婚約者とデートする兄


「あら?アッシュ様、ルーク君は?」


「そのルーク君に蹴られて、トリーシャ嬢の元に行けと言われたのだよ。」


「………まぁ。」


何故、そこで微笑むのだ?


「ふふ、あとでルーク君にお礼を言わないといけませんね。」


「そうか。」


しかし…………恋人らしい事をしていない……か……


「すまなかった、トリーシャ嬢……」


「うん?どうして謝るのですか?」


「君とルークとの街の視察が楽しかったのは本当だ。だが、それはルークがいることで婚約者である君との関係を弟と同列したことになる。」


「ルーク君も誘おうとお願いしたのは私ですよ?気にしないで良かったのでは?」


「それでも君の婚約者として情けないことをしたのは事実だ。だから謝らせてくれないか?」


あやつを頼らないと自分の婚約者にさえ向き合えない己が情けない。確かに蹴られても当然だ。


まぁ……最初はトリーシャ嬢の買い物のお供として俺を生贄にしようとしたのは許さぬがな。


「そう……ですか。」


「すまなかった。」


「…………ふふ、分かりました!では、あの宝石店の一品をプレゼントをしてくれたら許します!」


「ん?」



ああ……宝石を探していたのだったな。


宝石店マルテスか。


平民街に宝石店があるのは珍しいな。


平民向けに宝石を売っているのか?


平民は基本宝石を買うなどの余裕がないからあまり稼げないと思うが、今の俺にとってありがたいかもしれぬな。


政務に関わって小遣いも貰えるようになったが、それでもあまり貰えぬからな。


「行きましょう!アッシュ様!」


「うむ。」


彼女に手を引っ張られて、店に入った。


「あんな気持ちの悪い店主がいるとはな。」


「ねぇ、貴族街の方に行きましょう?デザインが良いのにあんな店主が作ったって知られたら、社交界で私が恥を掻くわ。」


「そうだな。全く、あんな者に店を構えさせるこの街の商人ギルドはどういうつもりだろうな?」


ん?今、すれ違ったのは…………ユリガ子爵夫妻か?

聞こえてきた話からすると俺とトリーシャ嬢に気付かないほどここの店主に問題があったのか?


まぁ、良い。

ここの店主が本当に問題があるなら、俺が直接商人ギルドに掛け合わせばいいか。


「なにやら不穏な話が出てきましたけど入りましょう、アッシュ様。私の勘なら、ここに良いものがあると言っていますから!」


海の物流を握るオルビット家の者ならばそういう勘というものも持っているのだろうか?


またもや手を引っ張られ、店に入った俺たちは数々の輝く宝石達に迎えられた。


「ほう…………」


「わぁ……これは想像以上ですね……」


母上から宝石の良し悪しを見て学んでたから分かる。

どれもこれも精巧に作られ、石の磨きも完璧だ。


先ほどの子爵夫妻はこれを見てなお、あんな言葉を吐きながら出て行ったのか?


「今日は貴族のお客様が良く来るわね……いらっしゃいませ。」


………………なるほど、そういうことか。


子爵夫妻が言っていたのはこののことだろう。

体つきも服も男のものだが、顔の厚い化粧と言動が女のそれだ。


「貴様がこの店の店主か?」


「はい、このマルテス宝石店のオーナーのギネルモで御座います。無礼も承知でお尋ねしますが、貴族様のお名前は?」


「そうか……我が名はアッシュ・ヴィ・アストラだ。このアストラ領の領主、ノエル・ヴィ・アストラの長男である。」


「な!?領主のご子息様ですって!?」


「慌てるな、この店の宝石は貴様が加工したのか?」


「は、はい……この店にある、全ての宝石は私が加工したもので御座います……」


「ふむ……どうだ、トリーシャ嬢?」


「はい、どれもこれも一級品ですね。オルビット領に来て欲しいくらいです。」


俺もそう思う。だが、トリーシャ嬢には悪いがこれ程のものを見て、この店を手放す気はないな。


「見事だ、ギネルモよ。」


「あ、ありがとうございます!」


「で、ギネルモよ。貴様に頼みたいものをあるのだが良いか? 

 

「はい、な……なんなりと……」


「我が婚約者の彼女に良いものを見繕って欲しい。予算はこれくらいだ。」


「これくらいなら……3点、ご紹介出来ます。少々お待ちを……」


そう言ってギネルモは店の奥に行った。


「……アッシュ様はあの店主の見た目は気にならないのですか?」


「どうしてそんな事を聞くのだ?」


「失礼なこと言いますけど、アッシュ様は先ほどの子爵夫妻と同じ反応をすると思っていたものですから。」


「そうか……」


否定はせぬ。


「気ならないとは嘘になる。ただ……」


「……ただ?」


「あやつならばこう言うのではないか?『店の人を口説きに来た訳じゃないんだから、良いものを売ってるなら別に良いんじゃないか?』とな。」


「……ふ、ふふふ、あははは!」


「笑うのは酷いではないか?」


「ごめんなさい。ふふ、でも確かにルーク君ならそう言いそうですね!それにルーク君のモノマネ、上手かったですよ?」


「からかうな。トリーシャ嬢……」


あやつのマネをしてたわけではないのだが、そんなに似ていたのか?


解せぬ。


「ふふふ……あはは!」


だから笑うなと……まぁ、楽しそうならばいか……


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929☆、3413❤️、2327作品フォローと




167000PVありがとうございます!!


お待たせしてすみません。





 

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