夢見る兄



 ぽたぽた……と、ぽたぽた……と。


 雨が降っている。


 ここはどこだ?


 周りを見渡すとゴミの山ばかり。


 目に見えるのは……


 見慣れないものばかり。

 

 知らない素材で出来た……様々な色をした袋。


 壊れて、何に使うか分からない魔道具のようなもの。


 色々な物がある。

 

 だが、それらは全てがゴミであるのは分かる。


 何故なら悪臭が漂っているのだ。


 平民街の人が込み入っている時のような臭いではない。


 死骸や腐った食い物と言ったものの臭いだ。


 それらの臭いが空気中に混ざっている。


 今度は自分を見る。 

 

 身体が軽い……いや、まるで身体が空中に浮かんでいるような感覚だ。


 夢なのか?


 夢だとしても周りの光景が鮮明に見え過ぎる。


 まるで現実だ。


 戸惑いながら俺は雨が降るう屋根なき道に一歩進む。


 見える光景はどこまでもゴミの山。


 この夢はこれだけなのか?


 と、そう思った瞬間に雨音以外の音を聞こえた。


 すすり泣く声。


 弱々しく、消え失せそうな声。


 俺はその声の元を探す。


 探さなけらばならぬと強い使命感を感じた。


 理由は分からぬが、しなけらば後悔すると思ったからだ。


 雨の中で走り回る。


 ここだ。


 声の主があそこで泣いている。


 貧相で汚く、傷だらけの黒髪の少年。


 見た目の判断になるが、俺より2歳くらい若い少年だ。


 近づく。


 近づいて、少年の前に立つ。


 近づいて、気づく。


 あやつに似ていると。


 姿が違う。声も違う。雰囲気も違う。


 だが、この泣いている少年がひどく……あやつに似ている。


 だからだろうか?


「……ルーク?」

 

 この少年を……あやつの名で呼んでしまった。


 泣くことをやめ、顔を上げ、目が合う。


 真っ黒な目。


 それを見た瞬間――


「ああ、ああああ、ァァアアアア゛ア゛ア゛!!!!」


 頭が割れるような痛む。


 雨が滝のようには激しく降る。 

 

 視界のある全てが燃えてゆく紙のように消えていく。


「待゛て゛……お前は……っいったい……ア゛ァ、グア゛ア゛アア!!!」


 

 

 そして、全てが燃えて尽きた時――




 バシャン




「ウ゛ブ、ウググ……ボォ」


 俺は暗闇の海に落ちていった……。




 ◇ ◇ ◇




「っぶはぁ!!はぁ……はぁ……」


 目が覚めかと思えば夢はまだ続いていく。


 ……水の底だというのに息が出来るのか……。


 周りを見渡す……暗闇しか見えぬ。


『……つ……く……シュ……は』


 見えるのは……この光る箱だけ。


 泳いで箱の方に近づく。

 

 全く、この悪夢からさっさと目を覚ましたい所だがここまで来た以上、この夢の意味を知りたい。


 あの黒髪の少年のこと。


 そして――


『無能……食事を持ってきたぞ。』


『兄上が持ってきたの?』


 この箱に映るの姿の意味を。


『そうだ。』


『そっか。兄上がわざわざに食べ物を持ってくるなんて初めてだ。なんか嬉しい。』


 牢のようだが……どこだ?ここは……。 

 

『……。』


『でも、手錠があると流石に食べられないから外してくれない?』


『……待っていろ。』


『ありがとう。』


『…………無能……貴様は何故、俺に構っていた?』


 

 ……………………。

 

 

『うん?どうしてそんなこと聞くの?』


『いいから答えよ。』


『それは……っと、手錠を外してくれてありがとう。』


『…………。』


『ごめん、答える前に食事をしても良いかな?ここから空は見えないけど3日も食べてないと思うんだ。』



『…………良いだろう。』


『ありがとう……わぁ、温かい。』


『普通であろう。』


『そうかな?……慈悲深き双子女神よ、今日の糧に感謝を。』


『こんな所でも祈りを忘れぬのだな。』


『感謝は大事だからね。女神達にだけじゃないよ?この食事をここまで届けてくれた人達にも感謝の想いを込めてるんだ。』


『その者らは対価を貰って、その食い物を届けたのだ。感謝なんぞ要らぬであろう。』


『それでもだよ。はむ……美味しい。本当に凄いね、料理長は。直接お礼を言いたかったよ。』


 料理長?あやつはステファンを名前で呼んでいたのであろう?

 

『……ふん。』


『…………さっきの質問……』


『……?』


『どうして兄上に構っていたか……だよね?……コホ』


 なんだ?ルークの様子が……


『そうだ。俺は貴様を何度も何度も突き放した、否定した、拒絶した。それなのに何故だ?貴様の頭なら……俺と関わらない生き方だって出来た筈だ。』


 今、大事なのそれではないであろう!そやつの顔を見よ!! 

