加減が分かる兄
「テレンスよ、急げ!!」
「無理ですってアッシュ様ぁ!!街の中で馬車を全力疾走させたら、誰かを轢いてしまいますって!!!」
「誰も轢かずになんとかせよ!!行け!」
「そんな無茶なァ!!?」
我々は今、必死にあの熊の如き大男、アストラ騎士団団長のジョバンニを追っている。
それはなぜか。
『……むむ!?今、正義の光が明滅している!?いかん!今行かねば手遅れになる!!アッシュ様!大変御無礼を承知でございますが、ここで失礼をさせて頂きたい!部下が危のうございます!!』
『なに?おい、一体なにが――』
『テレンス!アッシュ様の護衛を全てお前に任せる!』
『え!?団長!?ちょ、ま!?』
『きんにぃぃぃぃくぅ!!!大・跳・躍!!!』
街の中だというのにジョバンニは愛馬を置いて、トラール城を目掛けて文字通り飛んでいった。
一体何が起きている?
それにこの街の異様な人の少なさはどういうことだ?
疑問は多いが、今はジョバンニ団長を追った方が良いかもしれぬ。
俺の馬車を担当している騎士テレンス以外の騎士に捕縛した盗賊達を任せ、ジョバンニ団長が向かった方向に急いだ。
◇ ◇ ◇
人が少ないことで思ったよりもトラール城に早く付いた。
城下町さえ人が少ないことに気掛かりだがまずは目の前の問題に集中しよう。
「アッシュさま!?ご帰還は明日になるのではなかったのですか!?」
門番が我らの早い帰還に驚かれた。
だが、今はそんなことはいい。
「挨拶は良い!こちらの方向に騎士団長が飛んできたはずだ!どこにいる!」
「だ、団長が!?い、いえ、見てませんが……(ま、まさか、さっきの爆音は……)」
「声を大きくするのだ!!」
「は、はい!団長はみ、見ていないのですが、先程公開処刑所に大きいな音が鳴りました!ですが、そこには――」
「公開処刑所だな!急ぐぞ、テレンス!セッテ!」
「「はい!」」
「待ってください!あそこは!!…………チッ。」
◇ ◇ ◇
【ジョバンニ視点】
自慢の筋肉で全ての攻撃魔法を砕いた後、後ろを振り向いた。
そこにあったのは我が信頼する部下達、ロウェンとドナルドだった。
何故、ロウェンとドナルドがこの処刑所の柱に縛られている?
気になる。
だがまずは――
「ロウェン!そして、ドナルドよ!そなたらは己が剣に誓った正義を破ったか!」
「「我らは誓いを貫き通した故、ここにいる!」」
「うむ!」
安心した。
例え、法を犯す行いをしたとしても彼等は我が大切な部下なままだ。
であれば、向こうの主張を聞かねばならぬな。
「と、言っているが……どうだ?イリコイよ。」
「貴様はその2人を信じるのか!そやつらはアストラ公に逆らう反逆者だ!」
「戦友にして兄弟たる部下を信じぬ愚か者はおらぬ!そして、君に貴様などと呼ばれる筋合いはないぞ!イリコイ!先ずは何故こうなったかの説明をせよ!」
「い、良いだろう!」
長い説明を受け、ことを知った。
ルーク様が……闇の力を……か。
だが、まだ勝負は出来るな。
「その2人が犯罪者なのは間違いないのだ!」
「いや、この2人は犯罪者ではない。」
「な、なぜ……!」
「何故ならばルーク様もまた仕えるべき公爵家の1人であるからだ。」
我々アストラ騎士団はアストラ公爵家の騎士団であって、ノエル・ヴィ・アストラ個人の騎士団ではない。
勘当の手続きもされていないのならばルーク様もまた刃を向けるべきお方ではないのだ。
例え、そのお方が闇の力に目覚めた者であったとしても。
「屁理屈だ!」
「そうだ!屁理屈である!だが、この場にノエル様が居られない以上、我らにこの2人を罰する権限はない!!」
この場にノエル様が居れば、私の主張など流されるだろう。だが、いないのだ。
であればこの2人の命は明日からも続く。
「クソ!クソクソクソ!貴様はいつもそうだ!頭まで筋肉で出来ている木偶の坊の分際で!!正義と言って私の邪魔をばかりしやがって!!!うぜぇんだよ!!」
「イリコイ!その言葉は侮辱として受け取るぞ!」
「うるせええ!戦争もしない!戦いもしない騎士団になんの意味がある!?貴様が正義正義って言いながらただ毎日ガキのお守りか平和ボケした
「戦う必要がないのならば無駄に戦わなくても良かろう!」
「ダマレエ!オレは血が見たくて!絶望が見たくて!恐怖が見たくて騎士になったんだああ!!!」
絶句。
これがイリコイの正体だというのか。
ただ命が散るだけの光景を見たいと。
……そうか。
小奴がネブラス家に断られたのはこの
「君に正義がないのは分かった。君が引きついているその3人も同じ想いか?」
「「「………………きへへ。」」」
残念だ。
「分かった。イリコイ・トレイテル、トーレス、ダグラス、そしてニーコよ。そなた達はこのアストラ騎士団団長ジョバンニ・サトルナが上官としてこの場で処罰する。その思想は公爵家に仇なす毒だ。」
「やれるものならヤッテミロヤア!今の俺たちは奇跡の薬があるかよぉおお!!ギャハハハハ!!」
薬だと?
