夢見る弟達
ザァ……。
ザァ……。
風が心地良い。
ここは……どこだ?
いや、知っている。
ここはS県の琵○湖だ。
前世で一回だけ来たことがある場所。
何故ここに?
ここには浜辺で波を日が暮れるまで見つめてた記憶しかない。
そう。
俺はここで何もしていなかったはずだ。
なのにどうして?
周りを見渡して、ふと気付く。
俺の身体のこと。
ルーク・ヴィ・アストラのモノじゃない。
それも
ゴミ山で過ごした、前世の幼少期の姿だ。
なんでよりによってコレなんだ。
俺が前世で座った場所を見る。
先客が居る。
俺はその先客に近づく。
そして、声を掛ける。
「隣、いいか?」
「どうぞ。」
「ここ、すごいね。これが海というのかな?」
「海というより湖だな。」
「そっか。」
そう。
俺はこの少年のことを知っている。
この少年こそが本物のルーク・ヴィ・アストラ。
アッシュ・ヴィ・アストラの本当の弟だ。
「ありがとう……。」
「それは何に対しての礼なんだ?」
「君が居なければ、僕は多分今頃生きていないと思うんだ。」
「お前は今まで俺の中にいたってことか?」
「うーん、ちょっと違うよ。」
ちょっと違う?
「なんて言えばいいんだろう?君が体験したものが僕の体験でもあって、僕が見たものも君が見たものになるかな?」
「二重人格ってことか?」
「それもちょっと……君の漫画やラノベみたいに言うと……。そう……魂が融合した。というのかな?」
融合?
「だから君の気持ちが高ぶると口が悪くなるし、僕の気持ちが強くなるとそっちに持って行かれることになるのかな。例えば……トリーシャお姉ちゃんの呼び方とか。」
「…………。」
確かに俺だったらトリーシャのことを『お姉ちゃん』なんて呼ばない。良くて『姉さん』だ。
「説明しにくいね。」
「そうだな。」
「まぁ、君の方が我が強いので基本的に表になる性格は君になるかな。」
「我が強くてすんませんしたねぇ。」
コイツ、いきりなりジャブかましやがった。
まぁ…今の俺達の状態が複雑なことになってるのは確かだ。
でも、それはここで考えて答えが出る訳がないと思うので話をここまでにした。
「………改めてありがとう。僕だけだったら兄上を傷付けて死んでしまった。」
「お前だって俺と同じことを出来た筈だ。」
俺の半端な地球の知識があるなら多少、心の支えになった筈だ。
俺が表に出る必要が無かったはず。
「僕には無理だよ。」
「なんでだ?」
「兄上と同時に父上達もまた僕のたった一人の家族だから。」
「…………ガラクシアの赤い髪は愛深き血の証か。底無しの善人めが……お前がアイツらを愛したからってお前の愛に報わないだろ。」
「そうかもしれない。でも……家族だから。」
「テメェはあんな両親を見て、それでも家族だって言うのか!」
「うん。」
「……っ!…………。」
なんでだよ……闇魔法に目覚めただけで俺達を殺そうとしてるヤツらだぞ……。
「底無しの善人か……。それ、君にも言えることじゃないかな?」
「俺は善人じゃねぇよ。」
「そうかな?」
「…………お前、俺の記憶を全部見たのか。」
「…………うん。その記憶を必死に思い出さないようにしている理由が分かるくらいに。」
「そうかよ。」
「でも……それでも君の選択が身を滅ぼす結果になったとしても、涙が枯れるくらい苦悩に満ちた人生だったとしても…………君の人生は僕には夜空に輝く月のような尊いものに見えたんだ。」
「ふざけんな!あれのどこが尊いものに見えたんだ!!」
「…………だからこそ君にお願いをしたいんだ。」
「…………はぁ?」
なんでワザワザ俺にお願いをする?自分の身体だから自分でやればいいだろ!
「僕達が起きたら……君の強い気持ちで、すぐにでも屋敷を出て行こうとすることになる。」
「当たり前だ!ノエルを殴り飛ばした以上アイツが起きたら全力で殺しに掛かってくる!そうなる前に出るしかねぇだろ!」
ゲーム世界ならアイツは兄上に家を乗っ取られるはずだ。
だが例えそうなって、あの屋敷に居て良いことになったとしても兄上に異形の闇魔法使いの俺達を庇う力はない!
同じ貴族から兄上が怪物を守っていると批判され、平民からは化け物を飼い慣らしていると畏怖される。
「……うん、それでも少しだけ待って欲しいんだ。」
「なんでだよっ!!」
「それはもう…………君なら言わなくても分かるものじゃないかな。」
「………………兄上………か……。」
「うん。」
「………………クソッ!!!」
「ありがとう。」
「うるせえ!…………俺だって何も言わずに消えたりしたくねぇーよ……。」
ああーもう面倒くせぇー。
「で、それだけか?……俺をここで呼び出した理由は……。」
「呼び出したわけじゃないけど……お願いはそれだけだよ。」
「そうかよ……。」
ああー気分が最悪だ。
もう少しで俺はこの夢から覚めそうだな。
目覚めたらクソみてぇな顔してんだろうなぁ……。
「ねぇ……。」
「なんだよ。」
「名前、教えてよ。」
「俺の記憶を覗いたならもう知っているだろ?」
「うん、でも本人から直接聞きたいんだ。ここでしか2人になれないから。」
…………チ。
「ははは、舌打ちしちゃったよ。」
「うるせぇ……はぁ……。」
俺の名前か……前世含めていつぶりに名乗るんだろうな?
「
自分の名がこの膨大な湖の水に流されて見えなくなることを願って、俺は夢から覚めた。
◇ ◇ ◇
アストラ邸正門前にて――
私はお父さんから教えて貰った秘密の道を使って、貴族街のアストラ邸という屋敷に辿り着いた。
昨日のあの人の言葉を信じて、門番をしている騎士様に声をかけた。
「あの……騎士様!ここが領主さまの館で合っていますか!」
「ん?君、ここまで一体どうやって……合っているが、ここまで来ちゃいけないよ。」
「お願いします!この文を……この手紙をルーク様届けてくれませんか!」
「な!?ルーク様だって!?君、その名前はこれから言っちゃいけないよ!君が危ない!」
「いやです!どうか!この手紙だけでもお願いします!あの方の……あの人の存在を否定したくないんです!!」
「存在を否定って……私達にルーク様はもう……。」
「なにかあったか?」
え?いつの間にもう一人が……。
「アルヴィン!お前からも言ってくれ、ルーク様はもう私達では無理だって……。」
アルヴィンって呼ばれた人が近づいて、体を低くして話しかけた。
「…………嬢ちゃん……名前は?」
「アリア……です。」
「ルーク坊ちゃんと知り合い?」
「……2年前の検査で助けて貰って……昨日の検査で知り合ったんです……。」
「そうか。」
………………。
「分かった。この手紙は俺が預かっておく。」
「アルヴィン!?お前、ルーク様の居場所さえ分からんだろ!」
「いいさ、俺は人を探すのは得意んだし。だから、アリアちゃん。泣くのを止めて、早く帰った方がいい。手紙は必ず届けるから安心して。ここは色々と面倒くさいことになってるから。な?」
「……うん。」
「いい子だ。」
もうこの騎士様に全部託して、私は帰った。
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