第3話 ポイントアジャストメント

「『万物作成』が1LVにつき1000AP。それに『召喚』という制限カスタマイズを付与することになりますので、他にカスタマイズをつけなければ1LVにつき950APになりますね」


「え、『召喚』って制限カスタマイズなんですか」


「はい。作成系は基本的に、一度作成したものはその場に残ります。もちろん消去することもできますが、一度マイルームまで持ち帰れば、ゲーム終了後もそれを保持することが可能なのです」


「え……それって、能力を使えば使うほど戦力が増えるってことですか!?」


「はい。ですが、マイルームの収容能力にも限界はありますし、拡張には大量のAP、ないし課金が必要になります。マイルームの外は基本的に〝異世界〟となる設定上からも、一度マイルームに戻るたびにリセットされる形になりますので、特定の場所に保存する、という方法は使えません。〝街〟と呼ばれる買い物が可能なフィールドで、荷物の保管庫を買うという方法もありますが、それにもやはりAPか課金が必要になりますから、基本的にこの特性は、魔剣使いやモンスター使いのように、特定の相手を常に持ち歩く、ないし連れ歩くという方にしかほぼ意味のないものでしょう」


「あー、なる……」


 パートナーと一緒に戦う系か。それは確かに、その特徴必要だな。そういう能力ってかなりメジャーだから、やりたい人絶対いるだろうし。


「それに対し『召喚』というカスタマイズは、作成したものは基本三分間しか存在できません。三分間が過ぎれば、作成物が吐き出した炎や毒のように、本体と分離したものは残るものの、本体は必ず消滅します」


「さ、三分間ですか……けっこう時間制限厳しいですね」


「はい。ですが、異能使用に代償が必要になる類の制限カスタマイズを取らなければ、何度でも作成は可能ですし、作成物が存在する時に新たに作成することはできない、というような制約もありません。もちろんそういった制限カスタマイズもありますが。そして三分という時間は、積極的に戦闘を行った場合の対戦モードに必要な時間の平均をやや上回っています。あまり重い制限ではないので、削減率が-5%にとどまっているわけですね」


「なるほ、ど……」


 万物の召喚は1LVにつき950AP。ポイント的には足りるっていうか、ちょっとだけ余る。50APじゃ大した能力取れないだろうけど。


 これはもういいんじゃないか? 決めちゃっていいんじゃないか? とかなり心が動いた僕に、AIガイドは相変わらず涼やかで軽やかな声で、きっぱり宣言する。


「ただし、これはあくまで『召喚する』だけの異能。それを操って戦わせるということはできませんので、そこのところはお間違えのないように」


「え……」


 ああそっか! 『~制御』って異能があるんだもんな! 召喚したからって思い通りに動かせるわけじゃないのか! しかも確か『~制御』ってのもやたらいろいろ細分化されてた気が……つまりそれって。


「あの……『万物制御』って、コストどれくらいになるんですか……?」


「1LVにつき100APになります。ちなみにこれには『召喚』という制限カスタマイズを付与することはできませんのでご承知おきください」


「あ、そのくらいならなんとか……」


「ただし、作成した無機物の超常的な稼働を可能にするには、作成した対象それぞれに応じて『覚醒』させる異能を習得しなくてはなりません。この場合は『万物覚醒』となりますが、それに必要なAPは1LVにつき200APになります」


「うぐっ……」


 き、厳しい。それは一気にポイントが厳しくなる。あと250APを、『万物召喚』と『万物制御』、『万物覚醒』からなんとか制限カスタマイズでひねり出さなきゃならないわけか。分かりやすいのは『万物召喚』をあと25%削る、ってことだろうけど……


「……作成系につけられる制限カスタマイズって、どんなのがあります?」


「減少パーセンテージが大きなものとしては、『暴走』『制御不能』『持続不安定』などでしょうか。『暴走』が-80%、『制御不能』が-30%、『持続不安定』がその強度に応じて-5~30%になります」


「……『暴走』と『制御不能』って別物なんですか?」


「はい。『暴走』は作成物の制御ができないのみならず、作成した能力者を優先して攻撃する、という制限カスタマイズです。能力を効果的に使用するのが非常に難しくなる制限となるでしょう」


