彷徨う兄 後編(アッシュ視点)
ヤツがやって来た
今、ヤツはあの扉の向こう側にいる。
「………………」
トトトン……
「おーい、あーにうーえよーあーそーぼー」
「……開けましょうか?」
「絶対開けるな、開けたら許さんぞ……」
と、ボソッと話し合ったのだが……
「今の聞こえたぞ!ええからはよこの扉を開げんがいぃ」
バンバンバン!
朝っぱらからなんと煩い。
バンバンバン!
「兄上よー雪だるまつくろー?扉を開けてー?」
「っぷふ、扉を開けた方が面倒くさくないと思いますよ?アッシュ坊ちゃま?」
「絶対に開けるな。」
あと、今は夏だ。雪だるまなぞ作れん。
バンバンバン!
「おーい!兄上君!ヤキュウしよーぜ!」
「ええい、貴様に用はない!消え失せろ!」
「俺はある!だから扉を開けろ!」
バンバンバンバンバンバンバン!!
「用はないと言っているであろう!!!どこかに行け!!!」
..........そして、煩いノック音がピタッと止まる。
「…………行った……か?」
「ふふ……どうでしょう?」
俺達がそう言った瞬間……
バンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバンバン!!!!!!!
「デけろ!!開けルーク市警だァ!!」
ああーもう煩い!!! 意味の分からん言葉叫びながら叩くでない!!扉を壊す気か!?
「ええい、喧しい!!!一体何の用だ貴様あああーー!?!」
「お、やっと開けた。」
「はぁ……はぁ……」
こやつを相手にするだけで何故こんなに疲れなければならんのだ……
「おはよう!兄上よ、飯は食べたか?今すぐ着替えろ!出掛けるぞ!セッテもいるな?お前も来い!」
「畏まりました、アッシュ坊ちゃま、着替えましょう。」
「セッテ、貴様は何故こやつに協力的なのだ?まさか、最初からこんなことになるよう企てたのか?」
「セッテに頼んだのは、兄上が起きて、食ったかどうかを俺に伝えて欲しいだけだぞ。全然降りて来ねぇからな。」
ご飯はまだだが、確かに起きてるからこやつはこうやって襲撃してきたのだろうな。
「はい、それだけですね。先程までの一連の流れを私は存じておりませんでした。企てなど御座いません。」
「…………そうか。それで?貴様の用とはなんだ?」
「いやー、昨日は言い過ぎてしまったかと思って謝りたかったんだよ。」
謝る?
こやつが?
「というわけで、出掛けよう!」
「何故そうなる!?謝るだけならここでもよかろう!そもそも、貴様が謝るようなっ!……いや、いい。」
「そうか?じゃあ、門扉の方で待ってるぞ。」
「あ、ルーク坊ちゃま!護衛はどうするのですか?」
「アルヴィンに頼んだー。」
そう言って、ヤツは去っていった。
そして、俺は着替えさせられていた。
因みにアルヴィンとは前、訓練でヤツに殴られて吐いた我が家の騎士の男だ。
◇ ◇ ◇
「お、来たな兄上!じゃ、アルヴィン、頼んだぞ!」
「畏まりましたー……ったくなんで俺が?ボソッ」
「ヨーシ!出発進行ォー!」
「またワケの分からぬ言葉を……大体、どこへ行くつもりだ?あの父上にどうやって外出許可を得た?」
「町を守るあの壁のてっぺんだ!そして、許可なら父上に駄々をこねた!弟特権というやつよ。」
「……そうか。」
「あの、ルーク様馬車には乗らないのですか?」
「え゛、馬車?ば、馬車はほら……毎回毎回乗るのもアレだし?我ら人族には歩くための脚があるからな!偶には使うべきだ!うん!」
「左様ですか。」
そんなこんなで下民に……領民に歩く俺達を見られながら俺達は衛兵が守る、壁の上へ登るための場所に辿り着いた。
結構な距離を歩いたが、鍛えてるからあまり気にならぬ。
すると、衛兵が俺達を呼び止めた。
「ここは関係者以外の出入りを禁止されています。お引き取りを…」
「俺達はアストラ家の者だ、視察だよ視察。セッテ、渡してくれ。」
「こちらを。」
手紙を渡された衛兵が驚いた
「領主様の関係者なのですか!?少々、お待ちを……」
しばらくしたらもう一人を引き連れて衛兵が戻ってきた。連れてきたのはここの責任者だろう。
