あの日の星々


「ごめんなさい……!」


「……ごめん……なさい……!」


「うぅ……ごめん……な……さい!」

 

 書く、書く、書く。


 必死に書く。 


 早くこの手紙を書いて渡せたら届くかもしれない。


 届いた所でなんの意味もないかもしれない。


 それでも――

    

「お、おい。アリア……勉強はもう……。」


 バン!!


「勉強じゃないっ!!!」


「お前、何泣いてんだ……?」


「分からないの!?あんなことがあったのに!?」


「あったって何が!?もしかして適性検査のことか?噂じゃ呪われた――」


「呪われてないっ!!!」


 あの時居なかった人にこんなことを言うのは理不尽かもしれない。でも――

 

「……呪われてなんか……ない……!」


 あんな優しい人が……


 呪われてるだなんて……。


『そ、そうだ!人族が闇魔法に目覚めるはずがない!』『呪われた子だ!』『そいつは何かの厄災を持ち込む違いねぇ!』『殺せ!』『そうよ!誰かそれを殺して!』


『…………。』

 

 生まれなくっていいって……!

 

『貴様さえ!貴様さえ生まれこなければ!』


『…………。』

  

 黒い力を授かっただけでそんなひどいことを言われて良い人じゃないのに……!


 今でも思い出す。

 

『クソォオオ!!』


 領主様があの人を殴ろうとしたき……。

 

『…………?……っ!?』


『……え?』


 あの人の腕が黒く染まってた。

  

 戦おうとした。


 反撃しようとした。自分の父を相手に。


 なのに……。


『ぐっ!……っ……。』


 黒く染まった腕を使わなかった。

 

『どうして……。』

 

 結局戦わなかった。


 殴られることを受け入れた。


 理由は分かってる。


 私が居たから。


 私があの場に居たから。


 あの人は戦えなかった。


 嵐みたいに悪い言葉を浴びさられてもあの人は……。


 他人のために傷ついた。

  

「ルーク……さ……ま……。」


「……ルークさま?」


「うん……2年前私たちを助けてくれた貴族様……その人の名前………。」


「そうだったのか……。」


 殴られて、気絶したあの方は領主様が物みたいに引きずられて行った。


 結局、私は見ることしか出来なかった。


 2年前のあの時みたいに。


 お礼を言うのも、助けることも。


 結局……。


 あれから騎士様と衛兵の見回りが増えた。


 そのせいで外に出る人が少なくなった。


 噂では何人か騎士様に切られた人がいたってお父さんが言ってた。


 教会で何があったことを話すのはダメだって。



「分かった……。今日お前の検査に来れなかったからな。何かしてみせる……。」


「……お父さん?」


「マルクスのヤツが昼から盗賊団討伐依頼の道案内として参加する事になって出発したんだ。騎士団の団長も来てたからルーク様の事を聞いてないか、アイツが帰ったら聞いてみるよ。大工の仲間にもそれとなく聞く。だから泣くのをやめろ!それてがみも明日の明るい時に書いてくれ。蝋燭も安くないし、今は寝よう?な?」


「お兄ちゃんが……うん。」


 お父さんの言うとおり今日は手紙を書くのを止めて、蝋燭の火を消して、眠ろうとしてベッドで横になった。


 全然……寝れなかったけど。



 次の日、お兄ちゃんが怪我はないのに血だらけの服を持って帰ってきた。


 ◇ ◇ ◇


「………………。」


 男がとある3人家族の家の影に、背を壁に立っていた。


 男は手に持っていた短剣を懐に戻し、そっとその家から離れていった。


 男は空を見る。


 星々を見ながら昼にあった出来事の報告を思い出す。


 呪われし闇の子の報告を。


 ルーク・ヴィ・アストラのことを。


「はぁ…………面倒くさいことになったな、ルーク坊ちゃん……。」


 夜空を見ながらそう呟いた名前のない男が風と共に消えて行った。


 ◇ ◇ ◇



 炎天下の中、めったに使われない公開処刑所で我らは柱に縛られていた。

 

