眩い朝を迎える弟

 


 お姉ちゃんとロバート侯爵達が帰ってから2週間が経った。



 最初日の視察……という名の遊び以来、俺はお姉ちゃん達と特に関わることなかった。

 5日間の滞在の殆どは今年で行われる兄上との婚約発表会に向けて忙しくしてたな。


 父上も兄上もそれに付きっきりで、俺はそれで屋敷に勉強や鍛錬に勤しんでた。


 で、どーもその婚約発表を俺の誕生日……もとい、品評会と一緒に行いたいらしい。


 ……品評会と同時にやった方がコストも安いか。


 大貴族が貧乏人思考ってのはどうなんだ?元日本人として考えるなら共感出来るものはあるが……。


 まいっか。

 父上がケチなだけというのもあるかもしれんし、深く考えないでおこう。

 馬車の旅にかかる費用もバカにはならんしな。

  

 さてと……


 さぁーやって参りました。


 ワタクシ、ルーク・ヴィ・アストラの適性検査の日!


 その朝でごっざいまーす!


 本日、纏っている衣服はカチカチの貴族服!

 なんて動きにくい!そして、堅っ苦しいっ!


 廊下の窓から見える天気も透き通るように晴れている!

 なんと清々しい朝でしょう!


「ンンソン!拙僧、この昇りゆく太陽が眩しい!」


「普通であろう。」


「どわぁ!?ってなんだ兄上か。」


「なんだとはなんだ、なんだとは。」


「兄上はこれから政務か?」


「残念ながらな。それ以外に2日間、冒険者や騎士団と共に盗賊団の討伐に出るつもりだ。貴様の適性検査を見届ける事が出来ん。」


 本当に残念そうだ。


「盗賊の討伐ね……お前は平気なのか?これから人を殺すんだろ?」


「仕方ないであろう。上に立つものとしての責務だ。」


「まだ10歳だろうに。」


10歳だ。こういうことに慣れておかないと、後々の事に響くものだ。」


「そんなもんかねぇ……というか戦う時はどうするんだ?やっぱその腰の剣でバッサバッサか?」


「バッサバッサとはなんだ……いや、今回は後方支援という形だな。人の命は魔物や獣と違って、来るものがあるとジョヴァンニ団長が言ってな。徐々に慣らさせるつもりらしい。」


 殺人に怯えないためと殺人に快楽を覚えないための経過観察かな?

 

「じゃぁ、魔法か。」


「うむ。山火事になるかもしれぬから火魔法を使えぬが、風と光があれば十分だ。」

 

「光も使えるようになったんだな。」


 光というのは本当に分からないんだよな。

 フィクションだと光の屈折を利用してクローキングとか、光を集めてビームを撃つとか良くあるが……。


 そもそもの話、光魔法とはなんだ?

 ピカピカするだけの魔法か?

 電磁放射線を自由自在に操れるのか?

 だとしたらX線やγガンマ線も操れるのか?

 くそ、考えれば考えるほど疑問がどんどん増えてくる……



「頭を抱えてどうした?」


「お前の光魔法を考えて、訳が分からなくなっただけ……。」


「貴様程の天才が分からぬとはな。」


「俺は天才なんかじゃないよ。ただ知識があるだけだ。」


「同じではないか?」


「違う。天才というのは己の足と考えをもって一歩進み、未知を開拓し、それを証明した者。人類史に多大な影響を与えた……尊敬すべき偉大なる人達のことだよ。ただ知識だけがある俺とは天と地の差がある。」


「ふむ。」


「俺の知識は……沢山の人の愚かさと血を積み上げて、やっと出来た代物だよ。」

  

「だから答えを知っていても教えないのか?」


色んな人間が争い合って、犠牲し合って、やっとの平和で学ぶことが出来た知識だ。

だからこそ、中途半端な知識をばら撒くくらいなら何も言わない方がいい。


彼らの積み上げたモノを汚さないために。


「ああ、道を踏み間違えそうな時は流石に警告するつもりだけどな。」


天才ではないちっぽけな俺が出来るのはこれくらいなもんだ。


「止めないのか。」


「まぁな。人ってのは基本アホだから止めたって無駄だしな。自身が正しいと思っているバカほど特に。」


それに、俺がそんなヤツのために骨を折るのは一生分だけでいい。


「辛辣なものだな。」


「ま、ただの拘りだよ。」


「拘りか。」


 色々な事を言ったが、結局の所ただの拘りだ。

  

「とりあえず、出発までまだ時間があるから、一回光魔法を見せてくれ。」


「この廊下でか?別に良いが……。ふむ、この枯れ花ならばいけるか。」


 花?なんで花?


「光よ。」


 ええ!?

 兄上の光る掌に触れられた枯れた花が生命で溢れる姿に変わった。



「…………他に出来ることは?」


「生命無き物を生物に変えれる……だな。」


 嘘ゲーム情報で怒る、詐欺罪と器物損壊罪を訴える金髪の漫画キャラかよ。

 

「……………………。」


「なんとか言ったらどうだ。」


「……じゃあ、一つ聞いていいか?」


「なんだ?」


「それ、本当に光魔法か?」


 そういえばゲームではのアッシュ戦だとライフを70%削ったら一回だけ全回復する仕様があったな。

 理由がこれか?



「光だぞ。ほら……光よ。」


 ぴかーん 

 兄上の両目が眩く光る。

 

「うわ!気持ちわる!?」


 眩しい!?目がぁー!!

 

「気持ち悪いとはなんだ!」


「目ん玉ピカピカするやつのどこが気持ち悪くないんだよ!?眩しいし!」


「なんだと!?」



 ◇ ◇ ◇


 俺らが朝っぱらから言い合いし終わったあと――

 



「「ぜぇ……ぜぇ……。」」



 お互い息が切れていた。

 

 疲れた……というか髪の毛乱れてしまったし。

  

「しかし……貴様の髪の毛も長くなったものだな。」


「それはお互い様だろ……お前、後ろから見たら完全に女だぞ?」


 ルックスが完璧過ぎるんだよな。オマケに身体も細過ぎず、太すぎずって感じだ。


 向こうの世界で男性アイドルとして立ったら間違い無く売れるだろ。


 まぁ……元々ゲームキャラだから当然っちゃ当然だけど。





「坊ちゃま方、旦那様がお待ちです。」


 セッテだ。 

 

「「分かった。」」


 今回の適性検査は兄上のと違って、父も同行する。

 兄上とセッテもトラール城に降りるから、途中まで同じ馬車に乗っていく。


「行くか。」


「ああ……あー父上が居るのは優鬱だぁー。」


「気持ちは分からん訳でもないが、そんなこと思っても口にするな……。」


「そーなんだけどさ……。」


 嗚呼。

 空が蒼いなぁ。


「ルーク。」


「ぬぁん?」


「なんだその声は…………まぁいい。ここでしか言えぬから先に言っておく。」


「なんだ?」


「良い力が授かると良いな。」


「…………そうだな……。」


 


 本当にな。 


 


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