「うわ……」


 ていうか、そんな制限取ったら『~制御』取る意味とかなくなるじゃん。コストが五分の一になるだけあるというかなんというか。


「『制御不能』は能力の発動の制御ができない、という制限カスタマイズです。戦闘時などに、特に意図していない場合にでも能力が発動してしまう可能性があるのです。これは他の系統の能力でも取得可能な制限ですが、作成系は比較的そのデメリットを抑えやすい異能ですので、-30%にとどまっています」


「え、異能の系統でパーセンテージが違ったりするんですか?」


「はい。攻撃系が-50%、防御系と生体操作系が-30%、環境操作系が-20%。特殊系のみは能力によってメリットデメリットの違いが大きすぎますので、個別にパーセンテージが定められています」


「へぇ……普通に能力を発動させること自体はできるんですよね?」


「はい、それは問題なく。あくまで『意図しない時に能力が発動してしまう』という制限カスタマイズですので」


「……『万物作成』が制御不能になって発動した場合でも、『万物制御』の異能は通用します?」


「はい。『~作成』と『~制御』は別の異能ですので」


「ふむふむ……」


 ……これはちょっと考えに入れてみてもいいんじゃないか? 一発で必要分がひねり出せる、というかあと50AP余る。このAPでちょびちょび他の異能とかも取れそうだし、デメリットが抑えやすいっていうなら……


「ただし、『制御不能』は、マイルーム内を除くいついかなる場合でも、ゲーム内で一定時間ログインするごとに意図しない発動が起こるか否か判定される、という仕組みになっておりますので、デメリットの抑えやすい異能であろうとも、NPCとのイベント中に能力が発動しイベントが中断され消失する、ということも起こりうることをご承知おきください」


「………却下で」


 却下だ却下そんな制限。そりゃイベントに興味ない、戦っていられりゃそれでオッケーって人なら取る可能性あるだろうけど、僕はゲームやる時はその世界に没入したい派だ。ゲームを味わいつくすために、イベントもがっつり細かく堪能したい。イベントがロストする可能性のある制限とか、ぶっちゃけ正気の沙汰じゃない。


「……『持続不安定』っていうのは?」


「一度異能で作成した対象が、一定時間後ランダムに消滅してしまう可能性が生まれる制限カスタマイズです。これも作成系に限った制限ではありませんが、作成系はその持続時間が非常に重要になってくる異能ですので」


「……一定時間、というのは?」


「一分後が-5%、一秒後が-30%ですね。-30%の場合は、能力発動後一秒ごとに消滅するかどうかのチェックが行われることになります」


「うわぁ……」


 それ作成系の強みとか意味とかを一気に打ち消す制限な気がするんだけど。まぁ作成にコストとかがないんなら、一発撃って即退場、ってしもべを数作れる、と思えばいいのかもしんないけどさ……


「……ええと、一度制限カスタマイズの一覧表とか見せてもらえます?」


「はい」


 表示されたリストを流し見しながらスクロールさせていく。さすがに数と種類がすごい。一回使うごとに特定のアイテムが必要になる『触媒消費』やら、身体の特定部分で触れている相手にしか効果が発動しない『接触限定』やら、使うごとに遠くからも確認できる大音響やらエフェクトやら匂いやらが発生する『感覚喧伝』やら。決めポーズや決め台詞を決めないと使えない『強制陶酔』や、あらかじめ作った料理を食べてもらう形でしか効果の出ない『異食同現』みたいな色物系を含めると、その数はたぶん数百に及ぶだろう。


 作成系に限定しても、特定の対象しか作れない『対象限定』やら、あらかじめ倒した相手しか作れない『討滅制約』やら、あらかじめ作って連れ歩く形でしか戦闘に参加させられない『事前作成限定』やらいくつもある。本当に、いろいろありはするんだけど………


