願う兄
「アッシュ様、こちらがご紹介したい品物の3点で御座います。」
奥から戻ってきた店主ギネルモが三つの小さな木箱を俺たちの前に一つずつ開けた。
「……これは!」
「わあ!どれも素敵です!」
「ふふ、お褒めに預かり感謝致します。」
開いた三つの箱から入っていたのはヘアピン、首飾り、そしてイヤリングだった。
ヘアピンは羽の形をした、青銀色のミスリルをベースに、青い月光石が小さく細かく沢山付けられている。
次の首飾りはチョーカー型で銀色チェーンをベースに、月と星の形に加工された森林石がエンドパーツとして付けられている
最後のイヤリングは金色の太陽を形したもので、その真ん中に紅聖石が付けられている。
どの品も美しく、丁寧に加工されている。
「予算内ですと……これらのどれか一つだけお売り出来ます。」
うん?
こんなに見事なものをあんな少ない予算で買うことが出来るのか?
「おい、ギネルモとやら。あの予算だけで本当にこれらのどれかを売るのか?言っておくが、俺は宝石品には多少の心得がある。これだけのものを一品だけとは言えあんな予算では足りないはずだ。なにを企んでいる?」
これだけの物を安く買い叩けるのなら運が良いと喜ぶ者がいるかもしれぬ。
だが、俺にはそれが返って怪しく見える。
「勿論、打算があっての値段で御座います。……ですが、今は選んで頂ければ幸いです。」
「貴族に理由を話さず、ただ選べと言うのか?貴様、それは命を懸けることになるぞ?」
「ええ、ここで命を懸けねば何を懸けましょうか。」
本気か?こやつは……
「信じましょう、アッシュ様。」
「……トリーシャ嬢?」
「大丈夫、悪いようにはならないはずです。」
一体、何を根拠に……
「…………」
………………
はぁ……分かった。分かったからその真っすぐな瞳で見つめないでくれ。
「はぁ……信じよう。」
「ふふ……」
「ありがとう御座います。では、どれか一つを選んで下さいませ。」
「うむ……」
さて……どれを選ぼうか。
あやつならば何を選ぶのか……
いや…………
あやつは……
『…………その上で私達に自分の考えを出させるような言い方で優しく語りかけていますね。』
あやつは自分の口で答えを出さぬ。
常に相手を悟らせるような言い方をする。
若干、面倒くさがってるだけの節があるがな。
だからこそ、ここで選ぶべきなのは俺だ。
あやつならばではなく、俺ならばだ。
だからきっと、これが答えだ。
「俺が選ぶのは――――」
――――――――――――――――――――
店の外に待機していたセッテとオルビットの騎士たちと共に、俺とトリーシャ嬢はルーク達と合流した。
なにやらアルヴィンと数人の平民の男達と真剣な目をして7人の武の英雄像の前で議論していたようだが、俺たちを見た途端、それぞれ別々の方向に向かって解散した。
「おかえりー兄上、お姉ちゃん。」
「ふふ……ただいま!ルーク君見てください!アッシュ様に選んで貰いました!」
「兄上が?へぇー青いヘアピンをチョイスするなんてやるやん。」
やん?相変わらずたまに変になるなこやつは……
「どうですか?」
「似合ってるよ、お姉ちゃん。前髪長かったから目をあまり見れなかったけど、片目だけとは言え凄く綺麗だ。」
俺もそう思う。
「ふふふ……そこまで褒められると恥ずかしくなっちゃいますね。」
「しかし兄上よ、石のことは良く分からんけど高そうじゃない?お金足りてたのか?」
「ああ、それはな――」
買った後のギネルモの
「ふーん、そんなやつがいたんだな。」
「ルーク君も気にしないのですね。」
「なにが?」
「店主のことですよ。」
「ああー……まぁ、衛生面と物の品質と価格さえしっかりしてれば気にすることなんてないだろ?店の人を口説きに来た訳でもないし。」
「ふふふ……」
「だからそう言ったであろう?トリーシャ嬢よ。」
「ですね!ふふふ……」
「?????????」
嗚呼、本当に訳の分からぬ弟だ。
でも、だからこそのこの光景があるかもしれぬ。
だからこそ、願いたいかもしれぬ。
この光景が……
いつまでも続くように…………と。
「では……」
うん?
「その……アッシュ様、ルーク君。まだ買いたい物がありますので少しだけ失礼しますね!」
頬を赤くして彼女はそう言った。
「なにかまだ必要なものがあるのか?であれ「兄上!」なんだ突然割り込んで?」
共に行こうと言おうとしたのだが……
「その……アッシュ様と一緒に……買うのはまだ……勇気が必要な物……でして……」
ん?
………………
ああーそうか。分かった。
「なるほど、した「ばっ!?兄上ェ!!!」何なのだ一体!!!」
「……アッシュ坊ちゃん……口は災いの元でございます。」
アルヴィンまで一体……
「その、なんだ……お姉ちゃん!俺達はここで待ってるからゆっくり行ってくれ!」
「ありがとうございます……///」
トリーシャ嬢はオルビットの騎士達と共にこの場から離れて行った。
振り返ると怒っているルーク、呆れているアルヴィンと表情があまり変わってないがセッテは怖い雰囲気を出している。
「兄上……」
「う……うむ。」
「お前はバカかぁぁあああああ!?!?!!!!!」
そして、俺は怒り心頭の弟に怒られた。
説教というほどではないが丁寧に説明されたことによって理解出来た。
まぁ……なんだ。
これは俺が悪いな。
だが……
ルークの怒りが収まって徐々に空気が緩くなった瞬間、まるでその時を待ったかのように
「キッキッキ……そこな赤髪の坊主達よ。占いに興味ないかい?」
「「「「っ!?」」」」
俺も、アルヴィンも、セッテも油断などしていなかった。
近づく気配には直ぐ反応出来るはずだった。
だがその占いを勧める黒ずくめの老婆は……
まるで……
最初からそこに居たかのように立っていた。
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1112☆、4134❤️、2534作品フォローと
201000PVありがとうございます!!
大変お待たせしてすみません。
ストックが無いのと、忙しいというわけでもないですが全く書けない状態ですので、次回の更新が終わったらまた途切れます。
コメントの返信はまた気力がある時にします。
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