軽い挨拶を交わした後、責任者が言った。
「手紙を拝見致しました、領主様の御子息様方ですね。視察とのことですが、此方から案内役を一人付けさせて頂くのですが……よろしいでしょうか?」
「わかった。ありがとう!では、頼むよ!」
それから最初に言葉交わした衛兵を案内役として俺達を上まで案内した。
「少々寒いですが、上はいい眺めですよ。」
ヤツが衛兵と雑談しながら、俺たちは螺旋階段を登る。
すると……
「うお、まぶ!」
「ここ、こんな眺めだったんだな……」
「素敵な景色ですね。」
そして、最後に登り上がれた俺は……
「…………美しい。」
広がる世界に圧倒された。
「綺麗だろ?いやー兄上を連れてきた甲斐があった!」
「…………貴様は何故、俺を此処へ連れてきた?」
「お詫びだって言ったはずなんだけど?」
「それなら屋敷ででも良かったはずだ。」
「まぁ、そうだな。」
ヤツはしばらく考えたあと、口を開いた。
「特にないな!」
「は?」
「俺としては綺麗な景色を見せたかったとかの理由を色々言えるけど、そんな答えを求めてないだろ?」
「ああ……」
「で、貴族の子って言われても基本何も持っていない子供だからな。小遣いも貰ってないし、昨日の帰りの馬車から見た、ここしか思いつかなかったんだよ。」
「…………」
「だから、理由として特になにもない。ただ……」
「ただ?」
「何も持っていない子供だとしても、人の努力を否定したくない。それをしてしまったから、こうやって謝ろうとしているんだよ。」
「……それこそ、貴様が謝るようなものではないであろう…俺は己の力が明らかになって、それに酔っていたに過ぎん……」
「…………兄上よ、風邪か?いつもの傲岸不遜な態度はどうした?」
「突き落とすぞ。」
「はは……冗談だ!まぁ…それでも謝りたかったさ。何せ、その力を身に付ける為に兄上は努力してきたからな、多少それに酔ったって罰は当たらんかっただろうよ。」
「俺が努力したかなんて知らぬだろう……」
俺が本格的に訓練したのは6歳だ。先週の訓練まで訓練場にヤツは顔を出さなかったハズだ。
「いや、知ってるぞ?ずっと見てたからな。」
「は?」
「3年前、兄上に殴られた後、木の枝持って裏庭で木を叩いてただろう?あと、俺が書庫を使ってない時に変わりに入り浸ってただろう?えーと…あと、なんだっけ?」
「訓練の日の時も傷だらけで帰るし、試験前の朝にちょっと目の隈が出来てたりしてたな?」
父や母が、それどころかセッテの前の専属メイドでさえ気づかなかったことをこやつが?
み、見てたというのか?あの日から、ずっと?
「別にストーキングしてたワケじゃないぞ?裏庭は俺の部屋じゃぁ丸見えだし、書庫だって半ば俺のオアシスだ。なんの本が入れ変わったか、一目で分かる。」
「兎に角、まぁ…兄上が頑張ってたのは知ってる。だから、謝らせてくれ。」
…………
「すまなかった、兄上。」
「あ...ああ、許す。」
今の話に正直言って、頭が真っ白になっている。
恥ずかしさなのか、あの狭い屋敷に俺を認めてた者がいたことに驚いているのか、それとも何故それを先に言わなかったことに対しての憤慨なのか、色んな感情が混ざり合って分からなくなっている。
ただ……ただ、一つだけ聞きたいことが出来た。
「そろそろ暑くなるから降りるぞ、兄上。」
「
「ん?」
「貴様は何故……俺
「おいおい、本当に風邪か?まぁ、大した理由はないんだが……」
「いいから教えよ!」
「単純に頑張ってるヤツが好きなだけだよ。そうだな、そういうやつはあの
「そうか」
それに俺が精一杯吐き出せた言葉はそれだけだった
「おーい、置いていくぞー兄上ー」
全く……本当に……ワケの分からぬ弟だ。
==========
話をどう持って行けばいいのか分からなかった。
あと、ブレ○イめっちゃ楽しかった。
長くなってすみません。
星とハートと4000PVありがとうございます。
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