「ごぐ。ハア……ハハハハ!力が漲ってくるぅ!頭が冴えるぅ!アアアアアアアア―――――!!!」
これは!今朝、捕縛した盗賊団の頭と同じ!?
「っ!【身体強化】!」
ガッキン!
早い!そして普段のイリコイから思えぬ力!
あの薬は一体なんだ!?
「後ろも横もがら空きダゼエエエエ!!!!」
「きんにぃぃくううトルネードォオオオオオ!!!」
「「「がはっ!」」」
「モラッタアアア!!!!」
イリコイが先程より一段速く!?だが!防御は間に合う!
土の壁を……と思った瞬間、振られた剣が目の前に止まっている。
「ふむ。見える状況だけで判断するならば反乱か?それにしては副団長のこの目は正気に見えぬが……」
私より小さい、私の腰くらいの少女のような少年がイリコイの剣を……いや、その剣を握る拳を掴んで止めている。
「アッシュ様!?」
「……アッシュ……?」
「いつから貴様に呼び捨てられる仲になった?不敬が……!」
グシャリ
「ギャアアアアアアアア――――ッ!!」
掴んでいた拳をそのまま握り潰した。
「状況は理解出来ぬが、貴様は俺に剣を向けた。」
「貴様が勝ってに飛び込んだだろギャアアア――!!!」
詠唱もせず。なんの動きも見せず。
イリコイの左の足が切断された。
恐ろしく速い、我が輩でさえ視覚するにはやっとなエアーカッターであった。
「誰も貴様の発言など許可していない。周りに倒れている者も共謀者と判断して良いんだな?ジョバンニよ。」
「……はい……。」
そう答えるしかなかった。
「そうか。面倒だ。全員一カ所にまとめよう。風よ。【エアロウェイブ】。」
我が輩が殴り飛ばした者達が強い風の波に飛ばされ、目の前で同じ場所に落ちた。
「さて、貴様らの罪状は俺に剣を向け、呼び捨てという無礼をした。申し開きはあるか。」
「は、反逆者は貴様の後ろに男だ!我々ではない!」
「貴様らが争った理由などもはや関係ない。貴様が公爵家の人間たる俺に剣を向けた!それに申し開きはあるかと聞いている!」
まさか……。
「それは貴様が勝手に―――」
あれは我が輩を救うためではなく、イリコイを反逆者として仕立てるため……!
「ないか。では反逆者共よ……ここで死ね。」
◇ ◇ ◇
空気の膜を作り、空気を集める。
空気を集め、圧縮する。
圧縮して。
圧縮して。
圧縮して押し込まれた空気が淡く光る小石の大きさに。
少し熱いがまぁ……あまり気にならぬ熱さだ。
寝ていた3人はもう起きたようだな。
なにやら動けぬようだが。
キイイイイイイイイイイイ――――――
「……この音は一体?」
風の玉からの異音だ。
「ジョバンニ様、耳を塞いで下さいませ。」
「う、うむ。」
「セッテよ。柱の2人にも縄を外し、耳を塞げさせるのだ。」
言っておかねばな。
「何をやっているんだ……貴様は……。」
「だから何故貴様は……いや、もう良い。なに……大量に集めた空気をこのように小石の大きさまでに押し込めたに過ぎぬ。」
「それがなんだというんダ!」
「貴様に説明したところでなんになる?」
「……っ。」
「だがまぁ……あえて言うならば。貴様らは今から竜巻の大軍に襲われることになろう。」
「な!?」
「覚悟は良いか?では――」
それを投げる。
それこそ無邪気な童子が小石を川に投げるようなもので。
【
「ふざけるな!竜巻だと!?そんなも――」
圧縮された空気を閉じ込める膜が割れた。
――
かなり神経を使うが膨張した空気爆発に大きな被害を出さぬよう、大きめで頑丈な風の膜を再び作る。
その中に奴ら全員を閉じ込める。
「「「「――――――ッ!!!!!!」」」」
形容しがたい音のせいで奴らの悲鳴は聞こえぬ。
聞いたところでどうでも良いがな。
そして空気爆発が収まった後――
「……ア…………ガ…………ッ。」
奴らは口、鼻、耳、そして目から血を流して力尽きた。
「彼らは……し、死んだの……ですか?」
縄が解かれたロウェンとやらがそう訪ねてきた。
「いや、加減はした。聞きたいことがあってな。見ての通り中身はズタズタであろうが回復魔法をかければ3ヶ月………いや、2ヶ月で完治するであろう。」
「加減!?これでですか!?」
「無論、壊れた内臓や脳などは我が光で治せる。死にはせぬ。死なせはせぬ。」
少なくともあの妙な力の出所を知るまではだな。
「これでいいか?ジョバンニ団長よ。」
「…………はい、あなた様に……最大の感謝を。」
「では、何故こうなったかの説明を。」
「……御心のままに。」
それが一番知りたいからな。
まったく本当に…………今日は大変な日だ。
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身長
アッシュ→140くらい
ジョバンニ→230くらい
ルーク→130ちょっと
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