「……どれも、取っちゃうと戦法っていうか、戦術がある程度限定されちゃいますよね」


「はい。だからこその制限カスタマイズですので」


 AIガイドの冷静なツッコミに唸り声を上げ、頭を掻く。なんというか、当たり前のことではあるんだけど、戦い方が制限されちゃうというのは正直厳しい。


 僕としては、異能を使って戦うからには、異能をいろんな形で活用したいというか、『こんな使い方ができたのか!』みたいな、アイデア次第でいろんな状況に対応できる異能にしたいな、と思っていたのだ。異能バトル漫画っぽく、敵を予想外の方向からぶん殴れるような。制限カスタマイズを取ると、どうしてもその難易度が一気に上昇してしまう。


 もちろん制限があるからこその輝きというか、その制限すらも発想に取り込んで戦術に活用するやり方っていうのもあるし、そういうのに憧れもするんだけど、プロのストーリーテラーというわけでもない一般貧弱中学生の僕としては、難易度が高すぎるというのは嬉しくない。異能初心者は初心者らしく(いや異能の玄人って人は普通いないだろうけど)、謙虚に使いやすい異能を作るのがいいと思う。


 だけどそれだとAPがどうしたって足りない。あと250AP、『万物作成』だけから削るなら25%、なんとか制限をひねり出さなくてはならないのだ。

 でもそこまで削るとなると、異能がめちゃくちゃ使いにくくなる可能性が高い。どうしようどうすれば、いっそ最初から能力設計を練り直すか、とうんうん悩み――


 ふと、天啓がひらめいた。


「………あの」


「はい」


「『~作成』で作ったものって、『~制御』や『~覚醒』を使わないと、全然動かないんですか?」


「いいえ。『思い通りに動かす』ということができないだけです。制御する異能を使用しなかった場合は、動物ならば周囲をうろつき、腹具合に応じて獲物を狩ろうとするでしょう。植物ならばその場に根を張り植物としての活動を開始します。無機物であっても道具として、あるいは機械としてならば動かすことは可能です」


「それじゃ、ええと。『~作成』で作ることができる対象って、決まってるんですか? 自分の思い通りのものを、自由に作ることができたりは……?」


「さすがにそれは有利すぎますので……現実に存在する生物や物品ならば、プレイヤーの方の知識に応じて作成の可否は判断されます。具体的に把握している実像や性質についての情報量が、一定値を超えていると『レベレイション』が判断したならば作成可能です。現実には存在しない、『異世界の生物・物品』については、現段階でもある程度存在するデータから選択していただく形になりますね。それについての知識はゲーム内で習得可能です」


「『現段階でも』……ってことは。この先、そのデータ、拡張されたりもします?」


「はい。『こういったデータを作ってほしい』というご要望があれば、弊社の専用のメールボックスにお送りください。場合によっては、近いものが作られるかもしれません」


「ほぉお……えっと、あとひとつ。『~作成』で作ったものと、会話をすることって、できるんですか?」


「可能です。それ専用の異能を習得していただければ」


「! その異能ってどのくらいAPかかりますかっ!?」


「生体操作系の、『精神感応』をカスタマイズすることで可能になります。『精神感応』はいわゆるテレパシーとしての働きをする異能でして、1LVにつき必要なAPは5AP。それにカスタマイズ……『異類精神包括』で+30%、『無生物精神包括』で+50%、10LV以上習得した上で『音声会話限定』の-20%、『会話可能距離限定』による-20%のカスタマイズを付与し、計70APでほぼ問題なく会話可能となるでしょう」


「な、70APかぁ……」


 思ったほどかかるわけじゃないけど……それでも僕にはだいぶ微妙な点数だ。『召喚』によって得たAPを使っても、あと20AP足りない。かといって『万物作成』にもうちょっと限定カスタマイズつけてAPを稼いだりしたら無駄にAPが多くなっちゃうし……


 と、そこまで考えて僕は首を傾げた。


「あれ? あの……すいません。なんで10LV以上習得しないと駄目なんですか?」


「『精神感応』は、LVを上昇させるごとに使用可能な距離が伸びる仕様になっています。『肉声によって会話可能な範囲』を充分にカバーするために必要な使用可能距離を有することができるLVが、10LVなのです。『音声会話限定』や『会話可能距離限定』は、ある程度使用可能距離が長くならなければ意味をなさない限定ですので、10LV未満では取得不可となっています」


