第4話 ファーストステップ
『STR10/DEX10/AGI10/CON10/INT10/WIS10/PER10/POW10
能力名:
ポイント割り振り:万物作成1LV/カスタマイズ:召喚(-5%)、必須行為/『精神感応』による呼びかけ(-5%)、計-10%:900AP
精神感応10LV/カスタマイズ:異類精神包括(+30%)、無生物精神包括(+50%)、精神接触衝撃無効(+120%)、対象限定/召喚対象にのみ(-50%)、効果限定/精神同調のみ(-60%)、演出/消滅した〝異世界〟の存在の叫びと距離や次元を無視して同調することができる(+10%)、計+100%:100AP
能力解説:消滅した世界の残滓――自身の構築した世界とは異なる〝異世界〟の事物の、『存在したい』という魂の叫びに同調し、自身の世界、そして他者の世界の中に一時的に呼び込むことができる能力。
そして、誰の耳にも聞こえない声で絶叫している。命も、魂も、意識すらもない無機物であろうとも。かつて世界に存在し想いを刻まれたがゆえに。『存在したい』と、世界の中で想いを刻まれる、あの永遠に流転する命の流れの中へ帰りたい、と。
この世界に現出させたそれらの存在を操ることはできない。ただ、想いを同じくし、現出した存在の命の叫びを、『自分はここに在る』という歓喜の雄叫びを、思うがままに振るう力を与えるのみだ。
最初は、強い呼び声を叫ぶ存在を現出させることもできない。この力はあまりに大きすぎ、どんな人間であろうとも自由自在に使いこなすのは不可能だからだ。
けれど、この力は、いずれ世界の『存在したい』という叫びをも聞きつけ、現出させる――世界を救うことを可能とする力なのだ。』
能力解説を書き終え、異能のポイント割り振り、そして初期ステータスとをセットにして完成した、キャラクターステータス映像を確認する。
基本、このゲームでステータスはあまり重要じゃない、らしい。基本値が10で、これが『現実世界で身体を動かすのと同じようにゲーム内のアバターを動かせる』数値なのだ。体が不自由な人たちには、『脳が意識する自然に身体を動かせる感覚』に基づきアバターが動かされるので問題はないらしいけど、逆に現実世界で高い身体能力を持つ人はアバターの性能も上がる、というボーナスがついてしまうんだとか。
そこらへん不公平って言う人いそうだけど、基本『レベレイション』は医療機器としても使えるVRマシンなので、ゲームとしての公平不公平よりも身体感覚を忠実に再現することに重きを置く、というスタンスは変えない、と制作会社であるアラインはきっぱり断言したそうな。
まぁ、僕としてもその方針に特に反抗するつもりはない。アバターの性能が上がるっていっても、しょせんは人間のレベル。人間外の怪力とか運動性能とかは、そのための異能を取得しないと得られない。なにより『Another Head』は異能の使い方で勝負が決まる――正確に言うと、『異能を絡めた攻撃でなければ相手にダメージを与えられない』という縛りがあるので、肉体性能にどれだけ違いがあるにしろ、勝負を決定づけるものにはならないのだ。
これは別に相手に直接異能をぶつけなくちゃダメ、とかいうんじゃなく、異能を使ってトラップを張るとか、不意打ちするとか、異能にびっくりして飛び退って高いところから落ちてダメージとか、そんなレベルでいいんで、とにかく『敵への攻撃』とみなされてダメージを与えるためには、行動に異能を絡めないと不可なんだそうだ。ただし自分で自分を攻撃する分には異能が絡んでなくてもダメージが出るんで、ビルから飛び降りても無傷とか、そういう特殊効果はない。
ともあれ、ステータスに勝負を決定づける効果がないとはいえ、数字に意味がないわけではなく、数値の上下によってアバターの性能は明確に変わる。ステータスが下がるとあらゆる行動にウェイトがかかる仕組みで(知性や賢明さにかかるウェイトってなんなんだとは思うけど、おっきーはそう言っていた)、上がると能力は微増するものの現実世界との感覚のズレのせいでアバターを動かす難易度も上がる、らしい。
10以上にするにはAPが必要になるし、10以下に下げればAPを獲得できるものの雀の涙。ステータスを上下させるのは、リスクばかり高くて見返りが薄い。そういうもろもろの情報をおっきーから得ていたので、僕はステータスは全然いじらなかった。
