今を生きる兄弟
「「……………………。」」
変なババアと出会ったせいで気まずい空気が続く。
そんな空気に耐えきれなくなって俺らの前に出たのは――
「もう!二人とも一体、何があったのか教えて下さい!こんな雰囲気は……もう耐えられません!」
「いや、だからトリーシャ嬢……なんでもないと――」
「何でもないわけないではありませんか!そうやって独りで溜め込むくらいなら全部言ってください!殴りますよっ!?」
「な、殴るって……お姉ちゃん……」
この国の貴族の殆どが武闘派って知ってたけどお姉ちゃんまでもか……見た目に寄らずってことかな?
いや、まぁ……ゲームでも戦えるのを知ってたけどさ。
元々主人公パーティーの氷系魔法剣士でデバフ要員だったし。
「…………お願いします……そうやってお2人だけで悩まないで下さい……」
お姉ちゃんがそう言って俯いてしまった。
…………………………
「…………兄上。」
「そうだな…………どこかに座れるところを探そう。」
◇ ◇ ◇
貴族令嬢が座るに相応しい場所を探していたら昼が過ぎてしまった。
そんな風に良い場所を探していたらアルヴィンと合流した。
かなり移動したはずなんだが、どうやって俺らを見つけたんだ?
「あー……俺、人を探すのは得意なんですよ。」
だそうだ。
まぁ、いい。
とりま兄上にお姉ちゃんを任せて、どこに行くか決めよう。アルヴィンならどこかいい感じの場所を知ってるだろうし。
「座るところならあそこでどうですか?」
と、アルヴィンが言った。
あそこってどこだよ。
「あそこですよ。あそこ。」
「あそこじゃわかんねぇよ。」
「タフクサの屋台ですよ。周りに見覚えはないんですか?」
「…………ああ、ホントだ!」
「でしょう?では、行きましょうぜ。」
「今回もお前の奢りで期待していいよな?」
「…………なんでまた俺が奢るんですか!?あんたら貴族でしょ?金持ちなのはそっちでしょうが!」
「………………あのなアルヴィン、一つだけ教えておこうか……金持ちになるには様々な方法がある。でも、金持ちで居続けるには貧しい者達から摂取し続けて、ケチになるしかないんだ……」
「最っ低だコイツ!?」
「ははは、冗談だ。というわけで奢ってくれ。てか、俺は言わずもがな。兄上もお姉ちゃんのプレゼントで小遣いを使い切ったんだから金がないんだ。」
「…………あーもう!奢ればいいでしょ!?奢れば!!」
「お?ありがとう!ごちになるー♪」
「…………はぁ……今月の給料がぁ……」
◇ ◇ ◇
「……そういうことがあったのですね。」
「うむ……」
例のタフクサの屋台近くのちょうどいい石の柵で俺らは座って、さっきの婆さんの話をした。
貴族令嬢をこんな適当な所で座らせるのは良いものか?と思ったが、お姉ちゃん曰く、父の仕事を手伝う時で偶にこういう場所で食事を済ますことがあるらしい。
うーん、一人娘を寂しい想いをさせないために出来るだけ一緒に居たいのか、それとも単純にロバート殿の性格なのか。
なんにせよ、うちの両親とは大違いだ。
「それにしてもアッシュ様は未来で、ルーク君は過去……ですか。」
お姉ちゃんがそう呟く。
「うむ、全く……未来に何が待っているのやら……」
「あまり未来のことを深く考えない方が良いぞ。兄上。」
自分にも言い聞かせるように俺は言った。
すると兄上は――
「貴様は怖くならぬのか?明日から全てが奪われるかもしれぬというのに?」
「そんなもん生きてりゃ何度でも来るもんだ。大切なのは今日をどうやって生きて、それをどうやって明日に繋げるかだ。」
「明日に……繋げる?」
「そう。今を生きて、少しずつ力や知識を蓄えて、明日のその時の為に選択肢を増やすんだ。」
俺が絶賛今やっていることのようにな。
「トリーシャ嬢のことに対しての相談した時と似たようなこと言っていたな。」
恋愛相談の時のやつだ。
「私のことに対しての相談?」
「い、いや!その……そこはあまり聞かないで欲しい……のだが……。」
「はぁ……でもルーク君の言う通りですよ?アッシュ様。未来に怯えてはなりません。未来は夢見るものですから。」
「「夢見るもの?」」
未来は夢見るものとはまた甘々な言葉が出たもんだな。
「はい!お父様が良く口にする言葉です!嵐の後に必ず晴れますから、今日出来ることを全てやって、耐え抜いて明日に夢を見るのです!要は今日頑張った者に明日が来ると!」
……ロバート殿、いつか地下労働施設でいきなりミニ缶ビールを他人に奢ったりしないよな?
「今日出来る事を全て……今日頑張った者に明日を……か。」
「はい!それでも不安でしたら私がいますので必ず言ってください!出来る事が少ないかもしれません、それでも隣にいられますから。勿論、ルーク君もです!ですよね?」
「…………まぁ……な。」
あまり自信持って頷けなかった。
俺の場合……不明な事はまだ多いが、ゲームシナリオという未来を知っているので慎重にならざるおえない。
無論、それまでに力と知識を出来るだけ蓄えるつもりだ。
だが、それでも死ぬことになるかもしれない。
死ぬこと自体、特に恐怖はない。
1度経験したものだし、2度や3度死んだ所で俺にとっちゃ変わらない……が、
……うん?また?
「未来のことはとりあえず未来で悩むとする。今度は貴様だ、ルーク。あの老婆は過去と言った。あと記憶と……ん?」
にゃー
みぃー
みゃーん
「うん?おおーぞろぞろと出てきたな。どっから来たんだ、お前ら?」
猫だ。大1で小2だから多分、家族かな?
そいつらが俺に寄ってきた。
「わぁー可愛い!」
「貴様……前から思ってたことだが、相変わらず動物に好かれるものだな。騎士団が飼ってる犬達とも仲が良いのだろう?」
「クドとライの事か?あいつらとは偶に遊ぶくらいだよ。仲が良い訳じゃない。」
「それを世間では仲が良いというのだが……兎に角、その猫達を追っ払え。噛まれて病気になられたら貴族界の笑いモノだ。」
「それもそうだな。悪いな。飯はあげられないんだ。ッシッシ」
狂犬病は流石に怖い。
「でも動物に好かれるというのはなんだか良いですね。やはり動物には優しい人が分かるのでしょうか?」
「俺は優しくなんかないよ。二度とそんなこと言わないでくれ。」
「……ルーク君?」
「…………。」
「…………とりあえず話はここまでしようぜ?お姉ちゃんも帰ったらやることはあるんだろ?おーいアルヴィン、馬車を呼んでくれー。」
◇ ◇ ◇
「ルーク君……。」
「…………。」
あやつの言葉の真意が分からぬまま、馬車を頼みにアルヴィン達の下に向かう弟の事を見守った。
(……ルークよ、お前の過去とはなんだ?あの屋敷で過ごした時間が……我らのすべてではないのか?)
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