 

『今日は本当に……珍しく……沢山話してくれるん……だね。』 

 

『答えよ!!』


『……言うのは恥ずかしい……な……。ぼくはただ……寂しかった……だけだよ。コホ……僕には……兄上しか……居なかったから……』


『お、おい……さっきから様子が……』


 気づくのが遅い!!良いからその話を中断して誰かを……誰かを!セッテでも……この際アルヴィンでも良い!!誰かを!!出ないとそやつは――――


『いいよ……、わかっ■るから……。ゴホ……はぁはぁ』


『何故だ?俺はまだこの毒を……まさか■■が!?』


 毒……だと?何故?……何故、そんな物を?ま、まさか、それをルークに?


『い■んだ……兄上が来た時点で……ゴホ……分かってたんだ……。』


『違う!いくら俺が貴様の事を■いだったとしても殺すつもりは……!』


『ははは……嫌いだっ■んだ……。』


『何故……何故笑っていら■るのだ!!貴様は今、死ぬのだぞ!?!!』


 ふざけるなァ!!何故そこでそやつの命を簡単に諦める!?……なにか……何でも良いからなにか……!!


『少し……はぁ……ワガマ■……言っていい?座るのはつらいから……うぐっ!』


 っ!

 そのままそやつを外に連れ出せ!貴様は俺であろう!?貴様の力なら……貴様の速さならば……全力で町を走って治癒師の一人や二人は……


『……ごめん……はぁ……がんばってるけど……もう足が動かないみ■いや……。ゴホコホ』


「『……ぁ……』」


『兄うえ?どこにいるの?ここ……ちょっと暗い……から……良く見え■い……おか……■い……な……夜目は……利くはず……なん■けど……』


『俺は……』


『嫌われてる……くらい……分かってた……でも……偽物……ばかりより……ずっと…………良かった……んだ……』


『違う……俺はただお前が……怖かっ■だけ……怖かっただけなのだ。例え偽物だらけの居場所でも奪われたくなかった。お前が生ま■て……天才と称賛されて……俺のそんな偽の居場所さえも奪えるお前がただ……怖かっただけなのだ。』


『???……あにうえ?なにか……いったの?……きこ■ない……よ?』


『なのに■前は!お前は……お前は俺を追いかけた!後ろについて、ずっと!お前が理解出来ないのだ!俺を追い越して、先に行けば……こ■屋敷から出れば……俺は諦めて、傀儡と■て生きることが出来たのに。』

 

『……あにうえが……ずっとすごかったのを知ってる。ずっと見てたから……』


 やめろ……言うな。 

 

『くん練の……日の■きは……傷だら■でかえるし……しけ■前の朝にメのく■が出来てた……。』


 それをこの場で言うな………。


『何故だ……何故、今更それを言う!?もっと早くそれを言えば……』


『そういう……がんばるヒトが……がんばれるヒトが……好きなんだ。僕にはなにもないから……そういうヒトは――』




 頼む…………言わないでくれ…………。




みたいに輝いて見……え……る……ん……だ……。』


「『…………ルーク?』」






 ……………………








「『ああ、ああああ……』」


 

「『ァアアアアアアアアア!!!!!!」

   

「アッシュ坊ちゃま!?一体どうなされたのですか!?」


 っ!!!


「はぁはぁ……ここは?セッテ?」


 俺の寝室?……っ!


「あやつは?ルークは今、どこにいる!?!」


「え?ルーク坊ちゃまなら今、ダイニングで朝食を……ってアッシュ坊ちゃま!寝巻で走っては!」




 ◇ ◇ ◇



「……いただきます。」



 ダガン! 




「ルーク!!!」


「っ!ぐっ!!だ、だれか水……」


 ……良かった……いる……。


「無事だな!?」


「……ぐ……ぐ……ぶはぁ……今、死ぬところだったんだけど?」


「っ!冗談でもそういうことを言うなァ!!!」


「はぁ……???」


「っ……いや、すまん……今のは気にするな……。」


「???……良く分からないけど汗が凄いぞ?あとご自慢の怪力で扉を開けるな。壊れたぞ?」


「あ、ああ……そうだな。」


「何があったか知らねぇけど顔を洗った方がいいぜ?ヒドい顔だ。」


「……そう……だな。そうする。」

「うん。」


 あれは夢だ。…………現実……ではない。

 そうだ、現実ではない。


 ただ……あれが現実ではなかったとして、知りたいことがある。


「ルーク……。」

「うん?」


「貴様は……人族の……黒髪の人族に会ったことあるか?」

「黒髪だ?」

「そうだ。」


 ………………


「生まれてこの方会ったことないな。」

「…………そうか。」



 やはりあれはただ夢。


 俺はそう思い込んで、ダイニングから出た。




 ◇ ◇ ◇


「…………………。」


 兄の背中を見送って、立ったまま俺は考える。


「…………黒髪ね……。まさかな。」


 有り得ないだろ。

 向こうの世界のことは誰も知らない。

 いや、あのババァ以外か。


「…………。」


 少なくとも兄上が元の世界のことを知ることはない。

 それだけは確かだ。


 俺はそう思って、朝飯の続きを食うことにした。


 うん、美味い。


 あとでステファンに礼を言っておこう。




 ==========

 


 光る箱=ブラウン管テレビと思ってください。


 箱型のテレビなんてあったんだ?とかの感想は無しでお願いします。

 おじさんには致命的な打撃に成りうるので。


 あと、こうやって日常を少しずつ切り崩していくのに悦を感じるようになってきました。

 激辛マーボーを食いたい気分です。


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