つまり全ステータスが10で、キャラ作成時に渡される1000APは全部異能にぶっこんだ、そういうキャラデータをきちんと確認したのち、AIガイドの指示に従いシステムに提出。これで、キャラクター作成は終了、ということになる。
でもAIガイドはまだ消えておらず、僕の隣に待機してくれている。この後もまだガイドが必要になるとわかっているからだろう。
待つことしばし、ポーン! と音がして、システムメッセージが表示される。その文章を読んで、僕は思わず、よっし! と小さくガッツポーズを取ってしまった。
『あなたの異能は正当性を認められ、強化されました』
「おめでとうございます。無事ムーさまの異能は『正当性強化』によって強化されました」
「ありがとうございます! ……あの、でもその、具体的にどれくらい強化されるんですかね?」
「基本的には『正統性強化』による強化はデータとして明示されません。ですが弱くなることも使いにくくなることも絶対にありませんので、どうか気楽な気持ちでプレイなさってください。具体的な使用感の変化をお知りになりたい場合は、異能シミュレーターを使用されることをお勧めします。マイルーム機能のひとつとして、最初から使用可能ですので」
「そ、そうですか……それ、異能デザインする前に教えてほしかったかな……」
「現段階ならば、ゲームを開始したわけではないので、ノーコストで異能の変更は可能ですが? 課金が必要になりますが、異能シミュレーターの使用も可能です。ゲーム開始後には異能の変更には、ゲーム内で取得した特殊アイテム、ないし課金アイテムが必要となりますので、異能を変更するならば基本的には今が最後のチャンスとなりますが、いかがいたしましょう」
「げ、ゲーム開始前に異能シミュレーター使うの課金必要なんですか……案外せこく稼ぎますね……」
ついついAIガイド相手に突っ込みを入れつつ考えるも、僕はすぐにふるふると首を振った。
「いや、いいです。このままいきます。やっぱり思い入れて作ったものに勝るものってないと思うし。ゲームなんだから、それで苦労するのもそれはそれでありだと思うんで」
おっきーが言ってたことだけど、『ゲームはおもちゃ、遊ぶもの、有利だの不利だの以前に楽しんでなんぼ』。求道的にゲームの腕を極めるのもそれはそれでありだけど、うまくいくところもいかないところも込みで、面白がるスタンスがあってこその『遊び』なんだそうだ。僕はまだそんな風にはっきりどうこうとは言えないけど、せっかくプレイするんだから思いっきり楽しみたい、っていうのはやっぱり正直な気持ちとしてある。
なので、全力で思い入れて世界観に没入したい。有利不利を見比べてどうこう、なんてのをやるのは世界を思いきり楽しんだ後のことだ。しょせんライトゲーマーでしかない僕は、そういう風にゲームを楽しみたい。
そんな僕の決意をどう捉えたのか、AIガイドはちかり、と光を発してみせた。
「それでは、ムーさま。ゲームを開始されますか?」
「………はい!」
気合を込めて答えた声に、AIガイドはまたちかりと光を瞬かせる。
「承知いたしました。――それでは、ムーさま。世界のかけらの一粒へ、彼方にして此方たるひとひらの夢の中へ――どうぞ、いってらっしゃいませ」
そう告げられたとたん、世界がまたも在りようを変える。僕たちを幾重にも取り巻いていた巨大なカードが、一瞬ですべて同じ大きさの星へと変わる。そしてそれらは、背後に浮かぶ星々と同様に、僕に向かってなだれ落ちる星々へと変わる。
ぶつかる、と反射的に身をこわばらせたが、星々が僕に激突することはなかった。それより早く、僕が下へ、暗闇の底へ墜落していこうとしていたからだ。
仰天するよりも視界が色づく方が早かった。なだれ落ちる星々と一緒に墜落しながらも、宇宙の暗闇に光が差し、雲を通り抜け、夜空を形作り始めた頃、視界がぐるりと反転し、空に向けられていた視線が落ちる先へと向けさせられる。
それが小学校の頃遠足で行った市立博物館で見たミニチュアモデルと同じ、はるか高みから眺めた神形県雲居市の姿だと気づいた頃には、僕はその中の南流区伏野町月枕塾中高等学校中等部寮318号室――つまり僕の部屋へと落っこちていた。
