占いを受ける兄弟

…………なんだ?この婆さんは……。


突然だった。


いきなりこの黒いコートを着た婆さんに俺らは声を掛けられた。


この世界の平民なら国柄や貴族によってだが視界に入るだけで無礼討されることがある世界だ。


場所によってだが貴族に直接声を掛けることが出来るのは同じ貴族か、その上の王族でしかない。


 

この婆さんはそのどれでもない。


なのにこの婆さんは誰にも通さず直接俺らに声を掛けてきた。


異常だ。


俺はともかく、戦闘慣れしてる兄上や護衛のアルヴィンさえこの婆さんに気づかなかった。


警戒心強く抱くアルヴィンが俺達兄弟の前に出た。


「何者だ貴様?此方の方々が貴族であると知っての狼藉か?」


「わたしゃこの町に新しく来た……ただのしがない占い師で御座います。貴族様とは知らず、大変無礼を……」


「であればとく失せよ。我が剣の錆になりたいか。」


「ですが、これもなにかの縁。貴族様に占いをしたとならば私もこの町に箔がつくというもの。どうか、お二人に占いをさせませぬか、騎士様。」


「貴様、私の言ったことを聞こえなかったのか!失せよ!」


「数奇な運命を持つ少年達を黙って見過ごせないものですよ。どうか、彼らの運命を伝えさせてはくれませぬか?」


「従う気がないと判断する。今、ここで切り捨てる!」

 

「………………キキッ。」


「っ!?待て!!アルヴィンッ!!」


「なんですか!ルーク坊ちゃん!?」


「とりあえず……とりあえず待て。アルヴィン……」


「何を言っているのですか!」


「良いから待てって言ってんだッ!!」


「…………ルーク?」


なんだ!?今の悪寒は!!

しかも俺よりも危機感のある3人が気づかないとは。

あのままアルヴィンに貴族の権威を振りかざせたら、この辺り一体が大変なことになってた予感がした。


「おい、婆さん!俺らを占いたいと……そう言ったな?」


「さよう。」


「…………分かった。占ってくれ。」


これには兄上も我慢できず俺の服を掴んで、問い掛ける。

 

(おい、貴様はあんな得体の知らない者を信用するのか!?)


(俺だってあの婆さんの言葉を信用するほどめでたい頭してないよ。)

 

(ならば何故だ!?)


(これが最善……だと思うからだよ。)


(…………そんなに危険な人物だと思うのか?ならこの場で切り捨てた方が良かろう?先に無礼を働いたのは向こうだ。)


(嫌な予感がするんだよ。それにここで無礼討でもしたらオルビット家からの印象が悪くなるかもしれん。お姉ちゃんの視察を気分良く終えさせたいんだ。)


(…っ………………分かった。)


納得してないが分かってくれたって感じだな。 

 

「相談は終わったのかえ?」


「ああ、占いは一人ずつでいいな?」


「うむ。」


「なら、俺から「いや、俺からにせよ。」お、おい!」


「……どうせ貴様は自分を囮にして、なにかあった時に我ら3人にあの老婆を袋叩きさせようという考えであろう?戦闘下手な貴様が囮になった所で何が出来るのだ。大人しく後ろに居ろ。」


「だからって次期当主のお前が出るとこじゃないだろ!いいから――「ならぬ!老婆よ、さっさとやれ!」」

 

「キキッ…………では、掌を……」


「その前に顔を見せよ。」


「顔を?ふむ……」


被ってたフードから出てきたのは何の変哲もない、ただの老婆だった。


「これで良いですかな?では、始めよう……」


そこから地味な光景だった。

広場のど真ん中に立って、婆さんが兄上の掌を揉んでただけ。

警戒する俺らをバカにするような光景だった。


「ふむ、なるほど……」


「分かったのか?では、さっさと言え。」


「そう焦るでない。安心なさい。わたしゃ我が子を殺したりしない。」


「何?」


…………我が子?


「おい、それはどういう「結果を言いましょう。」」


「いやぁ驚きましたねぇ。まだ不安定とは言え、全てを渇き殺す災いの太陽になるはずが、今やその輝きは人々を導くものになりつつある。良い出会いを得ましたねぇ……」


渇き殺す太陽になるはず?こいつ……

 

「ふん………………」


「だが、安心するにはまだ早い。」


「ん?」


「未来……未来の手があなたの大事なものを次々と奪いに来るであろう。気をつけなさい。そなたがそれに敗北した時、この世の全ては灰すら残らず燃えて消えるであろう……」


「…………未来……」


兄上が自分の掌を見つめながら戻ってきた。


「…………ルーク……」


「……その話は後にしよう、兄上。」


「……そうだな……」


「次は俺だな、掌を見せれば良いんだな?」


「さよう、では始めよう……」


……手を触られ、見られる。そして、この婆さんに触れられると妙に馴染む。



 

まるで…………


夜空が人の形になってそこで立っているような……




 

「…………孤独なる月よ。そなたに問いたい……」


「は?月?」


「…………何故、自身の記憶に蓋をかける?」


「…………どいうことだ……」


記憶って……こいつ……


いや、でもありえないはずだ!


俺は自分が転生者だなんて誰にも言ってないし、転生者だとほのめかせる行動だって何一つしていない!


「……なるほど、無自覚ということか……」


「テメェは……一体なんなんだ?」


「…………過去。」


「は?過去?……無視してんじゃねぇ!テメェは一体――――」


「過去からは逃げられない。過去の影は必ずそなたの脚を掴み、引きづり、飲み込む。そして、再び光無き闇の迷路に彷徨い続けることになるだろう。その過去に向き合わない限り、それは必ずそなたを追いかけ続ける。」


「何を訳の分からないことを――」


「忠告しておこう。心を開き、耳を傾け、目で周りを見渡せ。さすればその長く暗い洞窟の先に……光が見えてくるであろう…………………………。」


「…………え?」

 

「アッシュさまー!ルークくーん!」


「な!?お姉ちゃん!?」


このタイミングで戻ってくるのか!?


っ!!!

しまった!全員、あのババアから意識が離れた!


「っ!?いない!?おい、アルヴィン!あのババアはどこに行った!?」


振り向いたらそこにあのババアがいなかった。 

 

「え?な!?」


「なに!?」


「え!?」


俺らがあのババアが消えて焦っている所、遠くから声をかけてきたお姉ちゃんが走りながらこの場に戻った。


「はぁ……ふぅ……あれ?皆さん、どうかしましたか?汗も凄いのですが……」


「「「「…………………………」」」」


「皆さん?」


「…………なんでもないよ、お姉ちゃん。」


「ああ、なんでもない。気にしないでくれ、トリーシャ嬢……」


「はぁ………」


そんな会話した後、アルヴィンが近づいてきた。


(申し訳ありません。アッシュ様、ルーク様。俺は今から衛兵の詰め所に行き、今起こったことを説明しに行きます。あの老人の似顔絵も描いてもらいます。) 

 

(……そうだな。では、頼むぞ。)


いつもより真面目な口調で耳打ちしてきたアルヴィンに、兄上がそう応えた。






俺は…………なにも言わなかった。


確証はないが…………

 



あのババアの似顔絵を出したところで無意味だと思うからだ。

 

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