「聞いてたかドナルド?ルーク様が闇の魔力に目覚めたんだってさ。」


「その話を聞いたときはお前と同じ場にいたから聞いてたに決まっているだろ……。」


「ダハハハ!そうだったな!でも、まぁ……闇魔法か……。ルーク様はこれから大変だろうなぁ……。」


「あの方はこれから前途多難な人生を送ることになるのは確かだ……でも――」


「あの方は自身のことならなんとかしてくれる。なにせアッシュ様を変えたお方だ!」


 あの方の時々纏う闇に我らでは祓えぬ。


 だが―― 

 

 いつか世界があの方を受けいられる日が来る。


 そう信じられる優しさがあの方にはあるのだ。

  

 本人は自分のことを優しくはないと否定するがな。


「何をブツブツと言っている?今の貴様らの状況を理解していないのか?」


「処刑だろ?イリコイ副団長殿。」


「それが分かっているのならば何故ヘラヘラ笑っている?何故、絶望や恐怖を抱かぬ!」


 おかしなことを聞く。


「絶望?」「恐怖?」


「そうだ!死を前に抱く当然の感情を何故抱かぬ!何故、後悔せぬ!何故それを見せぬ!貴様らは呪われし闇の子を救い、絶対者であるアストラ公に反逆をした!貴様らは恥ずべき行いをしたのだ!」


 そういうことか。


 我々に後悔する姿をみたいと、我々に絶望や恐怖に打ち砕かれている姿を見たいと。


 ロウェンと僕がお互いの目が合う。

  

「「ぷっ!」」


 それが可笑しくて思わず笑ってしまう。

 

「「はははははははははははは!」」


「な、何故笑う!?何が可笑しい!」


 ロウェンと僕が幼き日の誓いを思い出す。


『こういうカッコいい正義の味方になりたい!』


 古い騎士物語。


 それは正義を貫き通す物語。


 そして――


『正義の味方だぁ?お前らも酔狂よなぁ……。』


『なんだ……ルーク様まで不可能って言うのですか?』


 不満そうな顔でそれを言うロウェン。 

 

『不可能とは言わないが、大変だぞ?正義を貫き通すなんて……。』


『そのために騎士の道を志したのですよ。』


『そうかい。ま、理想を掲げてこそ騎士ってことか。その理想を突き通せると良いな。』


『はははは!』


 我らの誓いを様々な友と語り合った。 


 彼ら揃って言う。


 不可能だと。現実的ではないと。


 夢を見すぎだと。

 

 だが、あの方だけが応援してくださった。


 理想を掲げてこそ騎士と。


 そう言って下さった!


 なればこそ我らはここで示さねばならん!


 死を前にこそ我らの幼き日の誓いを!


「「我らの行いに恥ずべきことなど何もない!!!全ては己が剣に誓った正義だ!!!」」


「なっ!?」


 ここで我らは朽ち果てるだろう。


 だが、あの方の明日に繋がるのならば本望だ。 


「いいだろう!であれば騎士として最も屈辱的な死を与えよう!!」


 副団長直属の騎士たちが並ぶ。


「魔法の詠唱を開始せよ!」


 それぞれの騎士がそれぞれ魔法の準備をする。


「撃ち殺せぇ!」


【フレアランス】【エアーカッター】【ウオーターカッター】


 ここで終わりか。


 最後はせめてルーク様の無事だけでも知りたかったな。



 ダガアアァァンンッッ!!!


 

 そう思ったとき、それが空から降ってきた!


「正義の煌めく音が――――したァアッ!!!【身体強化】!!!!!」


 我らが良く知るマウンテングリズリーの如く大男が来た!

 

 まさか……!


「ぬううううううんんんんっっ!!!!!!」


 放たれた魔法を拳で一斉に砕く!


 その男は!


 いや、そのお方は!


「何故だ……何故貴様がここにいる!まだ戻る予定ではなかったはずだろ!」

 

「アストラ騎士団団長ジョバンニ・サトルナ。只今、見参ンンンンッッッ!!!!!」


 我らが騎士団長だ!


「きんにぃぃいいいいいいくううう!!!!!」




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ナカヌラさんレビューありがとうございます。

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