ぶつかる、と思って反射的に目を閉じる。だけど、衝撃はまるでやってこなかった。いやそうだよゲームなんだから衝撃とかあるわけないし、と我に返っておそるおそる目を開ける――と、『レベレイション』を装着する前と同じ光景、つまり僕の部屋の中の映像が目に入ってきた。
いや映像というか、あくまで僕の脳がそういう風に補完してるものにすぎないんだろうけど、感覚的には僕の部屋そのままだ。本当に『レベレイション』を装着する前に見たものとそっくり同じ。散らかしたまんまの服やなんかも、そっくりそのまま残ってる。
半ば呆然としたまま周囲を見回して、ひとつ違う点に気づく。僕は、『レベレイション』を起動する前に、電気を消したりはしていなかったはずだ。
背後からすぅっと、肌を撫でるような風が吹くのを感じて、さらに気づく。僕は、窓を開けたままにはしておかなかったはずだ。
思わずばっと振り向いて、僕はぱかっと口を開けた。窓から風が吹き込んで、カーテンがふわりと大きく広がる。それを翼のように背中に背負って、窓枠のところに少女が座っていたからだ。
それも、問答無用で掛け値なしに、これまでの人生で僕が見てきた女の子の中で一番と断言していいくらい、めっちゃくちゃな美少女が。
黒髪黒瞳に白人という感じはしない白い肌、と特徴的には日本人の範疇なんだけど、日本人の顔じゃない。でも外国人の顔という感じもしない。なんというかゲームや漫画の美少女キャラのような理不尽なぐらいの美少女というか、そうでなければ人間の範疇を飛び越えてるって言い方しかできないような、とんでもない美少女だ。
そんな美少女が、僕と視線が合うや、嬉しくて嬉しくてたまらない、というように、にこっと花が咲いたように笑った。
「会いたかった。――ずっとあなたを待っていたの。他の誰でもない、あなただけを」
ぱかっと口を開けたまま固まるしかできない僕の前で、美少女はすとん、と素足で僕の部屋に降り立ち、僕と視線を合わせたまま、腰が抜けたような格好で座り込んでいる僕に体を折って顔を近づける。彼女が膝に当てた手の下で、スカート(彼女は白いワンピースを着ていたので、その部分をスカートと呼んでいいのかどうか僕は知らないんだけど、とにかく下半身のスカートっぽいとこ)がふわっと広がり、僕の心臓は爆発したように跳ねた。
「ね。お願いを、聞いて、くれる?」
「えっ……はっ、はっはいっ、はいっ!」
半ば以上硬直した脳味噌をぶんぶん振って、僕はこくこくうなずく。それに対して美少女はまたにこっと、嬉しげに、幸せそうに笑ってくれた。
「私を、探して」
「え―――」
「私を見つけて。そして、救って。この世界を」
「え………」
「待っているから。世界を救った、その先で」
美少女は体を起こし、また大きく広がったカーテンを背に、にこりと、今度は優しく、静かに、そして寂しげに笑う。それを呆然と見るしかできない僕の前で、少女はふんわりと風に溶け、輪郭をなくし、まるでそこになにもなかったかのように消え失せていき―――
「待っ………!」
そう僕が手を伸ばした先で、少女は世界に溶け消えた。同時に僕の視界はさっと暗闇に転じる。そして同時に浮遊感、落ちるのだ、と理解した。
あの女の子に手を伸ばしたまま、そしてその手が届かないまま、はるか下方の、闇黒へ―――
「待って!」
そう叫んでから、その声がひどくくぐもったものであることに気がついた。
というか頭が重い。なにかを被っているようだ。いやそれよりも、視界はまだ暗いが、隙間を縫うように暖かい光が差しているような――
そこまで考えて、僕は自分がVRマシンを装着していることに気づき、慌てて飛び起き取り外しにかかる。いくつかのストッパーを外し、VRマシンを取り外せば、そこに広がっているのは僕の部屋、中等部寮318号室。窓からは光が差し込み鳥の声がする、爽やかな朝だ。
僕は自分の今取り外したVRマシン、『レベレイション』を見て、僕の身体を見て、もう一度僕の部屋を見回して、ぽかんとした顔で口にしてしまった。
「………あれ?」
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