「……じゃあ、その限定を取っ払えば、もっとLVは低くできる?」


「はい、それは可能です」


「おぉっ……」


「ただし『精神感応』は、[あまりに異質な精神に触れると衝撃を受ける]というデメリットも存在する異能です。それによって必要APが減算されているのです。『音声会話限定』は、[声に出してしゃべらなければ通じない]という『精神感応』の利点をほぼ台無しにする代わりに、そういった異質な精神との接触による衝撃を無視することが可能になっています。他者と会話することのみを目的とするならば、必要APがもっとも低くなる上に安全であることを鑑み、このカスタマイズを選択させていただきました」


「そ、そう、ですか」


 やっぱりそううまくはいかないか……いやでも、だからってこのアイデアを捨てるのももったいないな。なんかこう、もうちょっと押したり引いたり足したりして、いい感じにまとめることができれば……。


「んー……うーん……あの、そういう精神的なショックを無効化するカスタマイズって、あります?」


「はい。『精神接触衝撃無効』ですね。+120%になります」


「となると、『異類精神包括』、『無生物精神包括』と合わせて、+200%……三倍になるのか。50AP以内に抑えようと思うと3LV……ええと『精神感応』の3LVって、具体的にどれくらいの効果があります?」


「1LVが能力者の内部のみで、2LVが接触した相手にのみですので、距離としてはおおむね耳に顔を寄せて囁き合う、ぐらいになるかと。効果の強度としては、基本的には完全に感応を受け容れた相手にのみ効果がある、というレベルです」


「そ、そうですかぁ……」


 うぅぅ、それだと考えついた設定と矛盾する。設定いじるか? でもなぁ……思いついた時『これだぁっ!』って思っちゃったしなぁ……なんとかうまく、こう……いい感じに……


「ええと……10LVだと、どんな感じなんですかね?」


「距離としては、声の届く範囲ならば問題なく会話ができるレベルです。大声を上げなければ届かないほどの距離になれば、ぐっと精度が落ちますが。効果の強度としては、感応を拒否した相手に対しても一定確率で――これは精神構造の相性やキャラクターの能力によって上下しますが、効果を発揮しうる程度の強度を持つでしょう」


「なるほどぉー……」


 うぅ、やっぱり10LVぐらいは取っとかないと駄目っぽい。でもそれだと必要になる制限がきつい。『音声会話限定』と『会話可能距離限定』に加えて、あと-40%、なんとか制限をひねり出さないと……


「うーん……うーん……あ、そうだ! 作成っていうか、召喚した相手にのみ効果があるっていう制限カスタマイズってどうなりますかね!?」


「『対象限定』の一種ですね。-50%になります」


「うぉぅ……」


 ぎゃ、逆にマイナスが多すぎる……なんだこの帯に短したすきに長し感! うまいこといい感じの数字になるのってなんかないものか……!


「ええと……あっ、精神を同調させるだけ、っていう制限は!?」


「『効果限定』の一種ですね。-60%になります」


「そ、そっかぁ……」


 これも微妙に届かない……うーん、うーん……なんかこう、なんか……なんかいいのが……なんかいいのが……!


「………あっ!! すっすいません、『精神感応』10LVを、10%だけ強化するお勧めのカスタマイズってなんかありますか!!」


「そうですね、どのように強化するか、にもよりますが。現在のムーさまがお考えの能力について、という前提でお話するならば……」


「え、僕が今どんなこと考えてるかとかわかっちゃうんですか」


「いえ、あくまでAIの思考可能な範囲で推測した場合、という意味です。……『演出』などではいかがでしょう」


「え、『演出』……ですか」


「はい。実際に能力を使用する際にはさして意味のない強化ではあるものの、能力を造形する際の説得力を増すためには有用な強化、というものです。増加するパーセンテージとしては5%から10%、現在のムーさまにはまさにうってつけではないかと思うのですが」


「うんうんうんっ!! はい、その通りですっ!」


 それならもう仕上がったも同然だ! 『万能作成』の方をこう削って……『精神感応』の方のこっちの制限を削って……こっちをこう足していけば……


 ――それからしばらくAIガイドにあれこれ教わって、幾度も計算をしたのち、僕は心からの歓声を上げた。


「できた………!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る