地の底の弟、地の上の兄



 バシャン


「っ!ぶほっ!ごほっ!」


 なんだ?

 人がせっかく気持ち良く寝てんのに水をぶっかけるなんて……。


「色々なことがありすぎて取り乱してしまったが、落ち着いたことで貴様に聞きたいことがあると思い出したぞ。起きろ無能!」


 ……ここは?


 俺は鎖でぶら下げられているのか?


 俺は何時間寝ていた?


 牢?


 ああーそうか、ここは――


「ふん!」


 ドス


「ぐあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」


「【自己修復】とは便利な物だな。いくらでも殴れるわ!ふん!!」


「あがっ!」


「言え!貴様は何を知っている!」


 遠慮のない一撃一撃を食らう。


 くそ、前世の身体だったら我慢すれば良いもんだが、この身体は痛みが数倍以上に感じる!


「貴様のせいで予定が全て狂ったのだ!薬で強化された最強の兵の試運転も!そのための取引も!全てだ!!」


「はぁ……はぁ……だから兄上を……いや、ジョバンニ団長を盗賊団討伐なんてに行かせたんだな?テメェが用意したんだな?あの盗賊団は!」


「うん?今のだけで分かったか?流石は頭だけが良いな?それをワシのために使えないのは残念なものだなァ!!」


「がはっ!」


「そうだ!例の盗賊団はワシが用意したものだ!元々どこかの村のゴミ共だが、金を積めば嬉し涙を流して引き受けてくれたぞ?ははは!」


「重税のせいで引き受けるしかなかったんだろうが!全てはジョバンニ団長の目を欺くためだな!?兄上の教育という名目で討伐の護衛として行かせた!副団長でもやっていい案件をワザワザにな!あの人は元々先代領主の剣で、人一倍正義感の強い男だ!婿入りのテメェには頭を上げられない存在だもんな?邪魔だもんなぁ?は!小物が良く考えそうなことだわ!」


「ふん!!」


「ぐはっ!」


「粋がるなクズが、貴様の命を握っているのはこのワシだと理解していない訳ではあるまい?」


「テメェ……!」


「貴様らはワシが王になるための手札に過ぎん。」


「……っ!」


 ザザと脳裏にノイズが入る。


『あいつはね。私が日本に戻れるための手札なのよ。』

  

「言え!貴様は何を知っている?今度は殴るだけでは済まさぬぞ。」


 …………そうか。


 そういうことか。


 アイツは初めから悪になるしかなかったんだ。


 全ての責任がアイツの肩に……。


 突っ切るしか無かったんだ。


 必死に火消しして、それでも藻掻いて。


 結局薬という楽な道に縋るしかなかくなった。

  

 先代領主……爺さんの原因不明の死も、

 ルークという弟の存在も、

 全部……全部!

 このカスのせいで!!


「は……はは……。」


「何が可笑しい?」


「ははは!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!ヒー!アハハハハハハハハハハ!!!!」


「貴様!何故笑う!」


 あーくっだらねぇー。

 くだらなさすぎて笑うしかない。

 

 

「『大人の身勝手はどんな世界に行っても、どんな時代に生きても、割を食うのはいつも子供だ。』……か。」


「雷よ!」


「グギガア゛ア゛ア゛ア゛ア゛゛ア゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛」


「もう一度言う。言え!貴様は何を知っている!」


 思い出す。

 夕日が照らす処刑台と共に呟かれた言葉が。

 

『俺は最後まで孤独か。』


「……ああ、知っているぜ。何もかもな。」


「………。」


「テメェが!いつか!処刑台の上に立つ未来がな゛ァ゛ッ!!!」


 ガキン


「な!?魔力阻害の鎖だぞ!何故!?」


「つーかーまーえーた☆」


「な!?手を離せ!力が吸われ、魔力も、動けぬ!?なんだその煙のようなモノはぁ!?」


「くたばれええええええええェェェェアアアアアア――――!!!!!!!!!!」


 子供の拳。

 それが大人に届くかなんて普通ありえない。

 でも――


「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


「ハブガァ――――――ッ!!」


 そんな俺の拳でも扉の開いた牢の外までゴミカスをぶっ飛ばすくらいは出来た。

 

「ハァ……ハァ……テメェこそが……正真正銘の……無能だよ……クソッタレが……っぐ!」


 そして、蓄積したダメージからか、あるいは今消費した魔力のせいなのか。


 俺は再び意識を闇に落とした。




 ◇ ◇ ◇





「今の音は!?……っ!旦那様!?こ、これは一体!?」


 地下牢の出入り口を見張っていたマイケルが大きな音に反応して慌てて降りてきた。


 そこにあったのは牢の外に気絶している当主ノエル、そして牢の中に気絶している無能だった。


「まさか……無能が?」


 ありえない。

 才能溢れるアッシュならばいざ知らず。

 無能がそんな芸当など不可能だ。

 だが――


「万が一逃げられないように鍵を掛けるとしよう。」


 牢の扉に鍵を掛け、当主に近付く。


「身体強化。旦那様少々失礼致します。」


 気になることは多いがまずは旦那様の身の安全だと思い……全てをそのまま置いた。





 ◇ ◇ ◇





 一方その頃は―― 

 

 アストラの街の近くの山にて戦いは既に終わっていた。


「負傷者は?」


 

「騎士団員4名に軽い傷が。そして、道案内役の冒険者は……。」


「酷い傷だな。」


「ええ、かなり血を失っています。このまま街までに運んでも彼は……」


「回復魔法は?」


「ダメでした。」


 だろうな。

 この世の回復魔法は個人の自然回復を早める物だからな。

 

