等”がやって来た。

 手に槍を持ち、白い制服に身を包んだ5名の集団。

 全員ガタイの良い男で、如何にも強そうな感じのゴツイ顔つきだ。


「うわっ、神兵隊しんぺいたいだ!!」

「逃げろ、逃げろ!! 捕まると地獄へ強制送還されるぞ!!」


 黄色い声援を送っていた女の子達や、酒場の中にいた客達が神兵隊を見つけ、我先にと酒場から逃げ出していく。

 蜂の巣をつついたような、という表現はこんな時の為にあるのだろう。

 町の外れにあった俺のお気に入りの酒場から、人っ子一人いなくなってしまった。


 無論それは、俺と神兵達を省いての話。

 俺は「ふぅ~」とため息を吐き、気だるげな目で彼らを見る。


「また新しい神兵を送り込んで来たのか、毎度毎度懲りないなぁ」


「黙れ違法ドラゴン!! 貴様もいい加減にお縄へつけ!!」


「何でだよ? ここで好き勝手暮らして何か悪いのか?」


「悪いに決まってるだろ!!」

 一番前にいた神兵:神兵隊長が怒鳴る。

「異世界転生とはッ、全世界にある魂のバランスを崩しかねない危険な行為だ!! 本来は大天使様と閻魔様に認められた者にしか与えられない特権だぞ!! それをお前等は、さも当然の様に利用し、この世界で好き勝手暮らしやがって!!」


 ――転生者が違法だという理由はコレだ。

 ちょうど説明の手間が省けて助かった。

 神兵隊長には「説明役ありがとうで賞」を進呈したいところだが、そんな賞は何処にも無いので進呈しないのは別にいいとして。


 こちらとしては、今更そんな事を言われても困る、という話でもある。


「そう言われてもなぁ、リバ子様がやってくれるっつーからやって貰っただけだし」


「ええいッ、つべこべ言うな!! どんな事情があろうと、許可無き異世界転生は違法だ!! 大天使様と閻魔様の命により、違法転生者は全員地獄へ強制送還してやる!! まずは見せしめとして貴様からだ!!」


 そして彼らは手に持った槍を構え――



「「「うぉぉぉぉおおおおーーーーッ!!」」」



 一斉に突撃してくる!!


 ――――――――――――――――

*あとがき

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