「問題ない。俺がなんとかする。だが、手伝ってくれ。」


「アッシュ様が?」


「ああ、ジョバンニ団長!そっちは任せていいか!?」


「この鋼の筋肉に全てお任せをォ!!!」


 筋肉は関係ないであろう……まぁ、いい。


「貴様はそこらの草か石でも良いから持ってくるのだ。」


「草か、石……ですか?」


「ああ、実際は何でも良いが、なるべく多めに頼むぞ。」


「は、はぁ……。」


 大きな切り傷を負った男に近付く。

 

「おい、喋れるか?返事しろ。」


「きぞく……さま……か?」


「今から貴様を治す。だが、これは回復魔法ではないので相当な苦痛に見舞われるぞ。」


「おね……がい……します……妹が……まだ……。」


 死なればいくら命を注いだとて生き返らぬからな。

 早く治さねば。


「持って参りました!」


「よし!貴様ら、この男を抑えよ。かなり暴れ出すぞ。」


「「は!」」


 持って来られた素材を手に取る。

 

「…………光よ。」


 触れた素材が白く輝く液体のようなものに変わる。

 そして、それを傷口に入れる。 


「……ぎ!?ギャアアアアアアアアアア!!!!!」


「おっとと」

「おい、足も抑えてくれ!」

「分かってるって!」


「まったく、大の男が騒ぐな!まだ終わってないぞ!」


「いや、これキツすぎるって!?というか俺も貴族様と同い年の10歳で――」


「もう10歳だ!我慢しろ!」


「ギャアアアアアアアアアアア!!!!」


 数分後……


「気絶してしまいましたね。」


「血だらけでせっかくの瑠璃色の髪も台無しだな、顔も酷い。ははは」


「貴様らも笑ってないでさっさとその男を運べ。ここに居ては邪魔だ。」


「「了解です。」」


 まったく、ジョバンニ団長の騎士団はどうしてこんな陽気な者が多いのやら……まるであやつだ。


「アッシュ様、終わりましたかな?」


 噂をすればだ。

 我が家の騎士団を率いる大男。

 ジョバンニ・サトルナ団長

 その銀色に輝く鎧の下に無敵の筋肉が自慢の変人だ。


「此度は大活躍でしたな。」

「俺はなにもしとらぬ。」


「そう謙遜なさらないで下さい。先程の治療、拝見致しましたぞ。良い腕ですな。」


「治療だけであろう。」


「治療だからでございます。我々騎士団の志はご存知ですかな?」


「うん?知らぬな。敵を倒し、民を守るのではないのか?」


「ははは、違いますな!」


「では、なんだ……。」


「命を繋ぐために正義を貫くでございます!」


「……命を繋ぐために正義を?」


「うむ!先代領主ヘラクルス様が我らの耳にタコが出来る程、毎日のように仰った御言葉で御座いますな!故に我ら騎士団もそうたらんと突き進むのです!」


 知らなかったな。


「貴方は彼の命を繋いだのです!」


 そうなる……な。

 

「そして、私の正義はこの筋肉でございますっ!!」


 わかった、わかった……。


「しかし、全員が全員、爺様の言葉通りに突き進んでいるのではないであろう?」


「いいえ?あの方の言葉通りに突き進んでいますな!」


「どこがだ?イリコイ副団長とは仲が良くないであろう?」


「残念ながら様々な正義がある限り、それがぶつかり合うのは必定でございます!」


「ふむ。」

 

「イリコイの正義がアストラ、またはテレスト王国に仇なすものでなければそれもまた正義で御座いましょう!」


 そういうものか……。

 

「……人はマンゲキョーか……。」


「それは何ですかな?」


「弟の言葉でな。マンゲキョーとは様々な模様を映し出す鏡だそうだ。別の角度から見れば模様が変わり、また別の角度で見ると模様がまた変わるそうだ。」


「人もまた見る角度によって変わるということですかな?不思議な言葉を言う方とは分かっていましたが中々良い言葉でございますな!」


「まったくだ。」


「さて、此方の捕まえた盗賊団員達はどうしますかな?」


「トラールの文官達と相談してからだが、恐らく20年の強制労働だろうな。頭役の男は入念に取り調べたあと、見せしめに処刑されるだろう。」


「でしょうな。」


「盗賊団員の死亡者は?」


「6人。信心深いセナフ信徒の騎士団員が祈りを捧げていますな。もう終わる頃でしょう。」


「そうか。」

 

 まったく、今日は大変な1日だ。


「はぁ……はぁ……」


 なんだ?頭役の男の様子が……。


「ガアアアアアアア!!!」


「なに!?」


 こやつ!縄を!?

 

「ぬううん!!!」


「御無事ですかな?」


「ああ、今のは一体?」


「……分かりませぬ。しかし、縄を無理やり破るとは……。テレンス!その男に縄ではなく鎖で縛り付けるのだ!他の盗賊共もだ。手が空いているものはテレンスを手伝え!」


「「「はい!」」」 


「予想外な出来事がありましたが予定より早く帰れそうですな。」


「ああ、…………もう疲れた。」


「ははは!疲れるのは良いことです!ゆっくり休めるということですからな!」


 木々の隙間に見える青い空を見ていて心地がよい。


 あやつもこの空を見ているのであろうか?


 昨日のあやつの検査の結果が気になる。


 だが、あやつならば……


 きっと良い力を授かったに違いない。 

 

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